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独眼竜記 ―伊達政宗異聞 千年の龍、東北を翔ける―『俺は豊臣の家臣じゃねぇ──逆襲の刻を待つ!』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
第二章:「虎の教え、龍の誓い」 ―師との出会い。心を鍛えることで“龍”は真に生まれる―

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第二十話 龍の誓い、虎の笑み

春の陽はすでに高く、山の雪もほとんど解けきっていた。

庵の裏に流れる沢は透明に澄み、その音が鳥のさえずりと混ざって耳に心地よい。


その朝、政宗は一人、最後の座禅を終えた。


目を閉じ、呼吸を整える。


風の流れ、陽の温度、土の匂い──

すべてが、ただ“そこに在る”という感覚を、彼は確かに掴んでいた。


「政宗」


後ろから声をかけたのは、虎哉宗乙。


相変わらず黒衣に身を包み、手には旅装の杖を持っていた。


「修行は、ここまでだ」


政宗は、目を開けて振り返る。


その顔には、かつてのような焦りも怒りもなかった。


「師よ。ひとつ、申し上げたいことがあります」


「ほう」


政宗はまっすぐに立ち、不動明王の像の前に進み出てから、静かに言った。


「──わしの目は、一つ。されど、千の心を映す目とします」


「……」


「父上の心、母上の心、千代の心、小十郎の心、民の心、敵の心……

 そのすべてを、映すことができる目に」


彼の言葉は、まるで刀を鍛え上げる炎のように、

柔らかくも芯を持ち、誰よりも熱を帯びていた。


虎哉は目を細め、静かに頷いた。


「それが、お前の“剣”になる」


「はい。“斬る”ではなく、“映す剣”です」


「……」


虎哉は、わずかに口元をほころばせた。


「龍とは、吼えるものでも、ただ飛ぶものでもない。

 人を活かし、心を照らす者の名だ。

 そして、政宗──」


その瞬間、虎哉ははっきりと、言葉を紡いだ。


「お前は“龍”だ」


政宗は驚きに目を見張ったが、すぐに深く頭を垂れた。


「ありがとうございます。師よ……」


「だが、わしの役目はここまでだ。

 これより先は、お前自身が“問う”ことを続けねばならぬ」


「はい。“問い”が尽きるその日まで、生きてみせます」


その日の午後。


庵の門で、千代と小十郎、そして政宗が見送る中、虎哉は旅装を整えていた。


「どこへ向かわれるのですか?」


小十郎が問うと、虎哉は笑った。


「風の向くまま。だが、また“心が迷う者”の傍に寄ることでしょう」


千代が、政宗を見上げる。


「……もう、教えていただけないのですね」


「教えることは終わった。だが“見守ること”は、終わらぬ」


そう言って、虎哉は最後に政宗を見て言った。


「いずれ、わしが斃れた後も、“龍”として生きよ。

 名を恐れず、己を忘れず、心の剣を携えて──」


政宗は、拳を握ったまま、深く一礼した。


「師よ。いずれ、わしの名が“世に問われる日”が来ましたら……

 その時こそ、またご教示ください」


「その日を、楽しみにしておるよ、独眼の龍」


虎哉宗乙が去ったあと、政宗は庵の前に一人残り、空を見上げた。


春の空は、高かった。


雲ひとつなく澄み渡り、その中に何かが昇っていくような気がした。


──目は一つ。


──されど、千の心を映す目とならん。


龍は、地に生まれ、空を知った。


これより先、その翼がどれだけの風と嵐を受けようとも、

この日の“誓い”が、彼の中で決して折れることはない。

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