1ー26 黒の世界⑦
交差羽です。『中二病スキルで全てを救う』を26話を投稿させて頂きました、中二病と無双と困難に立ち向かう主人公が大好きな作者です。当初の予定では25話で1章でしたが途中から分割したので(投稿日数は同じにしています。)何卒宜しくお願い致します。
俺は5日かけて王都にたどり着いた。
その間、ルナに告白する言葉を考えながら。
一刻も早くルナに会いたかった。なんて言おう。
まずは「ただいま」か。
後は、皆で桜を見に行く日を決めて、あとはどこで告白しよう。
そのように胸を躍らせながら王都の近くまで来ると雨が降り出した。その雨はポツポツと小雨だったけれど、桜の花が散らないか心配になる。
「早く帰らないとな。」
そして俺は早足に孤児院に向かう。
逸る気持ちを押さえながら進むが、ふと違和感に気付く。
「なんだ、何か焦げ臭い。」
その匂いは孤児院の方向に進む度に強くなった。
俺は嫌な予感がして駆け出す。
あと少し、もう少しで孤児院に着く。
あの角を曲がれば孤児院が見えてくるはずと・・・・
しかし、そこに以前の孤児院は無かった。
そこにあったのは焼け焦げ、半壊した建物だった。
外壁は大きく崩れ内部が覗いている。
建物の内部には、孤児院の子供達と毎日祈りを捧げた光の精霊の像が見るも無残な姿に成り果てており、地面には崩れた壁と屋根の一部が雨に打たれ、まだわずかに煙を上げていた。
そして、崩れた建物の周囲に倒れ伏した子供達と育ての親の院長が居た。いずれも質素な衣装を血に染めピクリとも動かない。名前を呼ぶも誰一人動きだすものは居ない。
「なんだ、これは・・・・。なんなんだよ、これはーーーーー!!!」
俺は絶叫する。
皆に駆け寄る。
足がもつれる。
心臓が早鐘の様に脈動し、頭が痛くなる。
俺は院長に駆け寄る。
院長は心臓を一突きで貫かれ、そこから大量の血を流していた。
その体は冷たく、一目で命の灯が消えていることが分かる。
「院長、院長、院長!!起きてくれよ院長、こんなの嘘だろ。だってこの前まで元気だっだじゃないか。なんで、なんでこんな。答えてくれよ。」
手の中から死の感触が伝わってくる。
「俺、あんたに言ってない、あんたのこと本当の父親みたいに思ってたってって言えてないんだよ・・・・。」
院長は答えない。
両目から涙があふれる。
雨が段々と強くなる。
俺は院長をそっと地面に横たえ、他に生きている者が居ないか、そう思って彷徨う。
手が血と泥でぐちゃぐちゃに汚れるのも気にせず俺は一人ひとり抱き上げる。
皆、胸から血を流しぐったりとしている。
「ハル、ハル起きろよ。ヨハン、ヨハンは寝てるだけだよな。サラ、サラ、帰ってきたらお祝いしてくれるって言ってたじゃないか。リン、リン、ほらいつもみたいに元気に笑ってくれよ・・・・・・・・。」
誰一人答える者は居ない。
「誰か、誰か居ないのか!!なんで、なんでこんなことになってるんだよ!!!」
俺は絶叫する。
それでも声を上げ続ける、誰か生き残っている人間が居るんじゃないかという一縷の望みに縋って、
「レン、レン、お前リンと喧嘩したら仲直りしたいって言ってたじゃないか。アオイ、アオイ、まだお前には何も教えられてない、やっと話せるようになってこれから楽しいことや嬉しいことをたくさん経験するんだろ・・・・・・みんな、お願いだから答えてくれよ。」
幾人そうして抱き上げただろうか。
手足も服も血と泥にまみれ、顔も涙と雨でぐちゃぐちゃだ。
そして、生き残りを求めてさまよい歩き、建物の一番近くに彼女は居た。
彼女も地面にうつ伏せに横たわり、血の海に沈んでいる。
濃厚な血の匂いと死の気配。
それでも俺は彼女をそっと抱き上げる。
彼女の顔を見る。そこには一人の美しい女性がいた。
しかし、唇や肌は青白く、周囲に流れ出ている血の量からも既に彼女の魂がそこに無いことは明白だった。
俺はその女性の遺体を抱きしめる。
強く強く抱きしめる。
「どうして、どうしてこんなことに。ルナ、ルナ、ルナ、ルナ、ルナルナルナルナルナルナルナルナーーー。」
天に向かって慟哭する。
答える声は無い、快活で、それでいて優しかったあの声は聞こえない。
ふと夜の体に視線を落とす。
その服は灰で煤け、美しかった黒髪の一部は焦げ、雪のように白かった手足にも火傷の跡が見える。
「そうか、ルナは最後まで子供達を守ろうとして・・・・」
