ニッポン人、魔族の大要塞を揺るがす
進軍開始から六日目。
人族軍はついに、魔族領奥地の象徴〈グラスト要塞〉を視界に捉えた。
黒々とした石壁は三重に重なり、城門は鋼で覆われ、塔には魔法陣が刻まれている。
高さは二十メートル、幅は五百メートル――正面からの攻撃は自殺行為に等しかった。
「化け物みてぇな城だな」アッツ島の男が口笛を吹く。
「正面はやめとけ、間違いなく死ぬ」硫黄島の将が即答する。
占守島の守将は黙って地図を見つめ、やがて口を開いた。
「構造を知らなければ落とせない。今夜、俺たちだけで中に入る」
特攻兵が笑った。
「偵察って言葉、俺たちに似合わねぇな」
夜。
四人は闇に紛れ、外壁の影へ忍び寄る。
見張り台の魔族兵を音もなく無力化し、縄鉤で壁を登る。
城壁の上から見下ろせば、中庭には兵舎、物資庫、魔法砲台が並んでいた。
「……ここを焼けば、補給も防衛も麻痺する」
硫黄島の将が油壺を取り出す。
次の瞬間、物資庫が爆炎に包まれた。
同時にアッツ島の男が兵舎に突入し、敵を斬り倒す。
占守島の守将は槍で魔法砲台の魔石を破壊し、特攻兵は鐘楼を制圧して警報を封じた。
だが、完全な制圧は不可能だった。
奥の城門から魔族の増援が雪崩れ込み、数で押し返してくる。
「引き際だ」
特攻兵の一言で全員が跳躍し、外壁から闇へと消える。
背後では、炎に照らされた魔族たちが怒声を上げていた。
その夜、グラスト要塞は半日以上、内部が混乱し続けた。
だが魔族たちの胸に残ったのは、怒りよりも別の感情――
「あれほどの防備を持つ要塞に入り込み、半壊させて去った四人がいる」
恐怖と警戒は、要塞の城壁よりも高く積み上がっていった。