1-12 Side 狂気と享楽
交差羽です。『中二病スキルで全てを救う』を12話を投稿させて頂きました、中二病と無双と困難に立ち向かう主人公が大好きな作者です。実験も好きです、謎の空間を漂うのも好きです、におわせ発言も好きです。
Side 狂気の数秘学者
「ああ、おかえりなさいです。お勤めご苦労様でございましたです。」
そこは薄暗い場所だった。
部屋の中には試験管や何かの薬剤が入った瓶、大量の数式が書きなぐってある羊皮紙や細かくメモ書きされた天文図、何に使うか分からない歪な形の道具など、統一性ない物が雑多に置かれ、わずかな光源は電子機器の表示板のみである。
その中央で作業している男。歳は30代中頃であろうか。
長身で、萎れたYシャツとくしゃくしゃに汚れた白衣。
その恰好からは身だしなみを意識した気配は全く感じられない。ただ、作業効率がいいからと言った理由が垣間見える。
顔の造形は悪くないが、少し長めに伸びた薄金色の髪はくすみ、濁り、ザンバラ髪になっている。
前髪の間から覗く眼も濁った金色をしているが、ただ、その目だけは異様にねっとりとした熱を帯びていた。
そんな男が机から目を離し、部屋の出入り口の方に顔を向ける。
そこには、ずりずりと足を引きずりながら歩く異形がいた。
「これはこれは、また手ひどくやられたのです。目的の神鏡は手に入れて来れましたですか。」
異形はぎぇっと鳴くと、徐に神鏡を取り出しその男に手渡した。
「ありがとうございますです。6体のスィスィアも揃いましたし、神鏡も揃いましたです。これで計画の成就はあと一歩。あとはメインの器さえ用意できれば計画を実行できますです。」
男は、顔に満面の笑みを浮かべるとケタケタと笑った。
それは生理的嫌悪感を催す笑い声だったが、しかしこの場にいるのは男と異形のみ。それを指摘する者は居なかった。
「しかし、スィスィアをここまで損傷させるとは、いったいどこの何に、あるいは誰にやられたんでしょうかです。野生の熊に出会っても損傷しない程度の強さを与えたはずなんですが。」
男は神鏡を丁寧に机の上に置くと、異形の体をペタペタと触り始めた。
「これは、体中に穴が開いた痕ですか。ここまでの貫通力を持たせるのは掘削機でも難しいはずですが。ですが、これは。うーーーん、どこかで見たような気がするです。」
男は首をカクンと横に倒す。
その様は、異形が首を傾げた時によく似ていた。そして男が手の平をぱんっと合わせる、
「確か、そう、先日実験に使った男の方に染み付いて居た力です?
ここにお連れしようとした時に抵抗されたのです。ただ、この傷から感じられる力はもっと強い・・・。元々はあれはこの傷をつけた者の力・・ですか?」
男の思考が高速で回転する。
元々、極めて優秀な科学者だった男はすぐにとある結論を出す。そして、
「これは、警戒しなくてはいけませんですね。対策を考えておきましょうです。もう少し解析したいのでスィスィアはラボに行っていて下さいです。」
異形は男の言葉に素直に従い、その部屋を退出する。
「これはこれは、楽しみになってきましたですね。果たして私の計画が叶うのか、世界の意思が勝つのか、です。やはりそう簡単に残った1を玩具にすることは叶いませんかです。」
そう言って、男はケタケタ笑いながら楽しそうにラボに向かうのだった。
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Side ■■■■
そこは漆黒の空間。上も下も右も左も無い空間。
時間さえも無いかの様なその空間を薄絹を纏った一人の少女が漂う。
ゆったりと、自然体で。
その少女はとても不思議な存在だった。
輪郭はぼやけ、はっきりとその姿は視認できない。
しかし、その存在がただただ美しいということは分かった。
その少女の口から鈴の音の様な声が発せられる。
「クスクス、今回、彼の口車に乗って手伝いをしてみたけれど、さて、どうなるかな。
実際彼は僕のお気に入りだし、僕に後がないのも本当だけれど。
果たして願いは叶うのか、あるいは全てが無駄に終わるのか。
ああ、楽しみだ。本当に楽しみだ。」
その声を聴く者は居ない。ただ漆黒の空間に響くのみである。
けれど彼女は愛おしそうに囁く。何か大切なものを胸に抱くように両手を胸の前で合わせ、
「君の可能性を見せてごらん。」
まるで恋人に語り掛けるように、まるで家族に話しかけるように。
その声は、静かに空間に溶けていった。
まずは12話を読んでいただいた読者の方にお礼申し上げます。今回の話は少し短めです。ただ、重要な登場人物の出番と言うことで短めで一区切りとさせていただきます。この二人が今後どのように物語に絡んでくるのか。気になる方はぜひ続きを読んでいただければ幸いです。




