1-9 悪意ある闇が目覚めようとしている
交差羽です。『中二病スキルで全てを救う』を9話を投稿させて頂きました、中二病と無双と困難に立ち向かう主人公が大好きな作者です。料理も好きです、お風呂も好きです、ミニ拓斗君も好きです。
夕食後、何とはなしにテレビを見ていると。
「拓斗兄、お風呂入ったよー」
と声がかかる。
どうやら結衣がお風呂を入れてくれたようだ。
俺は、ある魔術講師が正義の味方になりたくて粉骨砕身するアニメを止める。
久しぶりに見直したが、胸が熱くなる展開ばかりで、非常に良かった。本当に良かった。
なお、小説は最終巻まで拝読させて頂いております。
胸にホカホカと熱い何かを感じながら俺はソファーから立ち上がる。
今日は父さんも母さんも仕事で遅い。週に1度ぐらいだが、そんな日は俺と妹が交代で家事をしている。
本日俺の担当は料理で、風呂担当は結衣だ。
ちなみに、今日の夕飯は少し本気を出して、豚肉の生姜焼きと肉じゃがにした。
豚の生姜焼きは、通常の薄いロースではなく、1㎝程度の幅の厚めのロースを朝のうちに、生姜、醤油、味噌、みりん、蜂蜜などの調味料を混ぜたものに浸して冷蔵庫で寝かせ、多めの油で焼くと揚げるの間ぐらいで火を通し、表面がきつね色になるように仕上げる。最後に、気分によって胡椒やカレー粉などを振りかけて味変しながら食べるのが現在のマイブームである。
また、肉じゃがも肉を別に火を通しておいて後から加えたり、しっかり出汁を取った汁を使うなど、各所に工夫を凝らしている。
結衣も美味い美味いと言いながら食べてくれた。モテたいのあれば、料理スキルは必至だからな。俺はモテるためには余念はない。今日のモテポイント+1点である。
将来は、料理から光が漏れ出して、食べると洋服が脱げてしまうほどのものも作ってみたい。
いや、たぶん無理だけど。しかし、料理皿を光らせるぐらいの挑戦はしてみたことはある、LED電球で。
残念ながら結衣には大変不評だった。
いや、違うぞ、妹のおはだけを見たかったわけでは決して無いぞ。
そう自分に言い訳をしながら、俺は服を脱ぎ風呂に入る。
肩までお湯につかって、思わず
「ふーーーーー、極楽。」
と声が出る。日頃の疲れが沁み出していくようだ。
特に最近は、夜間のお勤めも大変だったしな。
両手で顔を覆い、手の温かさを感じながらここ数日のことを思い出す。
神社で虹色の球を手に入れ、中二病ノートのスキルに目覚め、家族が寝静まった頃に夜の闇を闊歩する。
うん、客観的に見るとわけ分からん。
こんな話をしたら、家族はもちろん美桜やツグミにも中二病が再発したと思われてしまう。
「しっかしなー、まさか変質者扱いされているとは思わんかったー。」
思わず間延びした声が漏れる。
美桜から変質者勘違い事件を聞いた当日も、翌日も、翌々日も俺は夜の街で人助けをした。
助けた人数は両手の指を超えるぐらいだろうか。
一部、誤解があって天誅、もとい人誅をかましてしまった人も居たが誤差範囲だろう。
もちろん、誤人誅してしまって人には誠心誠意謝っておいた、中二病ムーブで。
本当にごめんなさい。代わりに、少しだけ不幸から身を守ってくれる魔術を影の中に仕込んでおいたから。
そんな活動も相まって、俺は大変疲れていた。
「でもなー、なかなか噂が改善されないんだよなー。そろそろ悪を裁く闇の使徒!みたいな感じで言われてもいいと思うんだけど。」
そうなのだ。俺が誠心誠意、粉骨砕身人助けをしているにも関わらず、今日の日中、美桜から聞いた噂ではやはり黒い変質者の話は消えておらず、むしろ目撃例多数で悪化している印象さえあった。
あまつさえ、ここ数週間に朔月市で起こっている行方不明事件の犯人じゃないか、なんていう噂もある。
曰く、「黒い影が血まみれの袋を持っているのを見た。」とか
曰く、「黒い影の人とすれ違って攫われそうになった。」とか
曰く、「黒い影が、フハッフと荒い息をつきながらビルとビルの間を跳び回っている。」とか
曰く、「黒い影は朔月神社を拠点にしている。」とか
曰く、「黒い影の人が郊外の林に入っていくのを見た。」とか、である。
失礼な。誘拐もしていないし、傷や障害が残るような介入もしていない。
郊外の林の中に入っていくのはやったが、フハハハハと言いながら夜の林に入っていくなんて、肝試ししている若者や酔っぱらったサラリーマンならば皆やるだろう。
すみません、嘘です。酔っぱらっても夜の林には入らないと思います。
フハッフ、の件はもうしょうがない。
「しかしなー、噂、何とかしないとなー。」
と俺がゆだる頭で考えていると、グラグラ。水面が少し揺れて、壁の棒にかけてあったタオルも小刻みに揺れる。
地震か。ぼんやりとみていると、本震が来たのか、しっかり感じ取れる程の揺れが来る。数秒ほど様子を見ていると徐々に揺れが収まっていく。
「少し大きいな。震度4ぐらいかな」
独り言ちる。
少ししてリビングの方から結衣が、
「拓斗兄―、じしーーん。震度4弱だってーーー。」
「りょうかーーい。そっちは大丈夫だったーー?」
「問題ないよー。そっちも大丈夫ーー?」
「こっちも大丈夫だったーー。」
と何事もなかったことを確認し合う。
俺は手早く、頭と体を洗い風呂を出ると、結衣に話しかける。
「最近、地震多いな。確か先週ぐらいだっけ?」
「先週の金曜ぐらいだったと思う。」
「確かにそうだったな。」
俺と結衣は話しながらテレビに視線を向ける。
地震速報がニュースの横に流れているが、すぐに表示されなくなる。
地震なんて日常茶飯事だし、まあ、一応流しましたって感じなのかな。
ニュースはすでに次のニュースに移り、画面では野球選手がホームランを打ち、キャスターが興奮しながらその偉業を讃えている。
結衣も地震のことなどすでに忘れたようにソファーで寛いでいる。
「悪意ある闇が目覚めようとしているのか?」
俺は自然に呟くと、ハッと口元を押さえる。
「拓斗兄、何か言った??」
結衣が尋ねるが、俺は思わず顔を逸らす。
まずい、まずい。連日中二病ムーブしているから、口が勝手に中二病してる!
おかしい、ミニ拓斗君は鎖で縛って海の底に沈めたはずなのに。
「結衣、お兄ちゃんもう疲れたから今日は早めに休むわ。」
「はーい。」
俺は、適当に言い訳して、そそくさと自分の部屋に向かうのだった。
まずは9話を読んでいただいた読者の方にお礼申し上げます。古来、地震は地の底の大ナマズや巨大な毒蛇が起こしていると恐れられていたそうです。今回の地震はなぜ起きているのでしょうか。もしかしたらミニ拓斗君の巨大バージョン(もはやミニではない)が地の底で暴れているのかも。少なくとも拓斗君の心の中では暴れています。10話では戦闘シーンが入ってきます。今後も読んでいただければ幸いです。
引用:
魔術講師が正義の味方になりたくて粉骨砕身するアニメ:ロクでなし魔術講師と禁忌教典




