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昔取ったキネヅカで頑張りたい~お城からのお誘いには乗れません!~  作者: サイ


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32. 学園祭

 数日縫物をして、それぞれが何とか慣れてから。

「——よし、じゃあまずは糸を伸ばすところから」

 一本の糸を手に持ち、ミラはそれをぐんぐん伸ばした。

「一本ができたら、今度は種類の違う数本の糸を伸ばしてみてください。これを伸ばしながら三つ編みに……今日はここまでが目標ね」

 三色の糸の束を目の前で編みこんで見せてから、ミラは生徒たちに実践してみるよう促した。

 魔力の流し方や魔術操作の方法は見て覚えてもらうしかない。ミラにはジルビルのように難しい理論の説明はできない。

 生徒らはみんな黙って、一本の糸を見つめていた。

「………………」

「できない。せんせい、さっきの、手品……?」

「ぶっ」

 ミラは思わず吹き出してしまった。

 十五人みんなが、糸を見すぎているせいで目が寄り目になっている。なかなか見ない光景だった。

「笑わないでくださいよお、せんせい」

「ごめんごめん。えっと、この前、風を細く長く伸ばす魔法やったでしょ?魔力の流れはそんな感じで、細く長くね。で、丁寧に、糸を作り上げていきながらその魔力に乗せる——」

「——っあ、伸びた!伸びた!」

「うっそだあ、変わらないわよ」

「私は?どう、伸びた?」

「ええ……むしろ短くなってない?」

 きゃあきゃあとあれこれ言いながらやっている。

 ふと、一人いい感じに魔力を練り上げている子がいる。

「あ、アデリーさん、いい感じ。それをゆっくり伸ばしてみて」

 ミラが言うと、アデリーはますます難しい顔になって、唇を突き出し始めた。

「変な顔になってるよ」

「しっ」

 集中を切らさないように、周囲が静まり返る。

 アデリーの手元の糸はうねうねと、確かに四センチくらいは、伸びた。

「やった!!伸びた!!」

「……これ、伸びたって言える?」

「ちぢれ毛……」

「こら」

 確かにアデリーの手につままれた毛——じゃない、糸はチリチリとうねって伸びているが、それでも伸ばせたことには変わりない。

「さあ、この調子でやっていきましょう」

 ミラの声掛けで、再び教室は唸り声や歓声の中、糸との格闘が再開された。


 結局、糸を伸ばせるのに三日。それを編めるのに七日。

 糸を布にする魔術操作は困難を極め、ミラはジルビルに相談した。

「ああ、なるほど。これはまた高度な……へえ、メイド科の生徒は編むまではできているんですか」

 ジルビルはミラの繕いの生活魔法に目を丸くしていた。

「これは、魔力の向きを繊細に操作する、っていうのが……なるほど、魔術科の基礎訓練にもいいかもしれませんね」

 ぶつぶつとそんなことを言っていたかと思ったら、ちゃんとメイド科にも来てくれた。

 ジルビルさんは夏休みに発表した論文がかなり評判が良かったらしく、今まで以上に協力的だ。

 一人一人の魔術操作を覗き込みながら、うんうん、と納得している。

「はあー、なかなかハイレベルな操作を身に付けてますね、皆さん。ああ、なるほど。魔力の練り上げ方は良いです。魔力の出し方も……これは、もう、あとは慣れですね」

 結局そんな風に参考になるのかならないのかわからないアドバイスをくれて、数をこなすしかないという事はわかったので、布にするのは、各自の宿題となった。




 メイド科の生徒たちは、口では色々というものの、順調に生活魔法を習得していた。

 生活魔法だけではなく、デザイン科の先生にも出張授業してもらったり。

 一年目という事でミラはずっと不安だったが、季節が秋になるころには、順調な生徒たちの成長に、ミラも少し安心できたほどだ。

 二年目になったら、実習を兼ねてどこかのお屋敷に体験に行ってみたり、就職のための相談も受けられるようにしたい。

 基礎的な生活魔法は一年生のうちに一通り終えたかったが、何とかなりそうだ。


 秋になり、学園は少し浮き立った雰囲気になった。

 この時期、王立学園は学園祭が開催される。

 生徒の保護者、学園の関係者を招待してそれぞれの科が学びの成果を発表する。——というのが、元々の起源らしいが、今ではちょっとしたお祭り騒ぎになって、学びの成果、というのもほとんど出し物や露店の真似事になっていたりする。

「——メイド科は何かなさるんですか?」

 廊下を一緒に歩いていたジルビルに尋ねられ、ミラは苦笑のようなものを浮かべた。

「それが……私、学園で学んでないもので……何をどうしたらいいのかわからないんですよね」

「なんと」

「そろそろ準備しないと、いけませんよね」

 学園祭まで約一月である。

 だが、学園に足を踏み入れたことさえなかったミラにとって、学園祭は未知のお祭りだった。過去の資料を見せてもらっても、雰囲気からしてわからない。

「ジルビルさんは、何をするんですか?」

「魔術科は、それなりに大きな科なので、色々、複数出すんですよ。技術部門は魔石のアクセサリーとか、戦闘部門は攻撃魔法の実演だとか。あ、魔術競技もありますよ。よかったら見に来てくださいね」

「魔術競技?」

「まあ、騎士科の実践訓練と一緒ですよ。魔法を使った戦闘です。五年課程なので、二部に分けてね。結構伝統ある大会なんですよ。——あ、王太子殿下は毎年優勝されてました」

「ああ、してそうですね。騎士科も競技でしょうか」

「そう。騎士科の出し物はいつも戦闘ばかりです。いつもしているから、趣向を変えてと言って、武器を変えてみたり、集団戦にしてみたり」

 戦いばかりで食傷気味になる、という言い方だ。

「あ、そうそう、あとは他にも、軽食を売ったりしてます」

「軽食」

「一応、魔術を使った料理ですね。学園祭なので」

「なるほど……」

 その科の特徴を生かした出し物という事か。

「その点、生活魔法はできることが多いので、色々と考えられるんじゃないですか?」

「うーん……」

 逆に、これと言った特徴がないから余計難しいんじゃないだろうか。

 家政の事を出し物にするというのも、なかなか思いつかない。

 ミラは悩んだ。

 イメージがつかないから余計、難しかった。

 料理と言っても、キッチンメイドは基本的に下ごしらえしかしない。メイド科で教えているのは給仕の仕方だ。

 掃除で出し物……思い浮かばない。

 洗濯、染み抜き……その服脱いでください、綺麗にします、とか?——ないな。

 繕い物や修繕といっても、学園関係者に壊れたものを持ってきてもらって直して見せる?——そんな面倒なことしてくれないだろう。

 三日程悩みに悩んでいるところに、見かねてジルビルが再び助言してくれた。

「ミラさんが考えなくていいんですよ。生徒に考えさせてはどうですか」

「生徒に?」

「ええ。自分達で何ができるのかを考えさせる、そこから生徒が主体となって計画して学園祭を成功させる。——それが教育っていうものですから。教えてやらせるばかりではなく、自分で考え出さないと。成長しませんからね」

 はあ……とミラは感嘆の声を漏らした。

「ジルビルさん、さすが先生ですね」

 ジルビルには、魔術の事でも色々教わるが、教師としての働き方や考え方なんかを教えてもらえる。それが素直に尊敬できる。

「ははは。まあ、教師歴うん十年ですからね」

「ありがとうございます!ちょっと、みんなに聞いてみますね!」

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