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1-15  慟哭

交差羽です。『中二病スキルで全てを救う』を15話を投稿させて頂きました、中二病と無双と困難に立ち向かう主人公が大好きな作者です。バックストーリーも好きです、分かってくれる妹キャラも好きです、易網をと心配する兄キャラも好きです。

Side 黒の世界


 雨の中、男がぬかるんだ地面に膝を着き、天を仰ぎながら慟哭している。


「ぁあぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 声にならない叫び。

 絶叫とも悲鳴ともつかないそれは、しかし、聞いている者に痛みを感じさせるほど深い深い悲哀に満ちている。


 男の目の前には焼け焦げ、半壊した建物。

恐らく教会だったのだろう、内部には無惨に壊れ煤けた女性像らしき物が見える。


 地面には崩れた壁と木材が雨に打たれながらまだわずかに煙を上げている。


 しかし、何より目につくのはその崩れた建物の周囲に倒れ伏した子供達であろう。

いずれも質素な衣装を血に染めピクリとも動かない。

おそらくこの教会で暮らしていた孤児達。


 男はその子供達全員を知っていた。

優しい子だった、よく笑う子だった、やんちゃな子だった、気を遣いすぎる子だった、引っ込み思案な子だった、怒りっぽい子だった、みんなそれぞれ心の傷を持った子達だった。


 でも皆がそれぞれを愛しているのを知っていた。


 その者達は男にとってかけがえのない家族だったのだから。


 そして、男の腕の中には、胸から血を流しぐったりとしている一人の美しい女性がいた。


 唇や肌は青白く、周囲に流れ出ている血の量からも既に彼女の魂がそこに無いことは明白だった。

男は彼女の遺体を抱きしめる。

強く強く抱きしめる。

しかし彼女の魂がその身に戻ることはない。


 他の者達を助けようとしたのだろうか、その服は灰で煤け、美しかった黒髪の一部は焦げ、雪のように白かった手足にも火傷の跡が見える。

この優しかった女性はきっと最後まで自分の身を犠牲にしたのだろう。

いつも陰ることの無かったあの笑顔で子供達を励ましていたのだろう。

幼い頃から一緒に育ち、常に傍にあったあの笑顔。


 しかし、その笑顔が見れることはもうない。


 そう分かってしまった。そう理解してしまった。

その瞬間、男の胸はさらなる悲哀と後悔に埋め尽くされる。


 男は右手で、女性の頬に優しく触れ顔を覗き込む。


 とても美しい顔だった。

男の眼から涙がこぼれる。


 名前を呼ぶが彼女からの返事はない。

男は女性の首筋に顔をうずめ何度も何度も名前を呼ぶ。

祈るように、懇願するように。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。だんだんと声もかすれ、口から洩れるのは嗚咽だけになる。


 どれぐらいの時間そうしていただろうか。

雨はすっかりやみ、周囲は暗闇に閉ざされていた。


 男は顔を上げる。

表情の抜け落ちた顔で女性の顔を見る。その顔はやはり美しかった。


 男は最後に「ごめん。」と呟くと、一瞬だけ女性の唇に自らの唇をそっと触れさせる。

そして、その体を優しく地面に横たえ、立ち上がると、


ater(アーテル)。」


 男の体が漆黒の衣装に包まれる。


liber(リベル)。」


 重厚な本を左手に呼び出し、開いた本のページに手を翳す。


「無垢なる者達に、安寧と安らぎを。優しき闇の抱擁、tenebrae(テネブラエ) amplexus(アンプレクス)。」


 男が祈るように唱えると、女性達の遺体はゆっくりと闇に包まれるように消えていった。


 男は虚ろな目でこの街で一番大きな城の方を向く。


 瞳はぞっとするほど黒く黒く淀み、凍えそうな冷徹な闇が映っている。


 優しさや人間らしさは少女達のところに置いてきた。あとに残るのはどうしようもない虚無感と、深い深い深い深い深い深い深い深い復讐心


 男は跳躍する、この光景を作り出した元凶の元へ。この世の地獄を見せてやると心に誓いながら。


 そして、その夜一つの国が滅んだ。



******************************

******************************


 俺はハッと跳び起きる。


 今の夢は!?


 背中に冷や汗をかきながら、辺りを見渡す。そこは白い部屋だった。


 清潔感が溢れる白いシーツに、ベッドを囲う様にある白いカーテン。そして、ベッドサイドの椅子に座り、俺に上半身を預けて寝ている妹の結衣。


「ここは、・・・病院か??」


 俺が起きたのに気付いたのか、結衣が眠たげな眼を擦りながら上半身を起こしこちらを見る。そして目に涙を浮かべながら、


「拓斗兄ーーー、良かった、気が付いたんだね。」


 そう言って、抱き着いてくる。


「いっつうぅぅぅぅ。」


 思わず悲鳴を漏らす。


「あ、ごめん。拓斗兄。まだ、怪我人だった。」


 痛む肋骨を押さえながら、


「まだけが人って、普通怪我人ってそんな簡単に治らないだろ。まだってなんだ。まだって。」


 俺は思わずツッコむ。


「あははー、ごめんごめん。でもほんと気が付いて良かった。急に病院と警察から入院しましたって連絡が来てほんとにビックリしたんだから。」


 その言葉に俺は急速に動物園でのことを思い出す。


「っつ。そうだ、美桜は、美桜はどうなった!! ツグミは? 二人はどうなった?

