1-3 深き闇の時間がやってきた
交差羽です。『中二病スキルで全てを救う』を3話を投稿させて頂きました、中二病と無双と困難に立ち向かう主人公が大好きな作者です。夜の街の明かりも好きです、好みを叫ぶ女性も好きです、黒い服も好きです。
この調子で4話以降も投稿させて頂きます。
「フハ、フハハ、フハハハハハハ」
俺は街灯やビルの明かりを眼下に見ながら夜の闇を駆けていた。
一歩踏み込むだけで、眼下の光がテールランプのように流れていく。
俺は漆黒のマントをたなびかせながら、ひときわ高く飛び上がる。
「フッ、今なら月にも手が届きそうだ。」
囁くように呟き、月に手を伸ばす。
そのまま伸身ムーンサルトを決めながら、重力に任せて高層ビルの屋上にスチャッと降り立ち、そして、眼下の街を見下ろす。
俺は今、漆黒に身を包んでいる。衣装、マント、グローブ、ブーツに至るまで漆黒で統一され、唯一その右眼だけが青く光り揺らめいている。
俺は右手をそっと持ち上げ顔の右半分を覆う、指の隙間から青い瞳だけが見えるように。
これ、ちゃんと鏡の前で練習しました。
そしてそっと独り言ちる、
「闇が呼んでいる。封印されていた我が右眼がうずく。これは・・・、そうかこの街にいるのか。これが運命・・・。フハハハハ、いいだろう、ならば我は我の為すべきことを為すだけだ。」
とても意味深に。特に意味は無いけれど。
ビルの上に風が吹き、漆黒のマントがたなびく。
俺は両腕を左右にバッと広げ
「時は来た。神よ、今宵闇が動き出すぞ。ゆめゆめ驕ることなかれ。さあ、深き闇の時間だ!!」
思い切りビルの端から跳躍する。その際、伸身ムーンサルトも忘れない。だって格好いいから!
「フハ、フハハ、フハハハハハハハハハ」
そして、俺の姿は夜空の闇に溶けるように消えていった。
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「っつ~~~~~~~~~。」
やばい、闇どころかこのままベッドの上で溶けて消えてしまいたい。
現在俺はまたも自室の枕に顔をうずめ、声にならない声を上げながらのたうち回っている。ここ数日こんなことばかりしている気がする。
突っ込みどころが多すぎる。
今でもあんな言葉が俺の口から発せられたなんて信じたくない。断じてあれは俺の発言じゃない、ないったらない。
興奮しすぎて動悸が治まらない。これって恋!?いやいや不整脈。不整脈を自覚したら病院へ。そうだ病院へ行こう。
頭の中で、新幹線に乗って京都の病院に向かう映像が流れていく。
(ってちがーーう!!しかもなんか色々混ざってる!)
頭の中の自分にツッコミを入れながら悶えていると、あまりにバタバタとうるさかったのか妹の結衣がバンっと扉を開けて部屋の中に入ってきた。
「お兄ちゃん、うるさっっ・・・???ってどうしたの?」
文句を言いに来たようだが、俺の様子があまりにも悲痛だったためか、首をコテンと横に傾けながら、最終的には心配してくれている。
なんて優しいんだマイシスター。お兄ちゃん感動しちゃう。
「結衣はなんて優しいんだ。お兄ちゃんはそんな結衣が大好きだぞ!」
ってやっぱ変だーーー! 普段はこんなこと絶対言わないのに。
(俺の、俺のキャラがーーー!
高校でまともになった俺のキャラが崩壊してるーー!!!)
