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独眼竜記 ―伊達政宗異聞 千年の龍、東北を翔ける―『俺は豊臣の家臣じゃねぇ──逆襲の刻を待つ!』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
第三章:「剣に誓う初陣」

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第二十四話 恐怖と誓い

戦の騒音が、少しずつ遠のいていく。

それは、戦の“最初の波”が引きつつある合図でもあった。


政宗の軍は、先鋒の突撃によって畠山勢の前衛を崩し、やや押し込んだ。

だが、それはまだ“勝利”などと呼べる段階ではない。


むしろ──戦場には、ただ血と呻き声が残っていた。


「うおおおおっ!」


「やったぞ、敵兵を討ち取ったあ!」


「頭じゃ! 首を取れ!」


その声に、政宗の心は凍りついた。


自軍の兵たちが、敵兵を囲み、槍で突き伏せ、剣で首を切ろうとしていた。


たった今まで“人”だったものが、ただの“勲功”へと変えられていく。


政宗の目が、その光景を真正面から捉えてしまう。


「……これが、勝つということ……なのか」


声は震えていた。

手綱を持つ指が白くなるほど、力が入っていた。


血の臭い。

人の叫び。

笑う兵。

無言で崩れ落ちる敵。


──これが、「生かす戦」と言えるのか?


──これは、「導く剣」で届くものなのか?


「政宗様」


すぐ傍に、小十郎の声が届く。


「……目を逸らしてはなりませぬ」


「だが……これは、あまりにも……」


政宗の言葉が途切れる。


「……わしが“命を守る戦”をするなどと、言ったのは──

 “絵空事”だったのか……?」


小十郎は沈黙していた。


その表情には、肯定も否定もなかった。


ただ、その目は政宗を試すように、じっと彼の内面を見つめていた。


成実が駆け寄ってくる。


「政宗様! 敵の後衛が森に後退中。追撃のご決断を!」


政宗は口を開けなかった。


手綱を握りながら、震えていた。


この手を伸ばせば、“また命を奪う”決断になる。


進めば勝ちを掴む。

だが、その勝ちは、確実に誰かの“死”の上に築かれる。


──生かす戦、などと。


──それはただ、甘い夢だったのでは──?


その時。


かすかに、幼き日、虎哉宗乙の声が脳裏を過った。


『泣ける者は、導ける。殺しを恐れる者こそ、命を守れる将となる。

 恐怖を知れ。恐怖を抱け。そのうえで前に進め──それが、龍だ』


政宗は目を閉じた。


そして、小さく、呟いた。


「……怖い。怖いのだ、小十郎」


「……政宗様」


「だが……わしは、“恐れを抱いたまま進む”と、誓った。

 だからこそ、“この恐怖ごと”──剣に込めて進む」


政宗の隻眼が開かれる。


その奥には、まだ揺らぎがある。


だが、その奥底に──確かに“消えぬ火”があった。


「成実。追撃はする。ただし、生け捕りを優先し、民に手出しするな。

 ……剣は、奪うためではなく、導くために抜くと、示せ」


「──御意!」


その命令が飛んだ瞬間、政宗はようやく“立ち尽くす足”を一歩前に動かした。


恐怖を振り払うのではなく、

その恐怖を己の一部として、剣の鞘に収める。


彼の歩みは、まだ少年のそれだった。


だが、血と涙と決意を飲み込んだその背は、確かに──“龍”だった。


(第二十四話 了)

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