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独眼竜記 ―伊達政宗異聞 千年の龍、東北を翔ける―『俺は豊臣の家臣じゃねぇ──逆襲の刻を待つ!』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
第四章「影は南より来る」

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第三十九話 仮面の軍、襲来

山は静かだった。

梢の揺れる音もなく、鳥の囀りもない。


空気そのものが沈黙しているかのようだった。


政宗の一行は、南方の月山道に分け入り、三度目の峠を越えていた。

黒脛巾組の先行偵察隊から、わずかな煙の痕と踏み跡が報告された場所──


小十郎が馬を止めた。


「殿……この先に、“気配”があります。人の、しかし……妙です」


政宗は頷くと、合図で部隊を半月型に展開させた。

草を踏む音も最小限に、息を殺し、風を読む。


そのとき──


「……来る」


千代の声と同時に、杉林の奥から“それ”は現れた。


黒い布のような隊列が、音もなく進んでくる。

数は三十にも満たぬが、その一歩ごとの動きが、まるで一体であるかのように揃っていた。


だが、何より異様だったのはその“顔”。


白磁の面。


無表情、無孔、口もなく、眼の穴すら浅い。

そこに“人間の意思”はなかった。


成実が呻く。


「……あれが“仮面の軍”か」


「……数は少ない。だが……異様だ」


政宗は馬を下り、前に立つ。


「ここで止まらねば、民の村がまた焼かれる」


その声に、仮面の兵たちが“反応”した。


瞬間──統率された一団が、まるで“意志”など不要であるかのように斉しく突進してきた。


「構えろ!」


黒脛巾組と伊達兵が迎撃する。


だが──


「速い……!」


「声を発さない……指揮官がいないのに連携している……!?」


金属の打ち合う音、矢の音、斬撃の響き。

だがそこに、“叫び”がなかった。


仮面の兵たちは、声も上げず、息も乱さず、ただ刀を振るう。


政宗は一体を斬り伏せた。


その瞬間──仮面が割れた。


だが──その下に見えた顔は、焼け爛れた皮膚、焦点の合わぬ瞳。


「……これは」


「生者か……? 本当に、“人間”なのか……?」


彼らは生きているのか。

それとも──生きながら、“意思”を奪われた人形なのか。


「千代、成実、小十郎! 崩すな、耐えろ!

 一人が抜かれたら隊が瓦解する。こやつらは“無音で連携”しておる!」


政宗の声だけが、戦場に響く。


仮面の軍勢は、徐々に押され始めるも──誰ひとり、後退の素振りすら見せなかった。


やがて最後の一体が斬り伏せられ、辺りに再び沈黙が戻った。


「……終わったか?」


政宗は、返り血を拭いながら仮面を拾い上げた。


その裏には──奇妙な文様と、京の鋳印。


「やはり……この“影”は、東北のものではない……」


風が、杉林の隙間を吹き抜けた。


その風は──京のほうから来ていた。

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