10.苦悩の果てに何かが待っている
主人公は心が闇に包まれ、人は行き場を失い、虚無に怯える。
私はそこに寄り添って、静かに光を灯したい。
気付くと、知らない部屋に閉じ込められていて、僕は真っ先に、警察を疑った。だが、そうでもないようで、畳で覆われていることから、警察署ではあまり見かけないから、警察署ではないことがわかった。どこか暖かい雰囲気であった。暖かい雰囲気を保ちながら、何者かが、将棋を打つ音が聞こえた。僕は、疑いつつも、暖かいベッドで、二度寝をした。
僕は夢を見る。
部屋に居る。知らない部屋に。そして、それは何十回も抜け出そうとするが、なかなか障子が開かない。くそう。なぜだ。ここには照明がない。明かりがない。何も見えない中で、手あたり次第、逃げ出そうとする。障子を破ろうとしても、なぜか破れない。どのようになっているのか、見たいだけなのに、明かりがないから見ることは出来ない。どうすればいいのだろう。そして空腹になった。ああ、ご飯が食べたい。抜け出したい。どうやらここには、飯らしきものがない。くそう。出してくれ、出してくれ。
障子を破る。何度でも、何度でも、何度でも。ああ、出たい。出たい。
障子を破る手は止まらない。だが、その時、上から重力を感じ、床に締め付けられる。
心臓が押され、胃が押され、全ての臓器が、押された。
「うおおおおお!」
ああ、死ぬ。息が途絶えそうだ。ああ、死ぬ。吐血する。吐く。
締め付けられる。心臓は縮まり、手が圧縮され、血しぶきが舞う。痛い、痛い、痛い。
もはや手足は、死んでいて、心臓もじきに終わるだろう。脳も、全て。本当に痛い。助けて、助けて、助けて。
全ての臓器が血しぶきを上げ、息が途絶えるまでの数秒間、僕が殺した、地主、軍人が、一斉に集まり、
「痛いでしょ、十分苦しめ。」
といって、持っていたナイフを一斉に、僕の腹に突き刺した。
悲鳴を上げた。そんな気がした。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
僕は思わず、叫ぶ。ベッドから飛び起きて、われに返った瞬間、知らない老人が座っていて、笑みを浮かべながら、
「うなされておるな。悪夢でも見たのかのう。」
と、いったものである。
その老人は年がかなり老けて見えた。
「しっかし、いきなり道に、人がおるでのう。心配じゃから、儂の家に泊めさせたわい。」
そうですか、と返事をした。そして、家がない事情を話した。
「僕には家がないんです。身分とか、働いてすらもないんで。」
そういうと、その老人は、すんなりと、
「そうか。それは災難だったな。なら、当分、儂の家に泊まるといい。ただ、儂もいつ死ぬか、わからない身でのう。それでも大丈夫なら、泊まるといいさ。」
僕は、その言葉に、何か暖かいものを感じながら、はい、と返事をした。
せめてお手伝いでも、といいたいところに、
「儂がやる。」
、と言ってくれた。
身に染みる。涙が零れそうだ。
すっかり夜になると、老人は、酒を持って、
「一緒に飲まんか。」
、と誘ってきたので、僕は恩返しに、と思って、酒を交わした。
そして、老人は、酒を持って語り始めた。
「儂はな、とんでもない悪人だったんじゃよ。」
と衝撃的な話をしたのである。
「儂は悪人だった。盗みや殺人は当然、領主を暗殺して、この世を憎んだ。
最初の盗みは、屋敷にある金銀財宝だった。当時の儂は金がなかったんじゃよ。だからこそ、儂は不平等なこの世を憎んだ。この世の全てを否定した。いえば、反抗期じゃよ。反抗期でだった。
そして、盗むために、屋敷の住人を全員毒殺した。人を殺した。そして、領主が、賃料を払えと、言ってきた。でも、金銀財宝を庶民が持っていたら、疑われる。だから、領主を、山の崖まで誘導し、突き落とした。
その後も色々と、人を殺して、盗んださ。」
僕は唖然とした。
「そんな・・・」
間髪入れずに、言った。
「でもよ、儂は嫌だった。心の中から追ってくるんだ。人殺し、生きてる価値がない、人を殺した大悪人。死ぬべきだ、死ぬべきだ、死ぬべきだと、心の中に闇で覆われた。手が震えたよ。もう嫌だ、死にたい。ってずっと思っているし、今も思っている。でも、まだ生きることへの執着があるんだよ。」
「この世がどんなに、最低でも、最悪でも、生き延びようとする自分がいる。この世が闇に覆われたって、死ぬ先が無であったり、地獄であったりするなんてどうでもいい。
この世がどんなに、最低でも、どんなに、憎んでも、儂の中の誰かが、叫ぶ。
「生きろ!」なんて。」
老人は話題を変えた。
「お主は、どんなにかかっても取り返しのつかない罪をしたことがあるか。」
老人は尋ねる。
「はい。」
「そうか。なら、儂は言うよ。この世を憎んだとて、最低だとて、最悪だとて、儂への問いに答えてくれ。絶対に。」
「この世が最低であって、最悪であって憎むべきものであっても、なぜ、人は、生きるのか、ということを。」
「お主なら答えてくれる。儂は絶対に信じる。」
朝日がまたやってくる気配がした。
少し改稿するかもしれません。忙しかったのですみません。