13.意味を与えよ青年よ
「ありがとう。」
僕は、最後にこう言うだろう。
ちょっとした想いに馳せ、ふと我に返り、老人には家族がいないことがわかった。せめて、僕と最後を共にしようと、老人のベッドに向かい、そこで座った。
自然と涙が出た。死ぬんだな。死ぬんだな。
老人は口を開けて何かをつぶやいた。僕は耳を近づけた。
「いるか・・いるか・・」
僕は、はい、と返事をした。
「そうか。儂はもう死ぬ。」
「そんなこと言わないでください。」
「いや、わかるのだ。あと、4時間ぐらいで死ぬのだ。」
僕は間を開けていった。
「きっと、天国でしょうね。」
老人は、涙で顔が濡れていた。いきなり、怒号とでもいうでき言葉が出てきた。
「ああ、そうだ。ああ、そうだ!天国だと信じたいよ!今すぐにでも信じたいよ!今すぐにでも、永遠なんてものを、永遠を、娯楽を、信じたいよ!」
「でも、天国なんてものはない。少なくとも、存在しない。天国は、人を、人を救うためのものだ。」
「天国がないなら、死の先は何か。」
「無だ。」
「嫌だ、嫌だ、死にたくない、死にたくない、死にたくない。
無になんてなりたくない。死にたくない、死にたくない。うう・・」
僕は、その言葉に触れ、闇に吸い込まれるような感触がした。
「死んだら何も残らない。だとしたら、僕が今、今まで積み上げてきた物の全てが、」
「無意味になる。」
「ああ、死ぬ!死にたくない!死にたくない。」
僕は、その言葉に衝撃を受けた。
「そんな・・そんな・・」
僕は反論する。
「そんな!あなたの理論は間違っている!あなたの行動は、僕を救った!絶望から救いあげてくれた!
少なくとも、あなたは、僕の心の中で生き続ける!絶対に忘れない!」
老人はそれに答える。
「でも。でも、でも!儂の命に、生命に合わせないと、いけないんだよ!」
「もう、何の意味もなかったんだ。」
僕は膝を叩く。自分を鼓舞するためだろうか。それとも、何の意味もないかもしれない。
気付くと、暴れていたようで、シーツはぐちゃぐちゃになっていて、中途半端だった。
「そんなはずはない!絶対にあなたの命に意味はあった!死んでも、たとえ死の先が、無であっても!絶対に!」
「絶対に!」
「絶対に!」
「絶対に!」
僕は涙を流しながら、息が途切れた。老人は心拍数が乱れ、もう死ぬ僅かな最後に僕の手を熱く握る。
「そうか。ならば、ならば、ならば!
儂の命に、意味を見出してくれ・・・・」
「青年よ・・」
最後にいって、信じてくれたあなたは、どんな悪人でも、信じてくれた、あの日から、そんな優しいあなたが、教えてくれたあなたが、今日を、明日を、勇気づけてくれたあなたが、そんなあなたが!
永眠した。
僕は、あなたの手帳に、書く。
「信じてくれたのは、あなただけだった。かっこよかった。ありがとう、ありがとう、ありがとう。」
と。
僕は、言えなかった、最後の思いを伝えることができた。
13話。ついにここまでくるとは思っていなかった。25話で終わるかも。