表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/75

1-6  彼の心の闇は深い

交差羽です。『中二病スキルで全てを救う』を2話を投稿させて頂きました、中二病と無双と困難に立ち向かう主人公が大好きな作者です。たけの〇の里も好きです、演劇も好きです、からかってくる美少女も好きです。

 翌日の放課後、俺は久しぶりに部室でゆっくりしていた。

本当にこの時間は落ち着く。


 ミステリー研究部の部室は校舎はずれにある部室棟の一角に存在する。


 以前は演劇部の備品室として扱われていたが、ツグミがミステリー研究部を立ち上げた時、美桜を通して演劇部部長や顧問の先生と交渉してこの部屋の使用許可を取り付けた。


 その代わり、ミステリー研究部は年1の演劇部の物品の整理と、発表の際の雑用を請け負ったが、まあそれでこの部室が手に入るなら安いものである。


 ちなみに、その関係で、部屋の隅の方には過去の演劇部の台本や小道具なんかが段ボールに入って積み重なっている。


 今日は俺、美桜、ツグミの3人がそろい、パイプ椅子に座ってテーブルを囲んでいる。

俺は授業で出された英語の宿題をこなし、美桜は机に突っ伏しながらテーブルに置かれたタケノ〇の里をむしゃむしゃし、ツグミは一番窓側に座って静かに本を読んでいる。


 おい、美桜さんや、モグモグする度に顔が面白いことになっていて美少女が台無しですよ。完全に気を抜いてやがる。


 ツグミは相変わらず一枚の絵画のように神々しくて拝みそうになる。


 いかんいかん、集中集中。

早く宿題を終わらせて俺もタケノ〇の里を食べるのだ。


 真剣に宿題に取り組んでいると、その一節に


『深淵をのぞく時、深淵にもまたこちらを見ているのだ。』を訳しなさい、との問題。


 俺の心にクリティカルダメージ。しかし拓斗は耐えきった。

なんだこの問題は。次の問題は・・・。


『心の闇は深い。』を訳しなさい。


 拓斗に10のダメージ。さらに次の問題。


『彼は中二病を発症した。』を訳しなさい。


 く、くそっ、なんて問題だ。俺の心の深い柔らかい所を抉ってくるとは。

はぁ、はぁ、なんとか訳し切ったぞ、最後の問題だ。


『彼は戻って来れなくなった。』を訳しなさい。

 

 ダメ押しの追加クリティカル。


 拓斗は瀕死の重傷だ、という幻聴と共に見えないはずのHPゲージがレッドまで削られる。


 英語教諭の悪意を感じながらなんとか訳し終え、俺も机に突っ伏す。


 この問題、既往に中二病発症歴がある少年少女への嫌がらせだろ。

「狙い撃つぜっ」とスナイパーライフルを構えている英語教師の姿が目に浮かぶ。

まったくあの野郎めと、考えていると、口に何か甘いものが押し込まれる。


「お疲れ様、拓斗。よく頑張りました。」


 美桜がタケノ〇の里を俺の口に押し付けてくる。

俺は少し照れながら遠慮なくそれを頬張る。うん、適度な甘さとサクサク感がたまらない。


 ツグミも本を閉じて、


「お疲れ様、拓斗」


と、ドクター〇ッパーの缶を差し出してくる。ドクター〇ッパー特有の香りが鼻をつく。


 流石ツグミ、缶を開けて渡してくれるところに細やかな気遣いを感じる。


 俺は疲れ切った心と体を起こし、缶を受け取り、一気に飲み干す。

何とか気力を回復させてお礼を言う。


「美桜もツグミもサンキュー。」

「いえいえ、礼には及びませんよ。」

「どういたしまして。拓斗は宿題終わったの?」

「あー、何とか。あの英語教諭、ひどい問題出しやがる。」

「ああ、何々を訳せ。のところの問題だよね。あれは拓斗には厳しいよね。」


とツグミがクスクス笑う。


「なるほどなんだよ。拓斗、一時期がっつり中二病だったもんね。急に眼を抑えて、闇が~とか、俺は今日から熱く生きる!とか、色々やってて。ぷぷ、あれは中々面白かったよ。」