結衣、二人を見なかったか!!!!」


 俺は結衣の両肩を掴んで、詰め寄るように問いかける。至近距離に結衣の顔がある。


「痛い、痛いよ拓斗兄。」

「あ、ごめん。」


 俺は少し冷静になる。両手を離し、改めて結衣の方を向く。

結衣は少し顔を赤らめながら、片手で顔の横にかかった髪をクルクルいじる。


「あ、こっちこそごめん。そうだよね、二人と出かけるって言ってたもんね、拓斗兄なら心配して当然だよね。えーーと、詳しいことは病院の人も警察の人も親族以外には話せませんって突っぱねられちゃったけど、ツグミさんならほら横に。」


 と言って隣のベッドとの境のカーテンを少しずらす。

そこには静かに寝息を立ててベッドで横になっているツグミがいた。


「さっき、看護師さんが来て様子を見て行ったけど、ツグミさんも全身打撲だけで大事は無いって。じきに意識は戻るでしょうって言ってたよ。」

「良かったーーー。」


 俺はツグミの無事を確認してハーーと息を着く。

あの異形の一撃を食らって全身打撲だけで済むなんて、運がいいのか、ツグミの体が頑丈なのか、はたまた俺の防御魔術が効いたのか。

 そういや、ツグミが大きな怪我や病気をしているのって見たことが無いな。まあ、何にせよツグミが無事で良かった。


 そうなると、美桜が心配だ。

俺は時計を確認する。時刻は21時。動物園で襲われたのが大体17時だったからそこから4時間か。


「結衣、美桜は?美桜は見なかったのか。」


 俺は努めて冷静に問いかけようとするが、その声にはやはり焦燥が乗ってしまう。


「ううん、美桜さんは見てない。男女別の病室だから他の部屋に居るかもだけど、病院も急に大量の怪我人が運び込まれて皆、右往左往してる。」

「そうか・・・・。」


 違う、と最後に美桜が連れて行かれた時の光景を思い出す。


 美桜は異形に連れて行かれた。幸い明らかな怪我は無かった様には見えたが、今も大丈夫とは限らない。

あんな奴に連れて行かれたんだ、ロクなことにはならないのは目に見えている。


「拓斗兄?」


 結衣が心配そうに俺の顔を覗き込んでくるが、俺は思考の海に潜って気付かない。

そうだ、あの時俺の防御魔術は破られた。だが、追跡用の魔術が消された感覚はまだない。もしかしたらどこに行ったのか追えるかもしれない。


 そう考え、俺はさらに意識を体の奥の方へ集中させる。


 あった、これは美桜とツグミの追跡用の魔術だ。ツグミのは・・・正確に俺の真横を示している、よしよし。美桜のは・・・・、これは山の方?


 俺の追跡魔術は大雑把な方向が感覚的に分かるようになっている。それに従うのであれば美桜の反応は街のはずれ、東の方角、以前に工場や石炭の坑道があった方を指している。


 俺は意識を戻す。


 気が付くと、すぐ目の前に結衣の顔があった。


「うおっ。」


 思わずのけ反って、後頭部をベッド縁にぶつける。


「うわっ、びっくりした。拓斗兄、急に動かないでよ、びっくりするじゃん。」

「っつーーーー。びっくりしたのはこっちだわ。なんでそんな顔を近づけてるんだよ。」

「いや、拓斗兄、呼びかけても目の前で手を振っても全然反応しないんだもん。どっか頭おかしくなったのかと思って、心配して覗き込んでたんだよ。」

「頭おかしいって、ひどいな!ってか今の衝撃でほんとに頭おかしくなるわ。」

「あははー。あ、でも最近の拓斗兄はまた中二病再発してるし、これ以上はおかしくならないか。」


 なんてひどい妹だ。心配してから落とす手法を使ってきやがる。

これは将来小悪魔キャラにならないかお兄ちゃんは心配です。


「あーー、馬鹿な事言ってたら喉乾いてきたわ。結衣、悪いけどお茶かなんか飲み物買って来てくれないか?」

「ん、分かった。お茶でいい?」

「ああ、ありがと。」

「それじゃちょっと行ってくるね。拓斗兄、怪我人なんだからベッドの上で安静にしてるんだよ。絶対だよ!」

「分かった、分かった。大人しくしてる。」


 俺の返事を聞いても結衣は若干不安そうな表情を浮かべたが、ため息を一つ着くと飲み物を買いに行った。


「さてと。」


 俺は痛む全身に活を入れながらベッドから立ち上がる。


 カーテンを少し捲り、改めてツグミの安らかな寝顔を見た後、誰にも見られないようにベッド周りのカーテンを閉め切り唱える。


ater(アーテル)。」


 体が漆黒の衣装に包まれる。


liber(リベル)。」


 重厚な黒塗りの本を左手に呼び出し、


「闇よ付き従え、ダークネスロンド。」


 身体強化をかける。これで、全身が痛くても体を動かすことは出来る。

そして、病院の窓を開け、


「悪い兄ちゃんでごめんな、結衣。」


 そう呟いてから窓枠に足をかけて思い切り夜の闇に跳び出した。


 あれから4時間、一刻の猶予もない。早く美桜を救い出さなくては。

俺の胸の中心では今も、救え、救え、救えと声にならない声で叫ぶ何かが居る。

俺はその声に突き動かされるように美桜の元に駆ける。声に覚悟を乗せ、宣言する。


「さあ、ここからは深き闇の時間だ。」

まずは15話を読んでいただいた読者の方にお礼申し上げます。まずはツグミ君?ツグミちゃん?が無事で良かったです。分かってくれる妹キャラは貴重です。物語がこの章の終盤に向けて走り始めました。気になる人は続きを読んでいただければ幸いです。

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