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1-10  大切なもののために

交差羽です。『中二病スキルで全てを救う』を10話を投稿させて頂きました、中二病と無双と困難に立ち向かう主人公が大好きな作者です。戦闘シーンも好きです、熱い心も好きです、頑張る人も好きです。

 翌日、俺は夜間の活動を再開することにした。


 昨日一日、久しぶりに手の込んだご飯を作って、しっかり風呂に入って休んだからか体調は万端である。

家族が寝静まった後、俺は中二病ノート黒の章ムーブで衣装チェンジして、夜の街に跳び出す。

なお、変身シーンにお色気シーンはありません、需要ないしね。

 さてと、


「今宵も闇の時間だ。今宵の悪はどこにひしめくか。我が闇の眼からは逃れ得ぬというのに」

要約:今日はどこを見回ろうかな。


 そして、ふと先日の噂の件を思い出す。

確かその中の一つに、


「黒い影は朔月神社を拠点にしている」


というものがあった。


(朔月神社か。)


 確かに、俺に起こった不思議現象は朔月神社から始まっている。

もしかしたら、神社に居た黒い影も見つかるかもしれないし、何か変化があるかもしれない。

そうだな、よし、今日は朔月神社に行ってみるか。そして、


「黒き影よ、我が闇からは逃れられぬと知れ。フハハハハ。」


と、叫びながら夜の街を跳躍する。


******************************


 ほどなく、俺は朔月神社に着いた。


 すでに時刻は0時を回っており、参拝客は皆無である。もちろん、夜の密会をしている男女や五寸釘を持った髪の長い女性なんかも居ない。

罰当たりにも鳥居の上で意味のないポーズをいくつか取った後、俺はシンと静まり返った境内に降り立った。


 境内は静まり返っており、静謐な気配がする。


 前回のような、何か出そうな感じがしないのは俺が中二病ムーブをしているからなのか、はたまた本当に何も居ないからなのか。


 そんなことを考えながら境内を横切ろうとした時、本殿奥の林からガサゴソと獣が藪を抜けるような音と、ずりっずりっと何かが足を引きずっているような音が聞こえた。


 俺は一瞬で警戒態勢をとる。


 何が何も居ないだ、がっつり居るじゃないか。

そう自分を叱咤しながら素早く本殿の方に向かう。


 そして、一度停止して音がする方を眺める。

まだ、姿は見えないが、どこからか鉄臭いような、何かが腐ったような匂いが漂ってくる。


「これは、血!?いや、腐った血肉の匂いか!?」


 途端、境内の雰囲気が神聖なものから得体のしれないものに変わったような感覚がする。


(何か、ヤバい!?)


 俺は警戒心をマックスまで引き上げ、腰を低くして身構える。


 もし何かあればすぐに脱出できるように、どうしても逃亡が困難な時は迎え撃てるように。

頭の中で、ここ数日習得した防護魔術と攻撃魔術をざっと反芻し、現状で使用可能なものをピックアップ。身体強化も限界まで上げておく。


 その間わずか数秒、俺が身体強化を上げ終わった瞬間、本殿を覆っている壁を乗り越え、一体の黒い何かが跳び出してきた。



 それは全身黒ずくめの何かだった。



 上半身は不自然なほど盛り上がり、下半身は女性のように細い。黒いフードから覗く目は濁った金色に輝いており、口は大きく裂け涎を垂らし、手には何か丸い物を持っている。


 それは、どしゃっという音と共に俺の20m向こう、林と俺のちょうど中間の土の地面に着地した。


 その何かはうまく体が動かせないのか、不自然な格好で着地し、もぞもぞ蠢いている。


(あれ、足が変な方向に曲がったように見えたが・・・・・・。)


 少し心配にもなるが、俺は警戒しながらその何かを観察する。

ほどなくして、それは何事も無かったかのように華奢な二本足で立ち上がる。

視線を感じたのかこちらを振り返り、不思議なものでも見るかのような動作で首をカクンと倒す。

その動きもまるで人形のように力が入っておらず、曲がっちゃいけない角度まで首が曲がっているように見える。


 ゾクッ!!!


 背筋に悪寒が走る。


(やばい、見つかった!)


 滝のような汗を流しながら、けれど目を逸らしたら一気に襲い掛かられそうな、野生の獣に見つかったような感覚に囚われる。

喉がからからに乾き、緊張で体が強張る。

自分の心臓の音がやけに大きく聞こえる。


 黒い何かの体がぐっと一回り大きくなる。


「ぎえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 突然、耳障りな声で異形が叫ぶ。


(っつ!?!?)


 瞬間、嫌な予感がして俺は思いっきり横に跳んだ。そのすぐ横、俺が立っていたところを弾丸のようなスピードで大きな黒い塊が通り過ぎる。


 ドガーーーーンッ!!!!!!


 目では何とか追えている。しかし、体が強張っていて回避がぎりぎりになってしまう。


「ぐうっ、っつ!!」


 急な動きに体中の筋肉が悲鳴を上げている。


(なんだあれは!?)


