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1-29  決戦 約束

交差羽です。『中二病スキルで全てを救う』を29話を投稿させて頂きました、中二病と無双と困難に立ち向かう主人公が大好きな作者です。伊邪那岐命も好きです、約束を守ろうと頑張る子も好きです、宣言を上げる主人公も好きです。


「潰れてしまえ!!」


頭上から瀑布のような圧力が降り注ぐ。先ほどの坑道で受けたものより数倍は強い。


だが、俺は身体強化を最大にし、その中を悠然と歩く。右手に一本の刀を携えて、


「馬鹿な!?ならば、吹き飛べ!!」


伊邪那美命が今度は水平に手を振り抜くような仕草をする。

すると、死の気配を纏った濃厚な風が前方から俺を打ち据え切り裂こうと迫る。


それを俺は右手の刀を上段から振り下ろし縦に切り裂き、さらに歩を進める。

切り裂かれた風の余波が俺の後方で地面ごと白詰草の花を抉る。


伊邪那美命はその顔をさらに混乱と驚愕に染め、一歩後ずさるとキッとこちらを睨みつける。


「妾が気圧されるだと。常闇の女王にして亡者の主たる妾が、国生みの女王にして神々の母たる妾がこのような羽虫に気圧されるなどあっていいはずがない!!」


伊邪那美命が両目を瞑り祈るように両手を胸の前で組み、朗々と唱える。


言祝ぐ様にその美しい声で、しかし、その残酷な魔力を乗せて。


俺は立ち止まりその様子をじっと観察する。


「妾は国生みの女王、神々の母。その名は貶められた、その身は堕とされた。ならば呪おう、呪おう、呪おう。この世の命を、この世の全てを。祝おう、祝おう、祝おう、穢れを、穢れを、穢れを。この身に宿るは消えぬ炎、この心に宿るは消えぬ憎悪。その悲しみを知るがいい!!」


閉じていた両目をカッと見開き、両腕を広げる。



『黄泉をここに、九泉招来!!』



伊邪那美命の祝詞が終わると同時、大地が鳴動する。


美しかった白詰草は全て枯れ果てひび割れた台地からは赤黒い瘴気が立ち上る。

さらに足元からは骸骨や蛆が湧いた死体などの亡者が次々と現れる。

それは黄泉の国で見た亡者達と同じ姿形をしていたが、その手には不穏な空気を纏う赤黒い武器を持っており、内包する力もケタ違いであった。


恐らく一体一体が以前の俺と同等の力を持っている。


さらには、伊邪那美命は空中に浮かびあがり、その後ろに黒い太陽を出現させる。


俺は伊邪那美命の顔を見上げる。そして思う。

『ああ、この神様は・・・』


その太陽は地面から上がる瘴気を取り込み、その大きさと禍々しい存在感を徐々に増していく。


「くは、くはははは、余裕を見せたな羽虫が。この術が完成したからにはここは黄泉。死者の国。妾達死者の力は増し、生者は満足に動くことも出来ぬ。」


伊邪那美命が勝ち誇った顔を向け、哄笑を上げる。


「亡者達の餌になるか、黄泉の太陽に焼かれて死ぬか選ばせてやろう。」


『本当に・・・。』

俺が黙っていると、亡者達は我慢が出来なかったのか、こちら向かって殺到してきた。


切り落とし、切り上げ、横なぎ、突き。


亡者達は四方八方からその手に持った赤黒い武器で俺を攻撃してくる。

その攻撃はどれも苛烈で、虫が逃げる隙間もない。


それを片手に持った刀で弾き、いなし、切り上げる。

その度に火花が散るが、亡者達がひるむ様子はない。

亡者は切りつけてもすぐに再生してくる。


次々に襲い来る亡者とその武器。正に絶体絶命の窮地。

俺の服にもわずかに掠り、漆黒の衣の一部から素肌が見える。


「先ほどまでの威勢はどうした?さすがの其方もこの九泉招来の前にも手も足も出ぬか?

ほら、ほら、ほら。其方も妾の絶望のほどを知るがいい!!

