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1-28  決戦 地上戦

交差羽です。『中二病スキルで全てを救う』を28話を投稿させて頂きました、中二病と無双と困難に立ち向かう主人公が大好きな作者です。実は寂しさを抱えている人も好きです、Y字バランスも好きです、悠然と歩を進める主人公も好きです。

俺が余韻に浸っていると、一連の流れを見届けていた月の光を宿した球体が満足そうに一度明るく点滅した。

そこで俺はもうひとつの球体の存在を思い出す。


そうだ、もう一人の魂が居たんだ。


俺の予想が正しければ恐らくこの月の光を宿した球体はあの男が愛した女性のもの。

その球体は俺の意識が自分に向いたのが分かったのか、頭の上でクルリと一周して、ある方向に進みだす。

俺は、その方向に付いていく。


亡者達は先ほどの俺の魔力にあてられたのか、遠巻きにこちらを眺めているだけだ。


俺と球体はそのまま歩き続き、岩肌が刳り抜かれた深い横穴の前までたどり着く。

その先は上り坂になっているようだ。

そこでもう一度、球体は俺の頭の上を今度は名残惜しそうに旋回するとそのまま先に岩穴の中に去って行った。


『ありがとう』


か。最後に月の光を宿した球体が俺に伝えてきた言葉だ。


恐らく、彼女は先に行って美桜を救う準備をしてくれるのだろう。

言葉と共にその思念が伝わってきた。

そして俺は力強く踏み出す。この先は黄泉平坂。ここを上り切った先の現世に美桜が居る。


「我が闇の誇りにかけて、絶対に救い出して見せる!!」


俺は全速力で黄泉平坂を駆けあがるのだった。


****************************


時を同じくして地上。

その少女は漆黒の衣裳を纏い、星を宿す領巾と豪奢な翡翠でつくられた装飾で飾られている。

少女の顔は人形の様に整っており、その肌は新雪の様に白い。

その髪は美しい濡羽色の光沢を放ち、その瞳は黒曜石の様に深い黒だが角度によって七色に変化している。


そんな美しい少女が一人森の中を歩く。

ペタペタペタ、と。


少女は進む先をはっきりと見据えていた。


街だ。


少女は街の方に進んでいる。

しかし、その足取りはゆっくりしたものだった。

それはまるで現世のものを慈しむ様に、現世のものを目に焼き付けるように。

そこには確かに母の愛のような感情が見て取れた。


しかし、それに反し少女の周囲は静まり返り、動物の一匹、虫の一匹の声すらない。

動物も他の生き物も分かっているのだ。その少女に近寄れば死が与えられることを。


一羽の鳥が飛行を誤ったのか、少女の近くを通る。

するとその鳥はひきつけを起こした様に痙攣し、ピッと一声鳴くとそのまま地面に落ち二度と動かなかった。

少女はそれを一瞥すると深い悲しみを目の奥に宿した。

しかしそれも一瞬。

すぐにまた街の方を向くとゆっくりと歩きだす。

夫が生み出した人間を滅ぼすために、約束通り1日に1000人を殺すために。


****************************



俺は駆ける駆ける駆ける。


黄泉平坂を駆けのぼり、黄泉と現世との境界を視認する。

そこは巨大な岩戸で塞がれていた。

しかし駆けるスピードはそのままに俺は詠唱する。


「闇よ、深き闇よ、形為せ。シャドーマテリアライズ:モードソード。」


そうして右手に一本の日本刀を作り出す。

その刀を一度腰に溜め、勢いのそのまま思いっきり巨大な岩戸へと突きを放つ。

岩戸と刀が一瞬拮抗するが、


「やああああああぁぁぁぁ!!」


裂帛の気合と共に俺がさらに力を入れると、岩戸は粉々にはじけ飛んだ。


俺は岩戸が塞いでいた岩穴から跳び出す。

そこは、美桜が囚われていた坑道の入り口だった。

跳び出してきた勢いそのままに空中で四方を見渡す。

遠くに街の明かりが見える。良かったまだ無事なようだ。


「僥倖だ。伊邪那美命は街まで達していないと見える。ならば!」


俺は空中で前方伸身3宙返り3回捻りをして地上に降り立つ。

両足をそろえてYの字でスチャっと着地する。

ついでに、黄泉平坂の出入り口から亡者が溢れてきそうだったから、魔術で作った巨石で埋めておいた。

アフターケアーもばっちりです。


俺はすぐに魔術で闇を固めた小鳥を召喚した。そしてそれを四方に飛ばし伊邪那美命を探す。


「見つけた!」


すぐに一羽の小鳥から伊邪那美命発見の知らせを受ける。

幸いまだあまり遠くには行っていなかった様だ。


森の中を駆ける。


既に身体強化の魔術と右眼の魔眼は発動している。

右手には闇を固めた刀、空からは召喚獣により戦域全体の監視も行っている。


坑道の入り口から森の中を駆けること数十秒、少し開けた場所に出た。


そこは半径30mほどの白詰草の花畑、その中心には一本の桜の木が立っていた。


そして、その桜の木の傍らに彼女は居た。


どうも、こちらが追って来るのを察知してこのような場所を選んだようだ。


「羽虫が。どうやって黄泉の国から舞い戻ったかは知らぬが、何度も飛び回れられるのは不愉快じゃ。今度こそ、その肉体も魂も粉微塵に砕いてくれよう。」


伊邪那美命は大変お冠の様だ。

俺が黄泉から戻ってきたのが気に入らないのか、現世観光をしていたところを邪魔されてイラついているのか、それとも先に行ったルナさんの魂が何か干渉しているのか。

はてさてどれか、いや、その全てか。


伊邪那美が頭上に手を掲げると、花畑全体を覆う様に漆黒のドームが形成される。


まるで先の坑道奥の空間の様だ。

俺は冷静に状況を把握する。

先ほど、黄泉に引きずり込まれる直前に感じていた伊邪那美命への圧倒的な恐怖は今は無い。


俺は右手を顔に当て、その隙間から青い右眼を輝かせる。

右眼に魔方陣が浮かび、真っ直ぐに伊邪那美命を捉えるとその内面を覗き込む。

良かった、まだ美桜の魂は伊邪那美命に取り込まれていない。ルナさんの魂が伊邪那美命から美桜を守ってくれている。


「流石だな。であれば、我も我の為すべきことを為そう。」


伊邪那美命は驚いた顔をしている。先ほどまでと違って反動も無しに神の内面を覗いたことに驚愕したのだろう。

そして、その顔を怒りに染めると、


「小賢しい!!」


そう叫び、右手を大きく上から下に振り下ろす。


「潰れてしまえ!!」


頭上から瀑布のような圧力が降り注ぐ。先ほどの坑道で受けたものより数倍は強い。


だが、


俺はその中を悠然と一歩、伊邪那美命の方に足を勧めるのだった。


まずは28話を読んでいただいた読者の方にお礼申し上げます。やっと1章の山場に突入しました。30日の大量誤爆によりだいぶ予定は狂いましたが、もう少しで1章も終わりです。2章も少しずつ進めています。気になる人は続きを読んでいただければ幸いです。でもその前のエピローグが個人的には好きです。

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