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独眼竜記 ―伊達政宗異聞 千年の龍、東北を翔ける―『俺は豊臣の家臣じゃねぇ──逆襲の刻を待つ!』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
第三章:「剣に誓う初陣」

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第二十一話 初陣の兆し

春の気配が山を満たし始めたある日、米沢城の空気がわずかにざわついた。


「──南方より、畠山家の動き活発化。境界の村落にて略奪と見られる火の手あり」


使者が報告書を差し出すと、家中の重臣たちは眉を寄せた。


畠山家。

かつては越中から流れた一族が、奥州に根を張り、いまは伊達の南境に揺さぶりをかけている小大名。


輝宗は報告を読み終え、重く静かに一言を口にした。


「……動員をかけよ」


家中に緊張が走った。


だが、その言葉はまだ終わらなかった。


「──政宗を、初陣とする」


その報が、政宗のもとへ届けられたのは、翌朝のことだった。


縁側に座し、書に目を落としていた政宗の前に、小十郎が膝をついた。


「政宗様。御父君より伝令です」


「……出陣か」


「はっ。南境にて畠山家の動き。初陣を命ぜられました」


静かに頷いたその顔は、かつて庵で座禅を組んでいた少年の面影を残しながらも、

すでに“決意を持った将”のものだった。


「いよいよ……“命を預かる”戦か」


「はい」


その夜。


政宗は義姫の居室を訪れた。


母は、既に知っていたらしく、政宗が口を開くよりも先に、そっと両の手を取った。


「政宗。これが、“お前の道”なのですね」


「はい。父上の意志、伊達の未来。すべてを背負うと決めた者の……戦です」


義姫は、かすかに震えていた。


「戦に行くのは、これが初めて。でも……もう帰ってこないのでは、と思ってしまう自分がいます」


政宗はその手を、やさしく握り返した。


「大丈夫です。わしは、龍。空を見据えて還ってきます」


「泣いても、よいですか?」


「母上は、泣いても導ける方です」


その一言に、義姫は思わず目を伏せて涙を零した。


翌朝、甲冑が整えられた座敷にて、政宗は父・輝宗と対座していた。


鋲打ちの胴、肩当て、袖、脛当て。

全ては特注の軽量なもので、成長途中の政宗の体に合わせて作られていた。


「……重いか?」


輝宗の問いに、政宗はかすかに笑って首を振る。


「剣より軽いです。けれど──命よりは、重うございます」


「その言葉を持って行け」


輝宗は、静かに腰の脇差を外した。


「これは、わしが初陣のときに佩いたものだ。

 今日からはお前の“道標”とせよ」


政宗は、両手でその脇差を受け取った。


「はい。父上」


「政宗。わしはお前を“将”とは思っておらぬ。

 お前は“導く者”だ」


「──心得ております」


そのとき、風が吹いた。


障子がふわりと揺れ、そこに差し込んだ陽の光が、政宗の隻眼を強く照らした。


その日、城下では戦支度が始まった。


鉄砲隊の手入れ、馬の蹄鉄、兵糧の積み出し。

だが、そのすべての中心には、鎧をまとい、静かに剣を帯びた若武者がいた。


伊達政宗。


わずか十三の身で、すでに“名乗る覚悟”を持つ、龍の器。


──そして、初めて“命を奪う戦”へと向かう日が、始まった。

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