1-17 黄泉平坂と女神降し
交差羽です。『中二病スキルで全てを救う』を17話を投稿させて頂きました、中二病と無双と困難に立ち向かう主人公が大好きな作者です。魔方陣も好きです、集団相手に無双する主人公も好きです、昔話も好きです。
エプタ・サモス・エレーミスと名乗った男はケタケタ笑いながらこちらを見てくる。
猫背で髪はぼさぼさ、不健康そうな見た目である。両手もだらんとぶら下げられ戦う意思は無い様に見えるが、その両目は異形と同じ濁った金色で、実験動物を観察するかのような視線を向けてくる。
「それにしても、出来損ないとは言えあの大量のスィスィアを突破してくるとは、いやはや大したものです。」
「スィスィアだと?」
警戒を解かずに問いかける。
「そうです。動物を繋げ合わせたような化け物と遭遇しましたですよね?」
「あの異形、スィスィアと言うのか。何とも大仰な名だ。」
「そうです、正確にはスィスィアもどきですが。」
「スィスィアだろうがもどきだろうが関係あるまい。我の目的は分かっているだろう。そこの少女を疾く開放しろ。でなければ汝に闇の裁きが下るぞ。」
魔力による威圧を込めるがエプタはどこ吹く風だ。だが俺の発言にエプタが疑問符を浮かべる。
「??ずいぶんと不思議な話し方をされるのです?うーーん。」
カクンと首を傾げ、何かを考えこむように拳を顎に当てる。人形のような動きで気持ちが悪い。
「ああ、そうですか、なるほど。既に混ざってらっしゃるですね?けれどまだ境界が?であればトンネル効果です?粒子の接触は既になされていると。となると、今回はやはりこの街で合っていたですね。わたくしの推察は間違っていなかったようです。」
ニヤリと口を大きく広げ、醜悪な笑みを作る。
「何を訳の分からぬことを。それならば、我は我の目的を果たすのみ。深き闇の怒りを知れ!」
俺は会話をしている間に周りを確認していた。
祭壇を中央に地面には二重の六芒星で描かれた魔方陣。それが赤黒い光を放っている。
魔方陣には見たことが無い文字が並び、一番外側の六芒星の頂点にはそれぞれエプタがスィスィアと呼んでいた、頭が女性型の異形が静かに立っている。
内側の六芒星とその外側に円状に並んだ文字列が逆方向にゆっくりと回転し、一定の距離を回転する度に美桜を縛っている鎖に赤黒い呪言が浮かび、祭壇の周りに渦巻く瘴気がその色合いを濃くしている。
その度に美桜の口からは苦悶の声が漏れる。
もはや一刻の猶予も無い。俺はその足にぐっと力を入れ駆けだすが、
「まあまあ、もう少しお話しましょうです。何分わたくしも人と話すのが随分と久しぶりなのです。せっかくここまで来てくれたお礼にもう少し質問に答えるのも吝かではないのですよ。特別にとっておいたオータムナルの紅茶と高級ミルクもあるですよ?」
「くどい!」
「やはり他人とのコミュニケーションは難しいです。では、ご希望通り戦いながらのお話といたしましょうです。」
エプタがつまらなそうにかぶりを振る。そして袖から意匠の凝った古い平らな櫛を取り出し放り投げる。
パリーーーーーーーーーーーン
澄んだ音が響き櫛がキラキラと細かい粒子になって宙を舞う。
するとどこからか俺と祭壇の間に大量のスィスィアもどきが湧いてくる。
「くそっ、召喚術か!?」
俺はそのスィスィアもどきの集団に突っ込みながら魔術を唱える。
もう魔力の残量が心許ない。魔力消費が少なくかつあの集団を突破するには、と一瞬で思考を巡らせ選択する。
漆黒より出ずる闇の衣、ダークネススケイルと唱え手足を強化。先頭の数体を掌底でまとめて吹き飛ばす。さらに、後続で襲い掛かってくる一体の腕を掴みそのまま投げ飛ばす。
「いえいえ、現世における召喚とは似ていますが違うものです。ここは既に境界。神話の再現によりスィスィア達を呼び寄せただけなのです。」
「境界だと?」
俺はエプタから情報を引き出すために会話を続ける。
スィスィアもどき達の猛攻を躱し、いなし、かえす拳でその胴体に穴を空け、前後左右、囲まれながら、それでも祭壇への道を切り開いていく。
「そうです、境界です。ここは地中深くです。日本の神話でも西洋の神話でもそうでしょう、地の底、そこにあるものは決まっています。」
エプタはまたもケタケタ笑いながら宣う。
「黄泉の国です。」
「・・・・黄泉の国・・・・だと。」
「そうです、黄泉の国です。」
エプタは会話が繋がったのが嬉しいのか、はしゃぎながら答える。
「今呼び寄せたスィスィア達は元々は黄泉の国の住人達。魔方陣に使っている6体はわたくしが新たに作成したものですが、このもどき達はスィスィアと言うよりも寧ろ亡者にその性質は近いのです。スィスィアに引っ張られて似た形態になっていますがですね。」
俺はそれを聞いてさらに対策を練る。亡者、死者であれば力押し以外にもやりようもある。
「そうか、ならば浄化の光には弱かろう。亡者達に、安寧と安らぎを。優しき闇の抱擁、ダークネスブレス!」
闇魔術の中でも特殊な死者を弔う魔術。