 俺は訳も分からず、通り過ぎて行った黒い何かを見やる。

そして言葉を失う。

木に突っ込んで身動きが取れなくなっているそれは、



 まさしく異形だった。



 黒いフードは外れ、黒いロングコートも所々が破け中が見えている。


 筋肉が限界まで膨張した上半身は牛や狼のような毛皮に覆われ、一方で下半身は鹿や兎のような細さだ。足に至っては烏の足の様、そして体の所々が腐っている。


 何より異常なのは、その体の上に乗った顔の部分には虚ろな黄金の目と裂けた口をした女の顔があった。


 まさに異形。


 目にするだけで精神が蝕まれていくような何かがそこにはいた。


 気持ち悪い、俺は吐き気を我慢しながらそれを見やる。


 フラフラと起き上がった異形の体が再度膨らむ。


 とっさに俺は回避をし、距離をとる。


 ドガーーーーーンッ!!!!


 先と同じように突進してきた異形が、今度は本殿を囲う壁にぶつかり動きを止める。


「めっちゃこえーーーーーー!!」


 思わず素が出る。

なんだあれは、ゾンビですか、それともキメラですか。ツグミのゾンビ姿はもっと可愛かったぞ、と関係ないことを思い浮かべる。


 そのおかげか、少しだけ冷静になる。


 正直、この展開は全く予想していなかったわけではない。

俺に超常的な力が宿ったということは、俺以外にも同じような力を持っている奴がいるかもしれない。そして、そいつが敵に回るかもしれない。

そんな想像はしていた。


 めり込んだ壁から抜け出した異形が再度、雄叫びを上げながら突撃してくる。


「ぎえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「でもさー、こんなの予想外だってばよー。」


 叫ぶ。回避する。


 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い


 俺の理性が逃げろと叫んでいる。

幸い動きは目で追えている。

突進の時のスピードは脅威だが、いちいち制御は出来ていないようだし、再突撃には時間がかかる。その間に逃げてしまえば逃げ切れる。今すぐ逃げろと。


 俺は、異形の動きが止まっている間に踵を返し足に力を入れる。

ぐっと膝を曲げ・・・・・・



 けれど、その一歩は踏み出せなかった。


 考える。


 あんなのが街に居ることで起こる可能性を。


 この神社は決して人が来ない場所ではない。

それにこの異形が街に向かう可能性もある。


 街には父さんが居て、母さんが居て、結衣が居て、友達がいて、何より美桜とツグミが居る。

そいつらがこの異形に出会ってしまったらどうなる?


 おそらく、なすすべも無く磨り潰されてされて終わるだろう。


(その時俺はどう思う?)


 あの時にこの異形を放置していたから俺の大事な人が死んだらどう思う。


 絶対に自分を許せない自信がある。


 あれはダメだ。

このまま放置してはダメだ。

あれは誰かを不幸にする。

俺の大事な人達を不幸にする。


 ふとこの力を手に入れた時のことを思い出す。

声は言った。救えと!

声は言った。絶望を蹂躙しろと!!

声は言った。理不尽に抗えと!!!

声は言った。不条理を許すなと!!!!


 胸の内からマグマの様に熱い何かがこみ上げる。

体が熱を帯び、心に絶対の意思の炎が宿る。

怒りが湧く、この理不尽に、この不条理に。

許せない、認められない。俺は、俺の大事な人達が傷つけられるのを決して許容できない。


自覚する。

ああ、そうだ、これは、これこそは俺の願いだ!!

誰かに告げられたからじゃない!!!

譲れない!! 絶対に譲れない俺の願いだ!!!

護りたい、護りたい、護りたい、護りたい、護りたい、護りたい!!!

俺の大事な人達を!!!

美桜を!! ツグミを!! 家族を!!! 大事な人達を!!!


異形に向かっていくのは怖い。めちゃくちゃ怖い。でも、それでも、


「ここで逃げるのだけは、ぜってー認められねーーーーー!!!!!」


 俺は再度異形の方を向き、両頬を叩き自分に気合を入れる。

そして高らかに宣言する。譲れない、絶対の意思を込めて!!



「我は漆黒。闇よりもなお深き闇。この身は理不尽に抗うためにある。さあ、理を外れた獣よ。汝は疾く闇に沈むがいい。ここからは深き闇の時間だ!!」



 俺は大きく宣言すると一歩を踏み出す。異形はまたも体を膨らませるが、


「遅い!!漆黒より出ずる闇の衣、ダークネススケイル!」


 俺は楔から解き放たれたように素早く異形のサイドに回り込むと、その腹部に魔術を乗せた渾身の掌底を放つ。


 ズバン!!!!


 異形はそのまま吹っ飛ばされ、神社の境内を転がる。


 そこに追撃の遠距離魔術。

虚空に闇の魔力が満ちる。そして、それらが渦を巻き形を作る。

そのまま俺は右手を前に突き出し、唱える。


「闇よ、深き闇よ、形為せ。ダークマテリアライズ:モードランス!!行け!!!」


 これは闇を任意の形に変える魔術。今回は貫通力を上げるために槍状にした。

数多の闇の槍が宙に浮かび、俺の号令と共に空中を滑るように走る。


 ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン


 空気を切り裂く鋭い音が響く。

高速で飛来する闇の槍全てが異形に突き刺さり、その体を穴だらけにする。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!


