ニッポン人、魔族の砦を落とす
討伐軍を退けてから数日後。
占守島の守将が広げた地図には、魔族領内の補給拠点と前線拠点が記されていた。
その中でも、ベルダンから北西に一日の距離にある小高い丘の砦〈バルゴ〉が目を引いた。
「この砦を落とせば、北西方面の魔族は孤立する」
「兵力は?」特攻兵が尋ねる。
「百五十。だが丘の上に築かれており、正面から行けば被害は甚大」
「なら、正面からは行かねぇ」アッツ島の男が口角を吊り上げた。
四人は夜明け前、三十名の現地兵を連れて出発した。
目指すは正面門ではなく、丘の裏手の断崖。
硫黄島の将が事前に集めた縄と鉤を使い、闇の中を音もなく登っていく。
見張りの魔族兵が欠伸をしているところへ、特攻兵が背後から近づき、一撃で沈める。
アッツ島の男は屋根伝いに移動し、門の内側へ潜入。
占守島の守将が裏門を開け放ち、合図の火矢を夜空に放った。
その瞬間、丘の下で待機していた現地兵たちが一斉に駆け上がる。
砦内は混乱し、魔族兵は防御態勢を整える前に各個撃破されていった。
硫黄島の将は物資庫に油壺を投げ込み、火を放つ。
炎が砦全体を包み、逃げ場を失った魔族兵たちは門から雪崩のように外へ飛び出す。
「追うな」特攻兵の一声で現地兵の足が止まる。
「戦意をなくした奴は殺さない。それが俺たちのやり方だ」
魔族兵は恐怖に満ちた目で丘を見上げた。
炎を背に立つ四人の人影――その光景は、二度と忘れられない悪夢となる。
夜明けとともに、〈バルゴ〉は完全に陥落した。
人族の旗が丘の上にはためき、ベルダンから北西の戦線は一気に押し戻された。
この戦果は瞬く間に広がり、魔族領ではこう囁かれるようになった。
「ニッポン人は、砦をも喰らう」