くは、くはは、くはははははははははは。」


伊邪那美の命は口角を緩め、哄笑を上げる。その顔は愉悦を浮かべているように見える。

だが、その顔には揺らぎがあって、

『悲しそうな顔をしている・・・』


だから、俺は

刀を下ろし、

その吸い込まれそうな黒曜の眼を真摯に見つめながら、



「汝は地上を、自分が産み落とし、残していった者達を愛し、共に幸せな道を歩むことを諦めきれなかったのだな。」


そう言った。


「あ“ぁ“ぁ“?」


一瞬表情が固まった後、伊邪那美命が胡乱気な顔をする。


「取り繕うのはやめよ。汝は先ほどから叫んでいるではないか。悲しいと、憎いと。それは自分を置いていったもの達を愛していたからだろう?」


その表情が揺れる。


「何も思わぬ輩からされた仕打ちならば一時の怒りはあっても、神代の時代から消えぬ憎悪にはなるわけがない。」


「何を、貴様は何を言っている。」


声に怒気が混じり


「汝は今も愛しているのであろう?」


そして揺れる。


「うるさい!これ以上口を開くな!!!」


その間にも亡者達は俺の周りを包囲し攻撃してくる。

ガシャガシャと武器と骨を鳴らして、楽しそうだ。

だが、そいつらは無視して俺は話を続ける。


「神よ、大いなる神々の母よ。汝が居たから今がある。汝が居たから我らは生きている。汝が居たから我らは幸せな生を歩むことが出来ている。」


一つ息を吸い、


「汝に深き『感謝』を、伊邪那美命。」


俺は万感の思いを込めてそう告げた。

そして、手に持っていた刀を地面に落とす。


伊邪那美命はもはや苦しそうに顔を歪め、泣きそうな顔になっている。

それでも伊邪那美命は頭を振り、その顔を憎悪に染め直す。


だから俺は、彼女に気持ちを届けるために、その心に触れるために、邪魔になる障害を取り除くために

魔術を行使する。


刀は切っ先から地面に刺さり、チャプンとそのまま闇に沈む様に消えていく。

刀が全て闇に飲み込まれた瞬間、地面の闇が一気に広がり、広場全てを侵食する。

刀が沈んだところを中心に同心円状にいくつもの波がさざめく。


そして響く詠唱の声、


「闇よ、深き闇よ。我が呼び声に応え、全てを蹂躙せよ。」


高まる魔力を察知したのか伊邪那美命が叫ぶ


「亡者ども、其奴を止めろ!」


俺はそこで、もう一度しっかりと伊邪那美命を見つめ、


「闇よ芽吹け:ダークネスガーデン!」


足元から闇から無数の漆黒の刀が天を突くように飛び出してくる。

それは亡者達を刺し貫き、亡者達は桜の花びらの様にひらひらと黒い欠片になって散っていく。


「馬鹿な!?亡者達は黄泉において不死、そう簡単には、」

「この刀には不死対策を施している。元々は闇を固めたものだ、そこに不死を殺す概念を組み込むなど造作もない。」

「化け物め!」

「心外だ。」


伊邪那美命は憤怒に染まった表情でこちらを見ると、指を指すように俺の方に手を向ける。


「もうよい、ならば死にさらせ!」


すると、漆黒の太陽から隕石の様に赤黒い火球が高速で飛んでくる。


俺はすぐさま近くにあった刀に手を翳す。

ふわっと、地面から刀が飛び上がり柄が俺の手の中に納まる。

その刃で次々に来る火球を打ち落とすが、火球は強力で3発も弾くと刀に罅が入る。


すぐさま次の刀を引き寄せ、火球を弾いていく。終わりが見えないほどの猛攻。


「少し数が多いな。」


俺は、迫りくる火球のわずかな間隙をついて反撃に出る。

手元に刀を引き寄せ、それを伊邪那美命の背後で形成中の火球に目にもとまらぬ速さで投擲。


伊邪那美命はすぐ近くで爆発した火球に煽られバランスを崩す。


「追加だ。」


さらに刀を引き寄せ投げる、投げる、投げる。

一歩ずつ伊邪那美命の方に歩み寄りながら俺は次々に刀を投げる。

