表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/75

1-5  切なる願いを汲むのは難しい

交差羽です。『中二病スキルで全てを救う』を2話を投稿させて頂きました、中二病と無双と困難に立ち向かう主人公が大好きな作者です。切なる願いを持っている人も好きです、私が来た!と登場する人も好きです、願望を垂れ流す幼稚園の先生も好きです。

 深夜、すでに日は落ちて久しく、

街を歩いているのは電車に乗り遅れたサラリーマンやこれから3次会に繰り出そうとしている強者のみの時間帯。

街中の喧騒も駅前の歓楽街のみである。


 そんな中、夜の帳が落ち、静寂の音すら聞こえそうな住宅街をその男は歩いていた。


 否、男かどうかも不明だが、それはフード付きのロングコートの様な服を身に纏い、裸足でフラフラと歩いていた。


 服は全身真っ黒で、一部には何か乾いた赤黒いシミのようなものが張り付いている。


 そこだけ街灯の光を切り取ったようにも、影が彷徨っている様にも見える。


 身長は180cm程度だろうか。いや、極端な猫背であることを鑑みるに優に200㎝は超えているかもしれない。


 フラフラと歩く真っ黒な長身のそれは、その様子のみでも不吉ではあるが、それの容貌として最も不自然なのはその輪郭であろう。


 服の下は良く見えないが、肩があるはずの場所は左右で凹凸が違い、背中も何か盛り上がっている。


 上半身は鍛えられた男性の様でもあるが、下半身は女性的な細さがあり、特に唯一見えている足首から先はまるで骨と皮しか無い様にさえ見える。


 そんな歪な黒い影が歩く。


 昼間であれば子供たちの賑やかな声が響くであろう住宅街を、


 フラフラと、フラフラと。


 フードから除くその目は黄金。

しかし光を反射せず、どこまでも深く、深く淀んでいる。


 その粘りつくような視線は巡る。獲物を探すように、ねっとりと、ねっとりと。



「・・つわ・・・・・・つわ・・・・、どこ・・・・・・・さ・・す」



 それは歩く、

ゆっくりと、ゆっくりと、

フラフラと、フラフラと、

探す、探す、探す。


 目的のものが見つかるまで、目的のものを手に入れるまで彷徨い歩く。


 手には何か重いものが入ったような、赤黒く染まった大きな麻袋を持ちながら。



 そしてそれは・・・・夜の闇の中にゆっくりと、ゆっくりと消えていった。


****************************


 結論から言おう。


 俺の目論見は半分は成功し、半分は失敗した。

そして今日も枕を涙で濡らす。


 うん、今度スペアの枕カバーを買ってクローゼットにしまっておこう、黒色以外で。


 前回、噂を払拭するために、俺はダークヒーローをなり夜に潜む悪を退治することを決めた。


 そしてあわよくばモテモテになり、さらにさらにその先の展開になるよう頑張ろうと決めた。


 その目論見自体は悪くなかったと自分では思っている。

思ってはいるが正直現代人の心の壁の高さを舐めていた。


 俺は、あの日から毎夜例の格好になり、さらに身バレを防ぐため、顔の下半分を黒いマスクで覆い夜の街に繰り出した。


 ちなみにこのマスク、アマ〇ゾンで1500円(税抜)もした高級マスクだ。ちゃんと水洗いもできる。


で、準備万端と街に出て、繁華街を見回ったところ案外早く事件には遭遇した。


 繁華街の裏路地、そこで少し派手な格好だが美人のお姉さんがガラの悪そうな男数人に言い寄られているところを見つけた。


 俺は、ビルの上から飛び降り、そのまま男の一人の背中に着地。まずは一人。


 呆気に取られている男達をしり目に、二人目は懐に入って掌底を、三人目は振り向きざまに回し蹴り放ち吹っ飛ばした。


 男達はそのまま起き上がってこなかったので、お姉さんの方を振り返る。


 その際、例の「フハハハハ」が出ないように気を付けた。そのせいで少し


「フハッ、フハッフ。フッフッハフー。」


なる声が漏れた気がするが気にしない。


 お姉さんは尻もちを着き茫然としていたので、エスコートするために手を伸ばす・・・・


が、お姉さんそのまま後ずさり、少し距離が離れたところでバッと立ち上がるとそのまま脱兎のごとく逃げていった。


 俺は茫然として立ち尽くし、


「フッ、あれは光の中に生きるものであったか。ならば帰るがいい、光の中に。闇に染まるのは我だけで十分だ。」


