1-13 暖かな日常
交差羽です。『中二病スキルで全てを救う』を13話を投稿させて頂きました、中二病と無双と困難に立ち向かう主人公が大好きな作者です。動物園も好きです、気分転換も好きです、うどんも好きです。
GW直前のある日、
「それではGW初日の土曜日は皆で動物園に行きましょう!」
部室に入るなり、中で仁王立ちしていた美桜が突然そう言ってきた。
「はい?」
俺は訳も分からずポカンとする。
「はい、了承得られました。それでは今週の土曜日、朔月動物園に行くので各自準備しておくように。」
そう言うと美桜は部室を出て演劇部の練習に向かって行った。
そこには、突然の展開について行けずバッグを持ったまま部室の入り口で立ちつくす俺と、そんな俺を見て楽しそうにしているツグミだけが残った。
神社で異形と戦った日から1週間。その間、俺は毎日美桜やツグミと一緒に帰った。
常に周囲に気を配り、異形と接触しないか注意深く下校した。
その際、念のためにこっそり護身用防御魔術と追跡用魔術もそれぞれの影に仕込んでおいた。
また、深夜には以前に増して街の見回りを行い、余った時間で自らの魔術の精度・威力の向上を図った。
その際、若干テンションがハイになりすぎて、
「フハハハハ、フハッフ、フハハハハハ、ゲホゲホッ」
と大声を上げてしまったがそれは必要な犠牲だろう。
その影響か、例の噂に
曰く、「夜の林では夜な夜なフハッフ、フハッフ、ゲホゲホと鳴く怪鳥が出る。そしてその鳴き声を聞いた者は無意識に中二病チックなポーズをとってしまう。」
なんてものも追加されたが気にしない。
しかしそのかいあって、だんだん技を放つ時のポーズも洗練されてきた気がするし、それに伴い技の発動スピードや最大威力も増してきている。
闇魔術の源は中二病成分なのだろうか。
何にせよ成果はあった。
さらに授業中も脳内で戦闘シミュレーションを行い、どうすればあの異形を相手に立ち回れるかを模索した。おそらく、今の俺なら5体までなら対応可能だろう。
そのように、警戒心マックスで異形を警戒し過ごしたが、この前の神社の一件が嘘だったかのようにこの1週間は静かなものだった。
ただ、異常が無かったわけでは無い。
あの後、体の回復を待って朔月神社にも足を運んだが、俺と異形が戦った跡、倒れた木や砕けた壁が元通りになっていた。
最初は、ずいぶん早く補修工事をしたな、なんて考えたが、よくよく見てみると新しい木の周囲には植えなおしたような跡はなく、直されたはずの本殿横の壁も周囲と比べ真新しい感じは無かった。
これはあの異形の黒幕がやったことなのだろうか。
正直あの異形達の動きからは丁寧に物事を進めようとするような印象は無かったが。
何せ、盗みをしているところが見つかったからとりあえず轢き殺そうとしてくる連中の親玉である。
これに関しては保留するしかないだろう。
ただし、神鏡に関してはやはり本殿から無くなったままだった。
神社の神主さんはまだ神鏡が盗まれたことに気付いていないんだろうか。
そんなこんなで1週間が過ぎ、警戒するのに疲れ、少し気が緩み始めた時にこれである。
あの後ツグミに、
「なんでこんな展開になったんだ?」
と聞いたら、柔らかく微笑みながら
「美桜ちゃん優しいから。」
と答えた。
さっぱり分からん。
それでも二人と久々に出かけられるのが嬉しくて、俺は土曜日に向けて準備をすることにしたのだった。
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土曜日、本日は晴天なり。
今日は朔月駅前で集合し、バスに乗って朔月動物園まで向かう予定である。
俺は少しダメージが入ったジーパンに父さんからもらったブランド物の襟付き黒シャツ、それに薄いベージュのトレンチコートといった格好で二人を待つ。
黒シャツの襟と袖の部分の裏側にはチェックの模様が付いていて少しおしゃれ感を出し、靴は動物園で歩き回ることを考慮して履き慣れたスニーカーである。
服についてもモテるために勉強はしているが、いい服は高いためなかなか捗っていない。なので、清潔感重視でチョイスしてみた。
俺が待っていると程なく美桜がやってきた。
美桜は水色と白のチェック柄のゆったりとしたワンピース、腰の部分には高い位置に細いベルトが二重に巻き付けられ、ウエストの細さと胸部のふくよかさが強調されている。
足元は可愛いデザインの白のサンダルで、手には少し濃い水色のトートバックを持っている。
髪はゆったりとハーフアップにしており、鳥を模したバレッタがワンポイントになっている。
正に清純派美少女!といった格好だ。道行く男子達が思わず二度見した後そのまま視線を外せず電柱にぶつかっている。
「おはよう拓斗。どうどう、似合ってる?」
と胸を張る美桜。格好だけなら清純派美少女だが、言動にはまだまだ無邪気さが残っている。
