ニッポン人にとって、防衛線は戦力差10倍から
夜明け前。
まだ空が藍色の中、ベルダンの城壁に低い太鼓の音が響く。
森の奥から、黒い波のような魔族の軍勢が迫ってきていた。
ガルザーク軍、三千。
人族五百の守備隊を飲み込むには十分すぎる数。
城壁の上で、兵士たちは剣を握る手を汗で湿らせていた。
その中を、四人の日本兵がゆっくりと歩く。
特攻兵は飛行帽を締め、占守島の守将は槍を肩に担ぎ、アッツ島の男は無言で刃を研ぎ、硫黄島の将は油壺を両腕に抱えていた。
「来たな……」特攻兵が低く呟く。
城門前に並ぶ魔族の先頭が咆哮を上げた瞬間、太鼓が鳴り響き、突撃が始まる。
地響きと共に黒い影が迫る――
その光景に、兵士たちの喉が鳴った。
「……怯えるな」
占守島の守将の低い声が、すぐ隣の兵士の耳に落ちる。
「相手は人間じゃない!」「だから何だ。殺せば死ぬ」
最初の衝撃が城門を揺らした瞬間、特攻兵が叫んだ。
「油を落とせ!」
硫黄島の将が仕掛けていた油壺が一斉に落とされ、魔族の前列を滑らせて転倒させる。
そこへ雨のような矢が降り注ぎ、十数体が地に伏す。
「門を開けろ!」
城門がわずかに開き、アッツ島の男が先陣を切って飛び出した。
獣のような咆哮と共に敵陣へ突っ込み、二、三の首を刎ね、返す刃で背後の敵を薙ぎ払う。
その後ろを特攻兵が走り抜け、槍衾を抜けて指揮官らしき魔族の首を一撃で飛ばした。
敵陣が揺らぐ。
その混乱の中、占守島の守将が城壁の上から号令を飛ばし、兵士たちが一斉に矢を放つ。
魔族の突撃は一瞬で止まり、陣形が崩れた。
城内の兵士たちが息を呑む光景があった。
特攻兵の肩には矢が突き刺さっていたが、本人はそれを引き抜き、唾をつけて再び剣を握っていたのだ。
血が滲むどころか、傷口はすでにふさがり始めている。
「ば……化け物かよ……」味方の兵が思わず呟く。
しかし魔族側にも異変が走っていた。
城門前に立つ巨躯――ガルザークが、じっと四人を見ている。
その眼光には、僅かに笑みが浮かんでいた。
「……あれが“死なぬ四鬼”か。面白い」
ガルザークが片手を上げると、後方から異形の騎兵隊が現れた。
「勇者を殺した我が槍で、貴様らも串刺しにしてやる」
騎兵隊が突撃を開始。
だが、四人は怯まずに前へ出た。
アッツ島の男が真っ向から騎兵を受け止め、馬ごと斬り倒す。
占守島の守将は槍で二騎を一度に貫き、硫黄島の将は爆炎で進路を焼き払う。
特攻兵は空いた側面から敵指揮官を狙い、首を刎ねた。
その戦いぶりに、城内の兵士たちが叫び始めた。
「行けるぞ! 勝てる!」
「押し返せ!」
士気は最高潮に達し、魔族軍はじわじわと押し戻されていく。
ガルザークはそれを見て、僅かに眉をひそめた。
「……勇者共とは違うな。だが――必ず殺す」