結衣も少し照れたのか指で顔の横から垂れた髪をクルクルいじりながら
「っつ、何言ってんの拓斗兄。」
なんて言っている。
「照れている姿もかわいいぞ!」
「っ~~~。やっぱり変だ。お母さーん、やっぱり拓斗兄が変だよ~~~。」
結衣は階下に叫びながら部屋を出ていく。
階下からは、
「あら結衣、顔が真っ赤だけどどうしたの?」
「い、いや、なんでもないし。それより拓斗兄がまた変なことになってるよ。」
「あらまあ、やっぱり例の病気が再発しちゃったのかしら。結衣、そっとして、優しく見守ってあげるのよ」
という会話も聞こえてくる。
違うんだ、そうだけどそうじゃないんだ。
俺はなおも悶えながら心の中で一生懸命弁明した。もちろん、声に出して言うわけにはいかなかったが・・・。
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なぜこんなことになったのか。俺は2日前の夜に開けた封印の箱を思い出す。
しかし、それを話す前に語らなければならないことがある。
そう、それは、実は俺、前世が魔王で勇者で転生者なんだ・・・・。すみません、嘘です。
くだらないことを言ってないで説明すると。
これはただ単に俺の心情的なものなのだが、俺はモテたい。そう、モテたいのだ。
男子高校生たるもの、たくさんの美少女にチヤホヤされたい。そう思うのは当然であろう。
しかし、俺のそれは少し違う。
俺は幼稚園の頃から女の子を絶対に護りたい、護らなければならないと強く思うことが非常に多かった。
女の子が泣いていると、胸が締め付けられるような感覚があった。
それは強迫観念のような感情。
自分でもよく分からない衝動。
そして、その衝動に自分なりに理由をつけた時、そうかこれはモテたいのかと思うに至ったのである。
きっと女性を大切にすることで、最終的にチヤホヤされたいのだと。
では女性にモテるためにはどうすればいいだろうか。
まずは顔だろう。
イケメンなら許されることが世の中多すぎる。
ただ、生まれ持った顔は日本人の典型的な顔で可もなく不可もなくだったので、せめて清潔感を持つようにした。
他には何だろう。
幼稚園の先生に男性のどこに惹かれるか聞いてみたところ、キラキラした顔で握りこぶしを掲げながら、
「男は経済力よ。お金があれば大抵のことは出来るわ。」
と言われた。
幼稚園児になんて世知辛いことを教える先生なんだろうと思ったが、とりあえず小遣いは多少溜めるようにした。
先生ありがとう、先生の教えは今でも忘れません。
あとは? あとはそう、男らしさ、すなわち力であろう。
スーパー〇隊を見ながら、怪人がどれだけ来ても力があれば全てねじ伏せられると分かった。
そう、パワーこそ力。モテる要素からは外せない。
あとは、知性だろう。
女性が困った時にエスコートしたり、知恵を使ってそっと手助けしてあげることで女性心をぐっと惹きつけられるはずだ。
えっ、ここまでの話は封印の箱に関係ないって?
いやいや、大ありですよ。
そのようにモテる要素を考え、実行し幼稚園、小学校を過ごした。
中学生に上がるまで自分に出来る範囲で努力はしてきたつもりだ。
しかし、バレンタインデーでもらったチョコは毎年、母、妹、美桜、ツグミからもらう4個のみ。告白だって一度もされた記憶はない(ただし美月への告白の仲介は数十回)。
このままではダメだと考えた中学生の俺は、何か打開策はないかと模索していた。
そして出会ってしまったのだ、中二病と言うものに!!!
俺は中二病こそすべてを兼ね備えていると思った。
秘めた力や大いなる力で敵を蹂躙し、錬金術やチート知識で無双し、それによって億万長者となり、美少女にチヤホヤされる。これこそ理想だと。
そして、様々な設定を考えた。
闇に潜み悪を裁くダークヒーロー、圧倒的な力や錬金術の知識で自由気ままに生きる冒険者、世界を救う勇者。思いつく限りの設定をノートに綴り、実践し、記録してきた。
しかし、その努力のかいなく中学時代俺は全くモテなかった。
「来栖君?来栖君ってあの来栖君だよね?あー、いい人なんだけどねー。ちょっと変わってるっていうか、ぶっちゃけ変っていうか。あ、でもいい人なんだけどね。ちょっと付き合うのはないかなって。いい人なんだけどね。」
これは修学旅行の時の美桜の友達の言である。
いい人なら付き合ってくれてもいいじゃない。なんでいい人って3回も言ったの!?。そこ、重要な点だからですか。
これを聞いて、俺は自分の方向性の間違いに気付いた。気付いてしまった、自分がどれだけイタイことをしていたのかを。
そして泣きながらノートを封印した。
そして、そのノートを封じ込めたものこそ、この封印の箱なのである。
2日前、俺はこの封印の箱を開けた。
最後にノートを見たのは封印した時なので、約1年半ぶりになる。以外に早く封印が解かれることになってしまったと思い箱の中を見ると数冊の大学ノートがあった。
「懐かしいな。」
すべて違う色合いのノートで、それぞれにテーマを決めて書いたことが思い出される。その記憶と一緒に、イタかった自分も思い出される。
「うっ、古傷が痛む。」
両手で胸を押さえ、「呼んだ??」っと、心の中にちょこっと出てきたミニ拓斗君をグルグルに鎖で縛って再度心の奥の扉に放り込む。
もう出てくるんじゃないぞー。
そして、心を落ち着かせるために深呼吸を一つ、俺がそのノートの一番上、真っ黒なノートを持ち上げようと触れた瞬間、その変化は起こった。
俺の胸の中心、心臓のあたりが急に熱くなって、痛み出す。
今度はミニ拓斗君ではない。強烈な熱さがだんだん指先の方に伝播し、掌が光りだす。
(これは、あの時神社で見た光か!?)
