ニッポン人、戦場を去る
魔王が斃れてから三日、戦場には静けさが戻っていた。
魔族は各地で降伏し、人族はようやく安堵の息を吐く。
城門前では、瓦礫の山を背に勝利の旗がはためいていた。
特攻兵たち四人は、勝利の宴には加わらなかった。
彼らは前線跡地の丘に立ち、燃えるような夕陽を背に黙って空を見上げていた。
「……終わったな」
占守島の守将が静かに呟く。
「ああ。だが、戦士の務めはまだ残ってる」
硫黄島の将は遠くの山々を見やり、警戒を怠らない。
アッツ島の男は口元を緩めた。
「戦いのない日が来るまで、この世界を守る。それが俺たちの役目だろ」
そのとき、柔らかな光が四人を包んだ。
振り返ると、女神アマテラスがそこに立っていた。
白い衣が風に揺れ、微笑みが戦場を優しく照らす。
「よくやりました、ニッポン人たちよ」
彼女の声は、まるで母のように温かい。
「あなたたちの“日本人”という魂は、この世界でさらに強くなり、人族に希望をもたらしました」
特攻兵が一歩前に出る。
「……女神、俺たちはもう元の世界には戻れねぇんだろ?」
「ええ。ですが、あなたたちなら、この世界でも誇り高く生きていける」
アマテラスは少し笑って続けた。
「心配はいりません。あなたたちが牙をむくのは、再び世界を脅かす者だけ。貴族や上級国民を倒す必要も……たぶん、ないでしょう」
四人は顔を見合わせ、苦笑した。
「まあ、平和に暮らせるならそれでいい」
女神は光の中に消えていった。
残されたのは、戦火を越えた静かな夕暮れと、四人の背中だけ。
そして、彼らの名はこの世界で――
“ニッポン人” として永遠に語り継がれることになる。