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1-2  受け継がれる想い

交差羽です。『中二病スキルで全てを救う』を2話を投稿させて頂きました、中二病と無双と困難に立ち向かう主人公が大好きな作者です。フラグも好きです、膝枕も好きです、いじってくる妹キャラも好きです。

この調子で3話以降も投稿させて頂きます。


 真っ暗な空間。


 体が分解され粒子のようにも帯のようにもなっているような感覚。


 一度体が解け、再度組みあがり、また解ける。

幾度繰り返されただろうか。


 夢を見ているようなぼんやりとした意識、周りは深い闇に覆われ、自分の指先さえ見えない。

宙を彷徨っている感覚だけがある。


 そんな中、どこからか声が聞こえてくる。

意識に沁み入るように、魂に刻み込まれるように。


「見つけた、やっと会えた。」

「見つけた、今度こそ護って見せる。」

「見つけた、もう絶望なんてさせない。」

「見つけた、ずっと一緒。」

「見つけた、心から愛してる。」


 女の人の声が聞こえた。


 鈴の音の様に美しく、だが触れれば壊れてしまいそうな繊細な声。

一人のようにも、何人もの声のようにも聞こえる。


 ただ、その声を聴いていると、ひどく懐かしく、ひどく悲しく、そしてひどく愛おしい気分になり、胸が締め付けられる。

次第にその声が遠ざかっていく。手を伸ばす、だが掴めない。


 すると一転


 今度は闇の底、一番深い所から男の声が響いてきた。


 重苦しい威圧感を纏う声。

その声は決して燃え尽きない、深い深い憤怒を孕んでいる。


 周りの風景が切り替わる。

赤く赤く赤く赤く赤く紅く紅く紅く紅く紅く紅く

それは地獄の業火のようだった。


 声が告げる。圧し潰すように、侵食するように、


「お前は知らなければならない。」

「お前は救わなければならない。」


「全てを、全てを、全てを。無念を晴らせ、絶望を蹂躙(じゅうりん)せよ。」


 声が沁み込み、俺の心も深い怒りの色に染め上げられていく。


 赤く、赤く、赤く、紅く、紅く、紅く、紅く。


 自分が変わっていく感覚に心が、魂が恐怖を覚える。


「うわーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 目は充血し、口からは絶叫が漏れる。

周囲が真っ赤な炎に変わり、体を指先から焦がしていく。


「そのための力をお前にやる。理不尽に抗え、運命を否定しろ、不条理を許すな、神に逆らえ

救え、救え、救え救え救え救え救え救え救え救え救え救え救え救え救え救え救え救え!!!」


 周囲の炎が俺の胸を中心に収束し、俺の中を焼き尽くしていく。


「っーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 もはや声も出ない、自分の喉が動いているのかさえ分からない。

何かが体の中で暴れまわる。自分の魂が書き換えられていく。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい


「っーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 意識を手放しては、痛みで引き戻されのたうち回る。


 もうやだ、苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい

 終わりにしてくれ、苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい

 ああ、苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい


 襲い来る痛みと苦しみでもはや体を動かすことすらできない。

 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい・・・・・・





 何分、何時間、何日間。どれぐらいこの苦しみを味わっただろう


 徐々に周囲の熱が治まっていく


 終わりが近いのを感じる


 曖昧な意識


 やっとこの苦しみが終わるのかとかすかな安堵


 体は動かない


 心も焼き尽くされている

 

 でも


 最後に


 声が


 聞こえた


 気がした



「全てはお前次第、どうか救ってくれ・・・・・・。」


 その声は


 悲哀と


 懇願(こんがん)