そう考えているうちに部屋全体を照らすような虹色の光は掌から黒いノートへ、そして箱の中のノートにも広がる。
そして、ノートを取り込み、虹色の光は再び球体になって浮かび上がった。
俺は混乱する頭で茫然と目の前の光景を眺めるしかなかったが、
その球体が今度は俺の胸の中心に急に飛び込み、そのまま沈んでいく。
「あ、やばい、これこの前の。ってことは、また、あっ、いつぅ~~~~~~~~、っっっっ~~~~~。」
避けようとしたが遅かった。
そうしているうちに虹色の球は完全に俺の胸の中に吸い込まれ、後には空になった封印の箱と、痛みにもだえ苦しむ俺だけが残ったのだった。
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それから約1時間、なんとか必死に痛みに耐えた俺は汗だくになりながら独り言ちる。
「はぁ、はぁ、一体、あれは、なんだったんだよ。」
まだ痛む体を起こし俺は封印の箱を確認する。
「なにもねー。」
そう、なにもなかった、俺の3年間を費やして書き上げたノート達、その欠片すらない。
無いなら無いで構わないが、少し寂しい気持ちにもなる。
「それよりも、今はさっきの球体のことだ。」
さっきの球体が胸に入り込んできた時、声が聞こえた。
「力の使い方を教えてやろう。」と。
おそらくあれは神社で聞いた男の声だったような気がする。それと共に、何となくだが分かる。
体の中に力が溢れている感じと、その力の使い方が。
そして、俺は何かに導かれるようにその言葉を口にした。
「ater」
突如、左手が熱くなったと思ったら、そこから漆黒の光が溢れる。
とっさに右手を顔の前にかざし目を瞑る。
その漆黒の光は俺の部屋の中を埋め尽くし、目を開けた時には周囲は黒一色で塗りつぶされていた。
そして一瞬の忘我のうちに、逆再生のようにその漆黒が俺の全身に収束し、気付いた時には、俺は漆黒の衣装と、同じく漆黒のグローブとブーツを身に着け、極めつけに夜の闇を塗り固めたようなマントを纏っていた。
(な、な、なんじゃこりゃーーー!!!)
驚きのあまり心の中ではそう叫ぶが、俺の口は別の言葉を滑らかに発する。
「フハハハハハハ、ついに、ついに大いなる力が目覚めた。闇の力か、おもしろい。今宵、世界は我を知るだろう。フハ、フハハ、フハハハハハハ。」
室内にもかかわらず、俺は両手をバッと左右に広げ、天井を仰ぎ見る。
そこには煌々と室内を照らす丸いLEDライトしかない。うん、LEDって自然に優しいよね。
(ってちがーーう!)
これは別人格?ではないな。この感じ、そうこの感じは中二病を発症していた時の俺だ。
理性の一部、冷静な分はそう判断するが俺の言動は止まらない。
「フム、せっかくだ。目覚めたる大いなる我が力を世界に示そうか。今宵は闇が美しい。」
今室内で、LEDライトの下だけどね。
「liber」
そう唱えると、左手を中心に室内に風が巻き起こり、カーテンや机の上のプリントが宙を舞う。
その左手には革張りで黒地に幾重もの幾何学模様、俗に言う魔方陣が描かれた1冊の本が出現した。
それは俺の意思に従って勝手に表紙がめくられ、ぱらぱらとページが変わっていく。
そしてあるページで止まった。
そこには見慣れない文字と魔方陣が描かれ、うっすらと発光している。
見たことがない文字、少なくとも日本語ではないはずなのに、その内容はすっと頭の中に入ってくる。本の文字を指でなぞり、読み上げる。
「闇よ付き従え、ダークネスロンド。」
すると、本が漆黒の光に変わり俺の全身に巻き付き、そして体の表面を全て覆ってからその光はすっと見えなくなる。
その途端、体が軽くなったのが分かった。手足が重力から解放されたように早く動かせる。
これは、パワーブーストか。想像通りの効果が出てほっとする。
「フム、重畳だ。では、夜の散歩と更けこもうか。フハ、フハハ、フハハハハハハハハハ。」
そうして俺は、マントをバサッと広げ、窓ガラスの淵に足をかけると、天高く夜の闇に跳躍したのだった・・・
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そして、先ほどのあれに繋がるわけである。
調子に乗った俺は、さんざんイタイ発言を繰り返しながら夜の街を跳び回った。
空から眺める夜の街はとても綺麗で、実際楽しくなかったといえば噓になる。
「でも、でもさー。あれはないよ。あの言動はMP削りすぎるよー」
ベッドの上で悶え苦しむ。
あの言動はキツすぎる。だから口では不満を言う。
しかし、それでも俺は、悶えながらにやける顔が止められない。
だって手に入れた力で何を為していけるのか、否応なしに妄想が膨らんでしまうのだから。
まずは3話を読んでいただいた読者の方にお礼申し上げます。1話で出てきたモテポイントですが、これは拓斗君が日常に潤いを与えるために自分で設定したものです。シナリオの都合上なかなか出てきませんが、1週間のうちにポイントを7つ溜めるとdボタンのように抽選に応募出来たり、dボールのように願いをかなえてくれるモテ神様が出るかもしれません。拓斗君は無事7ポイント溜めることが出来るのでしょうか。
引用:
新幹線に乗って京都:JR東海のCM
スーパー〇隊:日曜日の戦隊シリーズ