伊邪那美命は必至な様子で何とかバランスを保ち反撃をしようとするが、俺の刀の投擲スピードの方が早い。


投げる、投げる、投げる

爆ぜる、爆ぜる、爆ぜる


次第に火球の勢いが衰えてくる。


「この化け物が!なぜじゃ、なぜ妾の邪魔をする。妾の約束の邪魔をするのじゃ。」


だんだんと伊邪那美命の顔に焦りと、諦めと、そして深い悲しみが宿っていく。

その目尻に涙を浮かべ、それでもなお必死に歯を食いしばりながらこちらに攻撃してくる。

その様子はまるで幼い子供が駄々を捏ねているようにも、母親が子供に拒絶された時の様にも見える。


「妾にはこれしかない、これしかないのじゃ。国を生み、多くの子を成し、その子を産むために焼け死んだ。黄泉に堕ち、それでも毎日願った。

毎日毎日毎日。あの暖かな日常に戻りたい。夫と子供達に囲まれて過ごした幸せな日々に戻りたい、そう願ったのじゃ。

しかし迎えに来た伊邪那岐は言った。黄泉に堕ちた醜いものなど妻ではないと。

妾はそれでも一緒に居たかった。地上に戻る伊邪那岐を必死に追いかけた。

黄泉から出た時の暖かな日の光は今でも忘れられぬ。

けれど、伊邪那岐は妾を拒絶し再び黄泉に落とした。

だから誓った、一日に1000人の人間を縊り殺すと。そして伊邪那岐も誓った、一日に1500人の人間を生み出すと。

そして妾の元を去った。だから人間を殺す。毎日1000人殺す。それだけが妾に残された最後の約束なのじゃ。だから、だから、」


悲鳴に似も似た絶叫が響く。

だから俺は言った自分の言葉で、爆ぜる火球が周囲を赤黒く染める中。

俺の中のもう一人の俺も静かに聞いてくれている感じがする。


「でも、本当はあなたはそんなことをしたくないんじゃないのか。」


刀を投げる投げる投げる。

火球が爆ぜる爆ぜる爆ぜる。


「あなたは現れてからずっと悲しそうだった。その瞳の奥に悲しみを抱えていた。」


「お前に何がっ」


刀を投げ投げる。

火球が爆ぜる爆ぜる。


「分かる、分かるさ。俺も大切なものを失った記憶があるから。世界から拒絶され、やっと出来た大切なものは守れなくて、大事な約束され守れなくて、すべてに絶望して。あれはもう一人の俺だから。だから分かる、全てに絶望してそれでも約束に縋りつこうとするあなたの気持ちが分かる!」


左手で胸を押さえて叫ぶ。


刀を投げる。

火球が爆ぜる。


もはや火球の勢いはない。


「でも、でもさ。それでもまだそこにあるんだ。大切なものがそこに残ってるんだよ。だから今度こそ失えない。必ず救って見せる。あなたにも譲れないものがあるように、俺にも譲れないものがあるから!!」


心の底から叫ぶ。火球の形成が完全に止まる。

伊邪那美命は「はあ、はあ」と肩で息をしている。何かを言おうとして、それを口の中で納め。

それを数度繰り返し。

次第にその瞳に理性の光を宿し、俺の様子を見て、


伊邪那美命は一度目を瞑ると、そっと優し気に目を開け小さく微笑む。そして、


「羨ましいな、其方には大切な者がまだ在って。」


そう少し寂しそうに呟き、


「ならば、我を通してみるが良い、人の子よ、妾が愛したもの達の末裔よ。手加減はせぬ、妾は国生みの神にして常闇の女王。その全霊をもって抗って見せよ。」


と力強い笑顔で告げる。その笑顔が眩しくて、俺も全力で応える。


「我は漆黒。闇よりもなお深き闇。この身は理不尽に抗うためにある。さあ、悲しくも誇り高き女神よ。汝に安らぎを与えよう。ここからは深き闇の時間だ!!」


高らかにそう宣言した。

まずは29話を読んでいただいた読者の方にお礼申し上げます。なんか、書いていてだんだん伊邪那岐命さんも好きになってきました。一途に頑張る系の女の子も素敵ですね。もう少しで決着です。気になる人は続きを読んでいただければ幸いです。

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