「おはよう美桜。あーはいはい、すげー似合ってる似合ってる。思わず二度見しちゃうぐらい似合ってるぞ。」
「なるほどなんだよ、拓斗は二度見どころかずっと見てるから、それぐらい似合っているってことだね。」
と、美桜は機嫌良さそうに笑う。
するとそこにツグミも合流した。
ツグミはベージュのチノパンに、白のボタンシャツ。手首には小柄だが美しい腕時計があり、全身の品の良さとマッチしている。シンプルだったが、むしろそれがツグミの可憐さをより際立たせていた。
美月を見た男子どもが、今度はツグミを見てぎゅっと胸を押さえている。
「おーい、そっちは道路だからよそ見しながら歩いていると危ないぞー。」と思いながら見ていると、幸いその前に標識のポールにぶつかり頭を押さえている。
「おはよう拓斗、美桜ちゃん。」
「おはようツグミ。」
「おはようツグミ君。さてと、三人揃ったし出発しますか。」
そう言って、俺達はバスで朔月動物園に向かうのだった。
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動物園、久しぶりに来たがめちゃくちゃ面白い。
正直子供の頃の記憶がうっすらとあっただけだったが、改めて来るとどの動物も特徴的でめちゃくちゃ面白かった。
ここ数日緊張しっぱなしで急に気が緩んだからか、俺はテンションマックスであっちの象、こっちのカバ、果ては頭の上のリスザルなどを見てはしゃぎまくっていた。
美桜も一緒になって、象の鼻の器用さに感心したり、カピバラの可愛さに悶絶したり、ホワイトタイガーを見て大興奮している。
そんな俺達をツグミは保護者の様な温かい目で見守って、付いてきてくれる。
「知ってる?実はペンギンって鳥だったんだよ。」
「知っとるわ、当たり前だ。」
「じゃあこれは?ゴリラって好きな子に糞を投げることがあるんだよ。」
「まじか、それはやばいな。」
「でしょー。」
なんて馬鹿なことではしゃぎながら、俺達は動物園を回る。
半分ほど見終わり、少し昼を過ぎた頃、お腹がすいたので俺達はフードコートで休むことにした。
「僕注文してくるから、拓斗と美桜ちゃんは何がいい?」
「いいのかツグミ?俺も手伝うぞ?」
「いいよ、拓斗は。ここで美桜ちゃんと一緒に休んでて。」
「そっか。サンキューツグミ。そしたら俺はうどんがいいな。」
「私はホットケーキでお願いします。」
「了解。それじゃ少し待っててね。」
そう言って、ツグミは注文カウンターの方へ歩いていく。
取り残された俺と美桜は先ほど見た動物たちのことで盛り上がる。
リスザルが尻尾を使って器用に高い所まで上っているのがすごかったとか、ペンギンがのんびりしていて可愛かったなど。
程なくツグミが帰ってきて、3人で食事をする。その間も穏やかな時間が流れ、心が緩んでいくのを感じる。
ゆっくりとした食事を終えフードコートを出たところで、ふと会話が途切れ少しの空白が出来る。
俺はそのタイミングを見計らって、ずっと気になっていたことを美桜に問いかけてみた。
「そういやさ、今日はなんで動物園なんて行きたがったんだ。」
「あー、うーんと、気分転換?」
美桜は自身の唇に人差し指を当て、少し考えてから言った。
「なんで疑問形?」
「だって拓斗ここ最近なんか妙に気を張ってたじゃない。ずーっと気を張り詰めて、眉間にしわ寄せてさ。それじゃ疲れちゃうよ。だから気分転換。」
「つまり俺のためだったか。」
俺は右手で顔を覆う。
ツグミが美桜のこと優しいって言ったのはこうゆうことだったのかと分かり、胸にじんわりと温かいものが宿る。
「そうだよ。幼馴染には何でも分かっちゃうんだからね。
拓斗は本当につらい時、なかなか相談しないでそのまま自分で全部抱え込もうとしちゃうから。
だから、それが本当に言えない時はしょうがないけど、それでも支えにはなってあげるよ。」
そう言いながら美桜は両手を後ろで組み、腰を折り、前のめりで俺の顔を見上げながらニコリとほほ笑む。
顔を覆っている指の隙間から俺の視線と美桜の視線が交差する。
美桜の眼にはとても暖かい優しさが宿っていた。
「はー、もう、ほんと敵わないな。でも、ありがとう、何か元気出た。」
俺は両手を握りこぶしにして空に伸びをする。
「そうそう、それでこそ拓斗だね。」
美桜は俺に手を差し出す、俺がその手を握り返すと、
「さあ行こう、まだまだ見たい動物はいっぱいいるんだからね。」
そう言って美桜は嬉しそうに駆けだすのだった。
まずは13話を読んでいただいた読者の方にお礼申し上げます。子供の時も面白かったですが、大人になった後の動物園も楽しいです。だんだん美桜ちゃんの魅力がアップしているような気がします。これで堕ちない拓斗君はすごいです。今後も美桜ちゃんの魅力がどんどんアップするかもしれません。気になる人は続きを読んでいただければ幸いです。




