ニッポン人、魔王の新たなる刺客と対峙す
グラスト要塞奥深くの謁見の間に、重い空気が漂っていた。
二千名の米兵が敗れた報告に、魔族将校たちは顔を伏せる。
玉座に座る魔王の指が、肘掛けを無言で叩く。
「……異世界最強の軍隊が、たった四人に崩されたと?」
声は低く、しかし刃のような冷たさを帯びていた。
「は、はい……彼らは洗脳されていたとはいえ……」
報告を終える前に、魔王の拳が肘掛けを砕いた。
「理由は聞きたくない。必要なのは勝利だ」
魔王は立ち上がり、玉座の背後にある黒曜石の祭壇に歩み寄る。
両手を広げ、低く呪文を唱えると、空間が歪み、裂け目から異様な光があふれた。
そこから現れたのは――
漆黒の甲冑を纏った巨躯の男。
顔は鉄仮面に覆われ、背には二メートルを超える大剣。
その足元には、鋼の義手と義足を備えた四名の戦士が控えていた。
「彼らは……」
魔族将が息を呑む。
魔王は口角を吊り上げる。
「かつて数多の世界で戦乱を終わらせた“処刑部隊”だ。
任務はただ一つ――ニッポン人四人を狩ること」
裂け目の向こうから吹き込む風が、血の匂いを運んでくる。
鉄仮面の巨人が低く呟いた。
「標的はどこだ」
「北西戦線だ。逃げ道は与えるな」
魔王の命令に、巨人は静かに頷いた。
その頃、前線の野営地。
特攻兵は夜警の交代を見回っていたが、ふと空気の重さに気付く。
遠く、森の向こうから、異様な圧が迫ってきていた。
「……来るぞ。今までの奴らとは違う」
暗闇の中、鉄の足音が響き始めた――。