 俺はもう一度額から机に突っ伏す。

拓斗は再度ダメージを負った。


『拓斗よ、死んでしまうとは情けない。』


と天から声がする。

ああ、今回復活するのに必要なゴールドはいくらでしょうか。なんてことを考えていると、


「そういえば美桜ちゃんもお疲れモードみたいだけどどうしたの?」


ツグミが話題を変えてくる。

ナイスだツグミちゃん、いやいやツグミ君。俺は体を起こす。


「いやさ、実は演劇部の練習が滞ってまして~。」

「あーそっか、文化祭もあるからそろそろ練習開始時期なのか。今年の演劇部は何やるんだ?」


 気になって尋ねてみると、


「今年はオリジナルストーリーを作ろうかなって、部長が。ほら、この街って色々歴史が深いみたいだから、なんか面白いネタを各自集めてくるようにって。」


美桜もゆっくりと体を起こす。


「まあ、確かにそうゆうのチラホラあるよな。

源義経が避難した先は奥州じゃなくてこの街だったとか、徳川の埋蔵金が隠されているとか、新しいのだと戦争時代に秘密の大量破壊兵器を開発してた、だったっけか。」

「そうだね、ただの噂のものも多いけど一部は郷土史なんかに疑わしい記述もあるよ。

僕も図書室にある郷土史でいくつか見たしね。」

「そうそう、そんな感じ。実際去年もそれ関係だったしね。」

「ツグミがネタを提供した話だよな」

「そう、それ。ツグミ君が提供してくれた話。前部長のツボにがっつり入って、気合入った結果、文化祭でも大盛り上がりだったやつ。」

「少し情報提供させてもらっただけだよ。ちょうどミステリー研究部関連のネタだったし、部長さんには創部の時にお世話になったから。」


「確か、『黄泉平坂』だったっけ?」


「そうだね、黄泉平坂。通常の伝承では伊邪那岐命が伊邪那美命を黄泉の国に迎えに行き、最後は岩戸の前で別れるって話だけど、この地域の伝承では岩戸を閉じきる前に伊邪那美命が現世に脱出して一度現世に死者が溢れかえってしまう。それを何とか封じ込める、という話になっているね。」

「そうそう、伊邪那岐命が奮戦するも、死者の群れに押されてもうダメかって時に高天原からの援軍が届いて何とかするって感じ。」

「あれは盛り上がったな。」

「ただ、部員だけじゃキャスト数が足りなくて、拓斗やツグミ君にもキャストとして出てもらうことになったけどね。」

「そうだった。俺もツグミも骸骨とゾンビ役だった。あれは渾身の演技だった。」


 俺は自画自賛する。

なお、ツグミが扮したゾンビは可憐すぎて、ゾンビ沼にはまってしまった人が続出したそうだ、南無南無。


「美桜ちゃんは伊邪那岐命役だったよね。」

「そうだよ。私も名演技したのです。特に死者の群れとの戦闘シーンでは千切っては投げ、千切っては投げでした。」


と胸を反らす。


「そうそう、俺なんか本気で投げられたもんな。」

「あれは痛そうだったよね。」

「あ、そうだ。そうだよ、思い出した。あの時拓斗、私の胸に肘当てたでしょ。」


 さっと、血の気が引く。

そうだ、あの時、確かに乱戦の中で俺の肘が美桜の胸に当たったことを思い出した。


「なんのことかな~。」


 鳴らない口笛を吹く俺。


「いや、そのごまかし方は認めたのと一緒だから。ひどい拓斗、私の体を弄んで、その上無かったことにするなんて。」

「拓斗、それはちょっとひどいんじゃないかな。」


 普段は擁護してくれるツグミでさえも非難の目を向けてくる。


 美桜はしくしく泣いている演技をしているが、その背後には閻魔大王様が見える。

罪の虚偽は許しまへんでと言わんばかりだ。これは、何を言っても負ける気がする。


「いや、分かった、分かりました。認めます。確かに被告人拓斗の肘は美月様の胸に当たりました。

しかし、あれは完全なる事故だったのです。乱戦の中で後ろから押されてバランスを崩した結果なのです。」

「そうだね、触ったよね。なら投げられても文句は言えないよね。むしろそれだけで許されてラッキーだったよね。」


 そうして俺は素直に謝罪の言葉を口にする。


「ほんと、すみませんっしたー。」


 両手をテーブルに付き、勢いよく頭を下げる。


 美桜は泣きまねをやめ、近くにあったボールペンを持つと、その頭を裁判長よろしくカチカチとテーブルに打ち付け、やや尊大な態度で、


「うむ、素直に罪を認めた拓斗君には、缶ジュース一本の刑で勘弁してあげましょう。」


と宣い、「ちょうどお菓子食べて喉が渇いちゃったしね。」と可愛く付け加えた。


 良かった、それぐらいで許されたとホッと胸を撫でおろし、俺がジュースを買いに席を立とうとした時、しかし最後に美桜が


「で、柔らかかったかい?」


 ニヤニヤ笑いで聞いてきたので、


「ば、なに、なに、なに言っとんのやーーーーん。」


 俺は顔を真っ赤にしながら部室をとび出して行ったのだった。

まずは6話を読んでいただいた読者の方にお礼申し上げます。ミステリー研究部で会話に花を咲かせる3人組はとてもいい関係だと思います。特に最後の美桜ちゃんの拓斗君への絡み方。あんな絡まれ方をしてみたいものです。

この後も美桜ちゃんの可愛さがどんどん見えてきますので、続きを読んでいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