と見送る。

 しかし、心の中では冷たい風が吹いている。冬将軍も真っ青な冷たさだ。


 仕方ないので、残った男のうち最初に踏ん付けた男をたたき起こし事情を聴く。


「おい、貴様。なぜ斯様な女子を襲った。我が闇を欺けると思うなよ。」


と脅したところ、男は最初こそ訳が分からない様子で恐怖に怯えていたが徐々にその表情を怒りに染めて


「おま、お前、いきなり何してくるんだよ。ふざけんな、ふざけんなよ。

ああ、そうか、お前もあの女の仲間なんだな。あの女、俺に美人局しかけやがって。

やっと、やっと出来た彼女だと思ったのに。やっと、やっと39歳にして卒業できると思ったのに。

それなのにあいつ、俺に貢ぐだけ貢がせて、その上自分はホスト遊び。

そのことを責めたら今度は、「よくも俺の女に手を出してくれたな」ってヤバい男達にボコボコにされて、せめて、せめて貢いだ分のお金を少しでもいいから返してくれって頼んでただけなのに、

それなのに、またかよ。

くそ、くそっ、くそーーーー。」


と言って抵抗しようとしてくる。

うん、胸が痛い。物理的にはでは無く精神的に。


(あの女の方がずっと闇の輩だった・・・・・・ホロリ。)


 彼女いない歴=年齢の俺は男の気持ちが分かり思わず涙ぐむ。


 突然あんな美人さんに良くしてもらったらそれは惚れてまうよね。ごめん、ほんとごめん、顔だけで疑ってほんとごめんなさい。


 俺は居たたまれなくなってそっと立ち上がる。

そしてその男に告げる。


「汝、栄光を求める者よ。闇はどこまでも深く広がっている。その中で貴様のようなものしか掴め得ぬものがあるだろう。誇り高くあれ。さらばだ。」


 俺はマントを(ひるがえ)して夜の闇に跳び上がる。


 後には、むせび泣く一人の男と、倒れ伏した二人の男だけが残った。



 そうして俺は、いくつもの事件を解決した。

その際、最初の反省を生かし、まずは話を聞いてみようと


 「我が来た!!」と言った後に近寄ったり、


 親しみを覚えてもらえるよう某アメコミヒーローのように闇魔法を糸状にして逆さ吊りで現れたりしたがいずれも失敗。


 一番成功したのは、女子高生に絡んでいる酔っぱらいに遠くから闇魔術のボールを投げてノックアウトしたことか。


 女子高生は何が何だか分からずといった様子でそそくさとその場を後にしていた。


 俺は遠くから、


「フハハハハ、無垢なる少女よ、汝に闇の祝福あれ。」


とビルの屋上で風に吹かれながらマントをはためかせていた。


 つまり、姿を見せなければ大丈夫。

逆に言うと俺の言動を見たものは大抵が感謝もなく逃げていったのである。


 モテモテ、チヤホヤなんてイベントは夢のまた夢である。


 今回、俺は高校生にして世間の世知辛さを知った。


 みんな、子供の頃に助けてもらったらお礼を言いなさいと教えられなかったのだろうか。


 俺の幼稚園の先生なんか、


「助けてもらったなら、お礼を言いなさい。そして助けてあげた人が札束を持ってお礼に来たのならその人と結婚するといいわ。」


と目を¥マークにして教えてくれた。札束持ってお礼に来る人とか絶対ヤバい人だろとも思ったが、


 先生は俺の両肩をガシっと掴みながら、


「あなたもそんな大人になるのよ。先生待ってるから。」


と仰った。

ありがとう先生そしてごめんなさい、僕では先生の恋人にはなれないようです。


 しかし、何はともあれである。今回これで目的の半分、ダークヒーローよろしく人助けをするというミッションは達成したし、

これで不審者の噂も少しは払拭出来たのではないだろうかと、自分に言い訳をしながらなんとか心に折り合いをつける。


 モテモテになることは叶わなかったけれど、それに関してはいつかきっと分かってくれる人もいるはずだ。


 なので、このまま困っている人を助けて行こう。


 俺は改めてそう決意し、夜の街を駆けるのだった。


 結果、俺は中二病テンションのまま自分のMP(メンタルポイント)をマイナスまで削りながら人助けを継続したのであった。

まずは5話を読んでいただいた読者の方にお礼申し上げます。夜の街で人助けをする拓斗君は頑張り屋さんだと思います。前半に怪しい人が出てきました。噂の黒い人はこの怪しい人なのか、それとも拓斗君なのか判断が難しいです。二人とも不審者だから・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