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独眼竜記 ―伊達政宗異聞 千年の龍、東北を翔ける―『俺は豊臣の家臣じゃねぇ──逆襲の刻を待つ!』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
第四章「影は南より来る」

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第百三十話 種は撒かれた。芽吹きは何処に

米沢の朝は、薄く霞んでいた。

だが、その霞の奥には、**新たな“名の芽”**が確かに育ち始めていた。



政宗は、政庁の一室にて筆を執っていた。


机上には三つのものが置かれていた。


──香炉。

──呼名帳。

──そして、名旗。


これは、政宗が命じて作らせた三つの制度の核だった。


■【名の香】──記憶を留めるための香袋

→ 家族や仲間の記憶に基づいて調香された香袋を各家に配布。

→ 名を呼ぶとき、香を焚くことで“記憶と声”を結びつける。


■【呼名帳】──村ごとの“声の帳簿”

→ 村人同士が「誰に、どんな呼び名で呼ばれているか」を記録。

→ 文字を持たぬ者のため、音での再現を“語り部”が担う。


■【名旗】──風と共に翻る名の象徴

→ 家の軒先に掲げる“名を記した布旗”。

→ 毎朝、子が親の名を読み上げ、日々の誇りとする。



「名は渡すもの。そして育つもの」


「声が、香が、風が――その人の“生”を名に重ねてくれる」



小十郎が深く頷く。


「殿、これは……“名が生きる場所”を作る制度ですな」


「仮面どもが“名を上から押しつける”のに対し、

 我らは“名が土から芽吹く”ように、名を耕す」



政宗は、遠くを見つめながら言った。


「わしは、“名を創る神”にはならぬ。

 ただ、“名を育てる土”になりたい」



その制度は、まず小さな村から始まった。


香を焚いて、子どもが親の名を読み上げ、旗が風に舞う。


最初は照れたように笑っていた村人たちも、

やがて、名を呼び合うことを誇りとし、

「名を守る香」を肌身離さず持つようになった。



成実が、少し驚いたように言う。


「……これが、“名を刻む国”の形……」


「名は記録ではない。風のように、香のように、

 “生きて届くもの”として、ここに根づき始めた」



政宗は、最後の仕上げとして、こう語った。


「名は旗。名は香。名は声。

 それらを受け継いでいける限り、名は決して喰われぬ」


「仮面が何を創ろうと、わしらは“呼び続ける”」


「名を、名を持つ者たちを、そしてその生き様を――」



その夜。


一方、とある廃都の奥――

炎も水も届かぬ“影の宮”にて。


鉄の仮面を被った仮面の主が、

“創名の院”にて、弟子らに静かに告げていた。


「種は撒かれた。だが、芽吹く土が足りぬ」


「ゆえに次は、土ごと創り変える」


「“国の名”を作り変えることで、

 名の支配は民の意識ではなく、歴史そのものに宿る」


「政宗よ……次に揺らぐのは、“お前の領地”ではない」


「次は、“お前の国号”そのものを──我が名で、塗り替えてやる」



夜の風が、“仮面の鼓動”を吹き上げた。


それは、新たなる“名の戦争”の、序章の音であった。

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