ニッポン人、戦勝の宴を開く
ベルダン防衛戦から三日。
城内は、まだあの日の熱狂を残していた。
魔族軍三千を退けたという事実は、絶望していた人々にとって奇跡以外の何物でもない。
そして、その奇跡を起こした四人の男――“ニッポン人”の噂は、兵士から市民、商人にまで広がっていた。
その夜、城の広場に大きな焚き火が焚かれ、酒樽と食料が並べられた。
現地の領主代理はどこかに姿を消しており、代わりに兵士たちが自主的に戦勝の宴を催したのだ。
「これがこの街の酒か……悪くねぇな」
特攻兵が木杯を一気にあおり、鼻で笑った。
「ただ、もうちょい冷えてりゃ最高だったがな」
「贅沢言うな。ここの連中にしては上等だ」
占守島の守将は、焼いた獣肉を噛みちぎりながら言った。
その食べっぷりを見て、近くの兵士が小声で囁く。
「あんな体格の人間、見たことねぇ……」
アッツ島の男は、酒よりも肉よりも周囲の空気を楽しんでいた。
兵士たちが笑い、歌い、杯を交わす光景をじっと眺め、低く呟く。
「……こういう顔を、守るために戦ってんだよな」
硫黄島の将は酒杯を置き、近くの若い兵士に話しかけた。
「お前、あの時退却命令を無視して補給車を押してただろう」
「は、はいっ! すみません勝手な真似を……」
「謝るな。あれで飯が食えた。立派な戦果だ」
その一言に、若い兵士は目を丸くし、やがて胸を張った。
焚き火の明かりが広場を赤く染め、笑い声と歌声が夜空に溶けていく。
だが、特攻兵はふと視線を北の闇に向けた。
そこには、宴の光が届かない影があった。
「……来るな」
「魔族か?」占守島の守将が低く問う。
「ああ。戦は終わっちゃいねぇ」特攻兵の声は静かだった。
その直後、城門の外を巡回していた斥候が駆け込んできた。
「報告! 森の奥で、見たことのない魔族の小隊を確認!」
宴のざわめきが止まり、兵士たちが武器に手を伸ばす。
だが、特攻兵は杯を置き、ニヤリと笑った。
「宴は終わりだ。――次の戦場に行くぞ」