 満ちていた・・・・・・


******************************


「拓斗、拓斗。起きてよ拓斗。」


 頬に触れる手の感触と柔らかな声。その手はとても温かくて。


「う、うーん・・・」


 ぼやけていた意識が徐々に覚醒していく。

後頭部に何か柔らかな感触とフローラルな匂い。


 俺はツグミに膝枕をされていた。


「・・・ここは。ああそうか。俺、神社の本殿に・・・」


 うっすらと記憶が蘇ってくる。


「そうだよ。拓斗、気付いたら居なくなってて、林の中とか神社の周りを探してやっと見つけたんだから。」


 ツグミは俺を見つけて安心しているのか、その顔に微笑を浮かべた。

そこで俺は、黒い影を追いかけていたことを思い出す。


「そういえば、あの黒い影の奴はどこ行った。」

「それが、林の中で見失っちゃって。たぶん追いかけられているのに気付いて逃げたんじゃないかな。」

「本殿で俺を見つけた時にも居なかったか?俺、あいつが本殿の中に入っていくのを見たんだ。」


 上半身を起こし改めて本殿を見渡すが、狭い本殿の中に隠れられそうな場所はない。


「僕の方では見つけられなかったよ。そもそも、今さっき拓斗を見つけたばっかりだし、はぐれてから1時間ぐらい経っているから。」

「そうか。」


 本殿の中には俺とツグミ以外は見当たらない。

そういえば、さっきの光る球は、と思い確認するも、神棚の上にあるのは歴史を感じさせる鏡のご神体のみ。

光る球の影も形もない。


「あれは、夢だったのか?」

「なんのこと?」

「・・・・・・・・」

「拓斗?」


 ツグミは不思議そうに俺に問いかけるが、先ほどの黒い影、虹色に光る球とそれに触れた時に見た光景。決して現実では無い、でも夢でも無いリアルな感触。


 それらを思い出し混乱する俺はツグミの問いに答えることは出来なかった。


******************************


 混乱する頭のままツグミと分かれ、気づけば俺は自室のベッドの上に横になっていた。


「ほんとに、何だったんだろあれ。」


 頭の中に渦巻いているのは、先ほど見た光景。

真っ暗闇の中から聞こえた女性の声とそれに続く冷たい男の声。

体の中に光る球が入ってきた瞬間の焼けるような感覚は今でもはっきりと思い出せる。


「完全に超常現象だよな。いや、俺の夢って可能性もあるけど。」


 理性はあり得ない、くだらない夢だと告げるが、俺の奥底にある感覚がそれを否定する。

それに、何より心がワクワクしているのだ。


「もしかしたら、すごい能力とかに目覚めたりして。そしたら、ハーレムとか、大金持ちとかなれたりなんて。」


 そんな妄想に浸っていると、階下から


「拓斗兄、ご飯できたよ。」


と声がかかる。俺ははっと我に返る。


「いかんいかん、もう中二病は卒業したんだ。もう、あの過去とは決別したんだ」

だが、やっぱり諦めきめない。

「でも最後に念のためにあれを言ってみたい、言っちゃってみたい。あくまで念のため、念のためだから。」


 俺は誰ともなく言い訳のようなセリフを言う。そして、


「せーの『ステータスオープン』。」


 右手の人差し指と中指を並べて立てながら、右手を横にスライドさせるようにポーズをとる。


 しーーーーーーん。


 うん、分かってた、分かってたさ。

ここは現実。開くのは社会の窓と自室の扉ぐらい、ステータスなんかオープンしないんだって。


 そう、自室の扉ぐらいで・・・。


 ふと視線を上げると、扉の隙間からこっちを見ていた妹の結衣と目があう。

どうも俺が遅いので様子を見に来たようだ。良くできた妹である。

そんな妹がドアの取っ手を持ったまま口元にニヤリと笑みを作り、


「ステータスオープンwww。」


と何とも楽しそうに言ってくる。


 前言撤回である。

あの野郎、なんて憎たらしい奴だ。兄として、妹にお仕置きしなきゃいけない。

俺は一歩踏み出そうとするが、


「お母さーん、拓斗兄がまた中二病発症しているー。」