ルナはきっと最後まで自分の身を犠牲にしたのだろう。
ルナの笑顔が思い出される。
ルナはきっとこういう時に笑う。
自分だって不安で一杯一杯だっただろうに、他の子供達が不安にならないように。
そして言うのだ
「大丈夫、私が何とかして見せるから。」
と。幼い頃から常に傍にあったあの笑顔。
しかし、その笑顔が見られることはもうない。
「ルナ、ルナ目を開けてくれよ。俺ちゃんと帰って来たぜ。今回の仕事は大変だったけど、ルナや院長や皆との約束を守って帰って来たんだ。だからほら、目を開けてくれよ。
皆で桜の花を見に行くんだろ。お弁当持って、チビ達も連れてさ、きっと楽しいぜ。
ハルとヨハンは走り回って、リンとレンが喧嘩して、でも最後は仲直りしてそれを隣でサラが微笑みながら見てるんだ。アオイは歩けるようになって初めての桜だ、きっとあのプニプニほっぺでくしゃって笑ってくれるさ。だから、だからさ起きてくれよルナ。
俺、まだお前に伝えらえてない、好きだって伝えられてない!これからもずっと一緒に居て、喧嘩しても歳をとっても、それでもずっと一緒に居て欲しいって伝えられてない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。目を開けてくれよルナ。お願いだから、お願いだから・・・・。ルナ、ルナ、ルナ・・・・。」
俺は嗚咽を漏らしながらルナの首元に顔をうずめる。
涙が次から次にあふれ出してくる。
どれぐらいの時間そうしていただろうか。
雨はすっかりやみ、涙は枯れ果て、周囲は暗闇に閉ざされていた。
俺は顔を上げる。
何も考えられない。
なぜこんなことになってしまったのか。
俺の行いが悪かったのか。
何処からか俺の正体がバレたのか。
そう思ったが、すぐに考えるのが馬鹿らしくなる。
俺の手の中にあった大事なものは既に失われた。
もう難しく考える意味さえない。何も考えたくない。
俺はルナの腕の中にあるルナの顔を見る。
その顔はやはり美しかった。枯れたはずの涙があふれてくる。俺は
「ごめん。」
と呟くと、一瞬だけルナの唇に自らの唇をそっと触れさせる。
初めてのキスは涙の味がした。
そして、その体を優しく地面に横たえ、立ち上がると、
「ater。」
漆黒の衣装を身に纏い、
「liber。」
重厚な本を左手に呼び出し、ページに手を翳す。
「無垢なる者達に、安寧と安らぎを。優しき闇の抱擁、tenebrae amplexus。」
そう祈るように唱えた。
遺体はゆっくりと闇に包まれるように消えていった。これで、ルナ達の遺体が動物に食い荒らされることも、心無いものに踏みにじられることも無くなった。
そうして俺は虚ろな目でこの天を仰ぎ、闇を固めた使い魔を召喚する。
「いけ」
原因を突き止める。
孤児院をこんなにした奴を、院長や子供達を殺したやつを、ルナを殺したやつを・・・。
俺は天を仰ぎながら立ち尽くす、心に黒い穴が開いたようだ。
程なくして使い魔が戻ってくる。城の騎士の話を聞いたらしい。
それによると、今回の一件、2年前に孤児院を訪れた大臣が主導らしい。
俺が義賊の活動をしていると聞きつけた大臣が王に上申して今回の事を成したのだと。
噂の出どころは濁った金髪金眼の男だったと。
騎士達は大臣の命令で俺の家族を殺し、孤児院を焼いたと。
そして、それを誇らしげに話していた様子を伝えてきた。
それを聞いて、心の中にふつふつと憤怒と後悔が湧く。
こんなことを計画した大臣への怒り、皆を無残に殺した騎士達への怒り、何より傲慢だった自分への怒り、そして後悔。
心の穴がドロドロしたものに塗りつぶされていく。
叫び出したい激情に駆られるが唇をかんでぐっと我慢する。
噛みしめた唇から血が滴る。
この怒りを一片たりとも逃すわけには行かない、俺はこの怒りをもって全てを滅ぼす。
そう誓い、王城の方を向く。
俺は跳躍する、この光景を作り出した元凶の元へ。
この世の地獄を見せてやると心に誓いながら。
そして、その夜俺は一つの国を滅ぼした。
まずは26話を読んでいただいた読者の方にお礼申し上げます。今回の話はエピローグを含めて3回目ですが、バックグラウンドが分かることでより感情移入してみていただけたのなら幸いです。もう少しで黒の世界を脱出して戦闘パートになりますので、気になる人は続きを読んでいただければ幸いです。




