2-11 危険な扉
交差羽です。『中二病スキルで全てを救う』を2章11話を投稿させて頂きました、赤髪とバトルと主人公が大好きな作者です。プラカードも好きです、室長も好きです、秘書さんも好きです。
程なくして車が止まる。外側からドアを開けられ外に出るとそこは地下駐車場だった。
そのまま、俺は高峰さんに案内される形でエレベーターに乗り、15階まで上る。
気のせいか、高峰さんの表情にも緊張の色が見える。
室長さん、そんな怖い人なのだろうか。手汗が滲む。
不安な気分のまま、エレベーターを出て、重厚な扉が鎮座する一室の前まで案内される。
もはやドキがムネムネである。違った。胸がドキドキである。
「ここよ。」
高峰さんが一呼吸を開け、俺に告げる。
「いい、拓斗君。ここで見るものがどんなに衝撃的でも、決して超常現象特別対策室の人間が同じではないから。いいわね。」
念を押すようにそう言って、深刻な顔をする。
俺の緊張も否応なしに増していく。額に汗が流れる。
俺がゴクンと唾を飲み込むのと、高峰さんが目の前の扉をノックするのは同時だった。
ほどなく扉の内側から
「どうぞ。」
冷え切った女性の人の声がしてくる。
俺は緊張して扉が開くのをじっと見る。
手汗の量が増え、このままダイイングメッセージも書けそうである。
俺が室長の機嫌を損ねて抹殺されたら、心は大人で体は子供の名探偵にぜひ解決してもらいたいものである。
そんな覚悟を決めくぐった扉の先、そこには高級そうな椅子に座った一人の男性が書類を前に筆を走らせていた。
年の頃は40代だろうか。オールバッグに撫でつけられた髪、顔だけ見ればソース顔の整った容貌をしている。
スーツも高級品なのか重厚な色合いで、そこだけを見れば流石国の組織のボスといった趣だ。
宇宙人相手に戦っていそうな黒服である。
俺は男性のざっとした印象を確認し、しかし、その男性の胸元を見て思わず驚愕とした。
「なん、だと・・・!?」
自分が見たものが信じられず何度も見直す。
しかし事実は変わらない。目に映る光景は、それが現実だと俺に突きつける。
なんとその男の胸には、
『私はドMのさぼり魔です』
と書かれたプラカードがぶら下げられていたのだ。
俺は何度も目を擦るが、その文字が消えることはない。
そんな馬鹿な、国の組織のトップたるものがドMだと?しかもプラカード、昭和か!?
フォントがいやに可愛らしい。
プラカードには四つん這いでおしりを叩かれて喜んでいる男の人の絵とボンテージファッションの女王様がムチをしならせている絵まで描いてある。
よく見ると、プラカードを下げている男性の首元にはミミズ腫れのような赤い痕が付いている。
しかも、スーツの所々がよれ、何かと戦った跡の様にワイシャツとネクタイも歪んでいる。
まさか、と妄想が膨らむ。
男子高校生にとってそのプレイはハードすぎる。俺が戦慄を覚えていると。
その男性は俺達が入ってきたことに気付いているのかいないのか、
「詩乃ちゃ~ん。お願い、お願いだからそろそろ休憩させて~。」
と、隣にいる女性に泣きそうな声で懇願し始めた。
もはや最初の印象とはかけ離れている。
そこで俺もようやく男性の隣に一人の女性が立っていることに気付いた。
「ダメです。ここにある書類だけでも厳選しているんですから、せめてこの分だけでも終わらせてください。」
女性は眼鏡を押し上げ、その切れ長の瞳をさらに細め、ゴミを見るような眼で男性を見下ろす。
この女性、すごく仕事が出来そうである。
有り体に言えば敏腕秘書と言った雰囲気を漂わせている。
アップにまとめた髪はきっちりと収まり、切れ長の目とフレームレスの眼鏡がよく似合っている。スーツには皴一つなく、その佇まいも洗練されている。
一見すればこの女性の方が上司にさえ見える。
そんな女性からは極寒の冷気が漂ってくる。
「昨日、くだらない理由で仕事を休むからです。」
男性はブラック企業もかくやという様子で震えているが、どこかちょっと嬉しそうである。
あれがドMと言う奴なのだろうか。
だが、確かにあの女性の目を見ていると何か少しゾクゾクする感じがして気持ちいいような・・・・・・。
は、俺は何を?一瞬何か新しい扉が開きかけた気が?
いや、やめよう。これ以上深く考えてはいけない。
心の中でミニ拓斗君がイエローカードを出している。ここでイエローカードを重ねて試合退場するわけにはいかないのだ。
俺は深呼吸を一つしてその心の扉をそっと閉じるのだった。
まずはこの話を読んでいただいた読者の方にお礼申し上げます。いい感じの室長さんと秘書さんが出てきました。今後もちょくちょく登場します。気になる方は続きを読んで頂ければ幸いです。




