第三十九話 仮面の軍、襲来
山は静かだった。
梢の揺れる音もなく、鳥の囀りもない。
空気そのものが沈黙しているかのようだった。
政宗の一行は、南方の月山道に分け入り、三度目の峠を越えていた。
黒脛巾組の先行偵察隊から、わずかな煙の痕と踏み跡が報告された場所──
小十郎が馬を止めた。
「殿……この先に、“気配”があります。人の、しかし……妙です」
政宗は頷くと、合図で部隊を半月型に展開させた。
草を踏む音も最小限に、息を殺し、風を読む。
そのとき──
「……来る」
千代の声と同時に、杉林の奥から“それ”は現れた。
黒い布のような隊列が、音もなく進んでくる。
数は三十にも満たぬが、その一歩ごとの動きが、まるで一体であるかのように揃っていた。
だが、何より異様だったのはその“顔”。
白磁の面。
無表情、無孔、口もなく、眼の穴すら浅い。
そこに“人間の意思”はなかった。
成実が呻く。
「……あれが“仮面の軍”か」
「……数は少ない。だが……異様だ」
政宗は馬を下り、前に立つ。
「ここで止まらねば、民の村がまた焼かれる」
その声に、仮面の兵たちが“反応”した。
瞬間──統率された一団が、まるで“意志”など不要であるかのように斉しく突進してきた。
「構えろ!」
黒脛巾組と伊達兵が迎撃する。
だが──
「速い……!」
「声を発さない……指揮官がいないのに連携している……!?」
金属の打ち合う音、矢の音、斬撃の響き。
だがそこに、“叫び”がなかった。
仮面の兵たちは、声も上げず、息も乱さず、ただ刀を振るう。
政宗は一体を斬り伏せた。
その瞬間──仮面が割れた。
だが──その下に見えた顔は、焼け爛れた皮膚、焦点の合わぬ瞳。
「……これは」
「生者か……? 本当に、“人間”なのか……?」
彼らは生きているのか。
それとも──生きながら、“意思”を奪われた人形なのか。
「千代、成実、小十郎! 崩すな、耐えろ!
一人が抜かれたら隊が瓦解する。こやつらは“無音で連携”しておる!」
政宗の声だけが、戦場に響く。
仮面の軍勢は、徐々に押され始めるも──誰ひとり、後退の素振りすら見せなかった。
やがて最後の一体が斬り伏せられ、辺りに再び沈黙が戻った。
「……終わったか?」
政宗は、返り血を拭いながら仮面を拾い上げた。
その裏には──奇妙な文様と、京の鋳印。
「やはり……この“影”は、東北のものではない……」
風が、杉林の隙間を吹き抜けた。
その風は──京のほうから来ていた。