本来であれば攻撃性が無い魔術ではあるがスィスィアもどきには有用だったようで、俺を中心に半径3m程の敵が全て黒い闇の中に溶けていく。
その間隙を縫うようにさらに前に進む。
その間も美桜を縛る鎖からは瘴気が上がり苦悶の声が増していく。
「なるほど、あなたの魔術にはそんな技もあるのですね。大変興味深いです。あとでゆっくりしっかり解析して解剖させて下さいです。」
「断る!」
端的に言い返すが、余裕がない。
「「「「「ぎええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」」」」」
すぐに周囲にまた敵が押し寄せてくる。
鎖から美桜の体に赤黒い呪言が徐々に広がり、美桜の体がビクン跳ねる。
「残念です。」
エプタは肩を落とし本当に残念そうな表情をする。その表情があまりに素直な表情なので、こいつ人のことなんだと思ってやがると考えるが、そもそもこんなことしている時点で普通じゃなったと、思い直す。
祭壇がある所まであと10m。
「そうそう、それで黄泉の国の話でしたね。この国では黄泉の国に繋がる道を黄泉平坂と言うそうで、この坑道はそれを模しているのですよ。」
「黄泉平坂・・・」
黄泉平坂。
その単語を聞いて思い出されるのは去年の文化祭での演劇。
黄泉平坂では伊邪那岐命が黄泉の国に伊邪那美命を迎えに行くが失敗。
全身が醜悪な化け物と化した伊邪那美命に追いかけられる。
その後、通常の伝承では伊邪那美命は黄泉平坂から出られないが、朔月市の伝承では伊邪那美命が黄泉平坂を出て地上を蹂躙する。
では、この坑道が黄泉平坂を模しているならば、地上から最も遠いここ黄泉の国に居るのは・・・。
最悪な想像が頭をよぎる、と同時に背中にはゾワッと冷たい汗が流れる。
しかし、そんな思考もスィスィアもどきの攻撃で中断される。
美桜の全身に赤黒い呪言が広がり、その口からは悲鳴が漏れる。抵抗するように美桜が暴れ鎖がガシャガシャと音を立てる。
俺は焦燥に駆られながら問いかける。
祭壇まであと5m。
「貴様まさか・・・。答えろエプタ!!なぜ美桜を攫った。美桜に何をさせようとしている!」
「なかなか頭の回転もよろしいようです。おそらくあなたの想像の通りかと思うです。しかし、美桜ですか?先ほども叫んでいたですが、それがこの器の名前ですか。なるほど名は体を表すとはこの国の言葉でしたかです?まさに相応しい名前です。桜の木の下には死体が眠るです。この器の魂には死がこびりついている、その美桜さんは、器になるべくしてなる運命がだったのかもしれないのですね。」
「そんなことはどうでもいい、答えろエプタ!!!!」
もう魔力量などきにしていられない。
「闇よ、深き闇よ、形為せ。ダークマテリアライズ!!」
俺は前方に右手をかざし、闇を固める。身の丈を超える三日月型の闇の刃が形成され、それを高速で射出する。
スィスィアもどき達は木の葉のように千切れ、吹き飛ばされていく。祭壇までの一本道が出来、俺は最大速度で駆け抜ける。
「せっかちは体に良くないですよ。それではお答えしましょうです。魔方陣は黄泉との門、スィスィアは門を開く生贄、死を纏った少女は器。そしてその器の少女には・・・」
鎖から美桜の体へ呪言が全て移動し、それに伴って黒い鎖が風化するように崩れていく。
同時、魔方陣の周囲に居た6体のスィスィアも塵となって崩れ去る。
美桜は先ほど暴れていたのが嘘のように祭壇の上でぐったりとしている。ようやく祭壇の淵までたどり着き、美桜に向かって手を伸ばす。だが・・・・・・・。
「女神が宿る。」
エプタが醜悪な笑みのまま暗い声で宣言する。
それと同時に俺の手がバチッと漆黒の稲妻に弾かれる。
瞬間、魔方陣から立ち上る赤黒い光が密度を高め、周囲に渦巻く瘴気の濃度が一気に上がった。俺はそのまま瘴気の波に弾き飛ばされる。
ドーム状になっている壁まで飛ばされ、背中から強かに叩きつけられる。衝撃のあまり壁には放射状に罅が入る。
「がふっ。」
思わず肺から空気が漏れる。
俺はそのまま、ズリズリと滑り落ちるが、気合で地面を踏みしめ、二本足で立つ。
そこに、エプタの楽しそうな大声が聞こえてくる。
「さあさあ観客の皆様ご覧くださいませです。今宵行うは奇跡のショー。美しい器の少女と6体の生贄を使い潰し、お招きしましたるは常闇の女王、亡者の主、1日に1000人を殺す暴虐の化身。美しくも残虐なその女神の名は、『伊邪那美命』!!」
エプタは招き入れるようにバッと両腕を広げた後、ゆっくりと右腕をそのまま胸の前まで持っていき、
「今宵の演目『女神降し』、存分にお楽しみくださいませ、です。」
そう言って、大仰に礼をするのだった。
まずは17話を読んでいただいた読者の方にお礼申し上げます。ついにこの章のラスボスが登場しました。ちなみにスィスィアの頭部が女性型なのは黄泉平坂で伊邪那岐命を追いかけたのが醜女だったからです。これから女神さまが大暴れします。気になる人は続きを読んでいただければ幸いです。
あと、もし良ければ評価、ブックマークなどつけてもらえると嬉しいです!!なにとぞ~~~




