ニッポン人、魔族にバレる
魔族の報告
その夜、ベルダンから二十キロ離れた森の奥。
魔族軍の野営地は焚き火の明かりと血の匂いに満ちていた。
巨大な天幕の中、漆黒の鎧をまとった長身の魔族が地図を睨んでいる。
この包囲軍を率いる将――ガルザーク。
人族の都市をいくつも陥とし、その名を恐れられてきた戦鬼だ。
そこへ、顔に深い裂傷を負った部下の魔族兵が駆け込む。
「……報告いたします」
「聞け」ガルザークの声は低く重い。
「本日、西側補給路を襲撃しましたが――不明の四人の戦士が現れ、我が隊は壊滅しました」
「四人だと?」
「はっ。四人、だけです」
魔族兵の声が震える。
「奴らは……人間でした。だが、速さも力も常軌を逸している。
矢を受けても怯まず、片腕で馬車を引き、我らの前衛を一撃で薙ぎ倒しました」
「武器は?」
「ありふれた剣と槍、油壺。それだけで……」
ガルザークは眉をひそめた。
「……名は?」
「不明です。ですが兵たちはこう呼びました――“死なぬ四鬼”と」
天幕の奥で、もう一人の魔族が鼻で笑う。
「人間が死なぬ? 笑わせるな」
しかしガルザークは笑わなかった。地図の上で、ベルダンの位置を指でなぞり、低く呟く。
「……興味深い。明日の総攻撃、まずはその四人を潰せ」
魔族兵の背筋に冷たいものが走った。
あの四人が、本当に殺せる相手なのか――自信は、まるでなかった。