 その前に妹が階下に駆け降りていく。


「あら、そうなの、久しぶりねー。まったくもう、もう高校生なんだからそんなことしてないで早く下に降りてきなさいよー。」

「っつ~~~~~~~~。」


 俺は羞恥で顔を真っ赤にしてその場に蹲るのだった。


******************************


「パト〇ッシュ、僕はもう疲れたよ。」


 夕食でさんざん妹にいじられた俺は、精神力をごっそり削られ枕に顔をうずめる。

結衣のやつ、ここぞとばかりにいじりやがって、おかげで古傷がめちゃくちゃ痛む。


 脳内拓斗君は出血多量で救急搬送だ。

コードでブルーな救急センターに運ばれる拓斗君。そこでは美男美女が勢ぞろいで何か話し合っている。

何々?

「致命傷です、助けるのは無理でしょう。ご臨終です。」

手を合わせる美男美女。

拓斗君、どうしてこんなことに。うわーーーー。

俺は枕を涙で濡らしながら、のたうち回る。


 やはり古傷が大きすぎたか。

拓斗君の墓を掘りながら、その思い出を振り返る。


 そう何を隠そう、俺は昔、中二病を発症していたのだ。いや、たまに隠せてはいないのだが。


 その中で俺は時に特別な力に目覚め、時に勇者になり、時にダークヒーローになり、時に錬金術を極めた。


 アマ〇ンに売っていた魔導書をもとに自室の床に巨大な魔方陣を描き、全身黒ずくめで格好で無駄にカッコいいポーズをとりながら魔術を唱えたり、


 自作した星の息吹を纏える聖剣で「エクスカリ〇ー」と叫びながら大上段から振り下ろしたり、


 中学二年生という枠を飛び越えて、中学3年間にわたる長期間、俺は全力で活動した。


 他人から見たら頭のおかしい行動だったかもしれない。

だが、その時の俺は何かに駆り立てられるように必至だった。


 それは成長につれて見えてくる常識だったり、何も変えられない世間への抵抗だったのかもしれない。


 ただ、たださ、そうだとしても、誰かにそのことを触れられるのはもの物凄く恥ずかしい!恥ずかしいのだ!!!


 その度に、中二チックな格好をしたミニ拓斗君が起きてきて

「呼んだ?」と心の中で呼びかけてくる。


(うるせー、呼んでねーよ!)


 俺は枕に顔を沈めながら声にならない叫びをあげる。


 そうしてしばらくのたうち回り気分を落ち着かせた時には1時間ほど経過していた。


 そろそろ風呂にでも入ろうかと思って立ち上がったところで、ふとクローゼットの奥に目がひきつけられる。


「そういや、昔書いたノートはあの辺にしまってあるんだっけ。」


 懐かしくなり、クローゼットに奥にある金属の箱を取り出す。


 その箱にはA4コピー用紙にデカデカと『封』と書かれた紙が貼りつけられていた。


「そういや、封印してたな。」


 俺は苦笑しながら、封印の紙をはがしその箱を開けた。


 今思えばこれが引き返せる最後のタイミングだったのかもしれない。

 

 俺は今でも考える。もしこの時に箱を開けていなければどうなっていたのだろうか。

あるいは平穏な高校生活を送っていたのかもしれないと。



 けれど俺は箱を開けた。



 この後どんな運命が待ち受けているのかも知らずに。

運命は、ここから回り始めた。

まずは2話を読んでいただいた読者の方にお礼申し上げます。この話もフラグが細かく組み込まれています。それはさておき、ついに出ました中二病ノート。ここには拓斗君の黒歴史がたっぷり。内容は詳しく記載する予定はないですが、とっても素敵なことがたくさん書いてあります。ちなみに拓斗君の場合は何パターンかのバリエーションも。きっと読者の中にも中二病ノートを作ったことがある人も居るはず。共感して読んでいただければ幸いです。


引用:

「パト〇ッシュ、僕はもう疲れたよ。」:フランダースの犬より

コードでブルーな救急センター:ドラマコードブルー

「エクスカリ〇ー」:fate

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