「ぎえええぇぇえぇぇぇぇえええええぇぇぇ!!!」


 異形が断末魔のような声を上げる。


(いける!動きは見えているし、こちらの方が早い。)


 おそらくだが思考回路もそれほど複雑ではないだろう。


(このまま圧倒する!!)


 だが、そこで異変が起こる。

先ほど開けた穴の周囲の肉が(うごめ)き、体中の穴を塞ごうとしている。

厄介な。けれど、俺は動じない。


「なるほど、自己再生持ちか。ならば、欠片も残さず闇に還してやろう。」


 相手の体勢はまだ整っていない。左手を前に突き出し、


liber(リベル)。」


 そう唱えると左手に重厚な魔導書が顕現する。


 ページが自動的にめくれる、めくれる、めくれる

そして、あるページで止まると魔導書から螺旋状に漆黒の光が立ち昇る。


 異形はまだ先ほどのダメージから立ち直っていない。


 魔導書と呼応するように俺の足元に闇色の魔方陣が出現し漆黒の光を放つ。


 異形は動けないのか、こちらを濁った金色の瞳で見つけ威嚇するように雄叫びを上げる。


 俺は異形を滅ぼすべく、天に右手を高く掲げ詠唱を開始する。


「闇よ踊れ空に向かい、月よ歌え闇の調べと共に。」


 現在使える中で最も破壊力がある闇の魔術を、


「我は紡ぐ、我は祈る。其は漆黒の片割れ。汝、我と共にあれ。」


 魔力が高まる。周囲を渦巻く闇の魔術が歓喜するようにその勢いを増していく。

詠唱が最終章に入る。


(いける、このまま押し切れる!)


 そう思った瞬間、


 メキッメキッ!!!


 俺の横っ腹にとてつもなく重い衝撃が走り、吹き飛ばされる。


「がふっ!!」


 思わず血を吐く。痛みが灼熱の様に襲ってくる。

口の中を血の味が占める。


(なんだ、吹っ飛ばされた?)


(そんな馬鹿な、異形はまだ再生しきれていないはず!?)


 理解が追い付かず、俺が立っていた場所を見ると、そこにはもう一体の異形が居た。


「ぬかったか。」


 他の個体がいる可能性を失念していた。

そうだ、最初に境内で聞こえた音は藪をかき分けるような音だったのに。

俺は震える足で何とか立ち上がり、異形達を見やる。

わき腹が焼ける様に痛い。呼吸が苦しい。立っているのも辛い。


 だが異形は、一体目も再生を終えて戦線に復帰しようとしている。

その足取りは重く、ダメージを受けていることははっきりと分かったが。


「くそっ。」


 思わず悪態が口をつく。

この状態で襲われたら負ける。しかし、倒れるわけにはいかない。

俺の失態で誰かを傷つけさせるわけにはいかない。

俺は、俺の大切な人達を護るために、倒れるわけにはいかない!!!


 そう決意を新たにして敵を見やる。


 数秒。だが、異形達はいつまで経っても襲ってこない。


(なんだ?)


 それどころか二匹そろって同じ方向を向き、ぶつぶつを何かを呟いている。


(誰かと会話、いや、奴らの感じだと何かを受信している?)


 そんな不自然な様子を見せた後、二匹の異形は突然体を膨らませる。

俺は緊張に身を強張らせ、次に来る攻撃に備える。


 だが・・・・・・


 ダン、ダン!!


 異形達はこちらを一瞥もせずそのまま林の方に大きく跳躍し、そしてそのまま去って行った・・・。

その手に、丸い何かを持ちながら、夜の闇の中へと。


 突然の展開に俺は茫然とする。


(なにが起こった・・・・・・??)


 しかし全身を苛む痛みによって我に返る。


(しまった、逃がしたっ!!)


 あれを逃せば誰かが傷つけられる可能性があるのに、一番大事な場面で呆けてしまった。

大事な人たちに被害が及ぶかもしれないのに、なんてことだ!!

その可能性を考え、自分に対する沸々と怒りがこみ上げる。


 異形達を追おうと一歩踏み出そうとするが、俺は前のめりに倒れむ、痛みで立っていられない。

しかし心は深い怒りと後悔に苛まれる。思わず地面を殴りつける。

異形を逃がしてしまったという事実がじわじわと心の中を侵食していく。


「くそっ、くそっ、くそーーーーーーーー。」


 叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。しかし既に取り返しはつかない。


 その慟哭は、静かな夜の神社に響き渡ったのだった。

まずは10話を読んでいただいた読者の方にお礼申し上げます。今回はがっつり戦闘シーンでした。

異形さんは何体居るんでしょう。ちなみに頭が女性型なのは理由があります。今回は取り逃しましたが、拓斗君の次の頑張りに期待です。また、何話後かに戦闘シーンがあります。気になる人はぜひ続きを読んでいただければ幸いです。

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