ニッポン人、魔王城前総力戦
夜明けと共に、魔王城の尖塔が朝日に黒く浮かび上がった。
その前には、黒鉄の鎧を纏った魔族兵と、魔方陣から現れた異形の戦士たちが整然と並ぶ。
彼らは人の形をしているが、眼は血のように赤く、肌は灰色に干からびていた。
古の戦場で神々に封じられたという、“古き戦士”――死を恐れぬ兵の化身である。
「突撃準備!」
特攻兵の号令と共に、人族連合軍の旗が翻る。
太鼓が鳴り響き、地面が震える。
先陣を切ったのは占守島の守将だった。
槍の突きで古き戦士の喉を貫くが、奴は血を噴きながらも倒れず、腕で槍を掴んだ。
「……本当に死なねぇのか」
硫黄島の将が背後から火薬瓶を叩きつけ、爆炎が戦士を包む。
黒焦げになってようやく地に伏した。
「手間のかかる奴らだ……だが倒せないわけじゃない」
アッツ島の男は刀を振り抜き、二体を同時に斬り捨てる。
古き戦士の首が飛び、今度は動かなくなった。
「要は首か心臓だな」
特攻兵は前線を突破しながら怒鳴る。
「心臓を狙え! それ以外は時間の無駄だ!」
連合軍が呼応し、戦場は次第に押し返していく。
だが、魔族の号令で城門上から矢の雨が降り注いだ。
負傷兵の叫びが響く。
「全軍、城門まで突き進め!」
特攻兵が叫び、4人が先頭に立つ。
巨大な古き戦士が道を塞ぐが、硫黄島の将が爆薬で吹き飛ばし、占守島とアッツ島が左右から斬り裂く。
ついに城門が視界に入ったその時――
轟音と共に城門が内側から開かれ、漆黒のマントを翻した魔王が姿を現した。
「ようやく来たか、ニッポン人……」
戦場の喧騒が、一瞬にして凍りついた。