ニッポン人、魔族領奥深くへの進軍開始
北西戦線の平原に、凛とした朝の空気が漂っていた。
昨日まで魔族の軍旗が翻っていた丘には、人族の旗が高く掲げられている。
砦を落とし、将軍ドレグザを討ち取った勢いは、兵たちの胸を熱くしていた。
「このまま守りに入るか?」
現地司令官が問うと、特攻兵は笑って首を振った。
「いや、殴れる時に殴り続けるのが戦だ」
占守島の守将が地図に指を走らせる。
「目標はこの谷。ここを抜ければ、魔族領奥地への街道が開ける」
アッツ島の男は剣を磨きながら言う。
「攻めに転じるなら、兵の気持ちが冷めないうちがいい」
硫黄島の将は背負った油壺を軽く叩き、にやりと笑った。
「行軍中に補給は期待できねぇぞ。全員、腹を決めろ」
その言葉に、兵たちは顔を見合わせたが、誰一人引く者はいなかった。
砦攻めや野戦を共にし、“ニッポン人”の背中を見た彼らにとって、進軍は恐怖ではなく誇りだった。
行軍初日。
四人は最前列に立ち、先頭で道を切り開く。
夜営では敵の奇襲を想定して塹壕を掘らせ、焚き火の位置や見張りの交代時間まで徹底して管理する。
その厳しさは尋常ではなかったが、兵たちは不思議と不満を口にしなかった。
――それが、翌朝には自分たちの命を守ることを知っていたからだ。
一方、進軍の報は魔族領にも届いていた。
山間の監視塔で、偵察兵が震える声を上げる。
「……来る。砦を落とし、将軍を討った“死なぬ四鬼”が……」
その報告は瞬く間に奥地の城砦へ伝わり、魔族将校たちは戦慄した。
「迎え撃つか?」
「いや、野戦では奴らに勝てぬ。罠を張るしかない」
こうして、四人の進軍と、魔族領の迎撃態勢は、静かに交錯し始めていた――。