6話
「聖女様探し、ですか。これはまた大仕事が舞い込んできましたね」
「前金も用意しています。成功時はその倍をお支払いします」
前金の入った袋をテーブルの上に置いて中身を見せる。
なるほど、本格的な金持ちの依頼であってかなりの額だ。
「……いくつかお聞きしたいのですがよろしいでしょうか?」
「はいどうぞ」
「今回の依頼を見るに、教団からの公式の依頼ではなく、アナタ個人からの依頼であるとお見受けします」
「…………おっしゃるとおりです」
「理由をおうかがいしても?」
エネリが剣に手をかけそうになるのをザナは制止し、苦い顔で話し始める。
「教団はもう聖女ウィカを諦めています」
「諦める? もう後任を探しているとでもいうのですか?」
「えぇ」
「……さらに口をはさむようですが、教団にも優秀な諜報部がいるはずです。諜報部が動かないなどありえないでしょう」
「もちろん諜報部は動きました。でも見つからなかったんです。中には死体で見つかった者もいるそうです。教団はこれらの結果をふまえて捜索を中止。後任の聖女を決めるべく、今候補生の中から…………」
「そう、ですか…………」
話を聞きながら顎に手を当てて考える。
このザナという少年は聖女ウィカに並々ならぬ思い入れがあるようだ。
直感だが、お互いただの関係ではないだろう。
表情からして事態は切羽詰まっているようである。
一刻も早く聖女を見つけ出して、その座に戻したい。
その思いがヒシヒシと伝わった。
「わかりました。お引き受けしましょう」
「なに……?」
「本当ですか!」
「全力を尽くしましょう。そのために詳しいことをお教え願えますか?」
「はい、もちろんです。ですが、その……」
ザナはエネリをチラリとみる。
遠慮がちで弱弱しいが、察せと言わんばかりの視線が向けられるも、彼女は頑として動かなかった。
「若様、私はこの男を雇うのは反対です。どうも信用なりません。大方、前金の額と成功報酬につられたのでしょう。卑しさが透けて見えています」
「エネリ、僕、この人と話したいんだ。外してくれるかな?」
言葉にしてもやはり動かず。
「そうはいきません。若様を守るのが私の使命です」
「そんな!」
「マヌス・アートレータ。悪いが依頼はなかったことにしてほしい。不満ならその前金は差し上げる。いかがかな?」
「……と、騎士様はおっしゃられていますが、どうなさいますか?」
「え?」
「依頼主はあくまでザナ・ヴィントハイムさん。アナタです。アナタに決定権があります。ご依頼を取り下げるのなら、今のうちに決めてください。その前金もいりません。あとになって『やっぱりやめた』とか『前金返せ』というのは基本的に受け付けておりませんので」
この言葉にポカンとしたザナだが、すぐに真剣な表情になって、
「……いえ、お願いします」
前金の入った袋を前に押し出す。
依頼受諾の証と言わんばかりに、マヌスはしたり顔でそれを受け取った。
「若様……ッ!」
「ごめん、エネリ。やっぱり僕、諦めきれない」
「……若様が、そうおっしゃるのであれば」
エネリのにらみつける顔がやはり突き刺さる。
おっかないが、ここでビビッて逃げていては仕事にならない。
なにより、ひとりの少年が聖女を探したいと思うだなんてなかなかに殊勝な心がけじゃあないかと、内心興味がわいた。
「では、お話をおうかがいしても?」
「はい。エネリ、お願い。事務所の外で待っていてほしい」
「……かしこまりました」
エネリは面白くなさそうだ。
ザナに見られぬようコッソリとマヌスに対して自分の両目を指すような動作をしてみせる。
勢いよくドアを閉める彼女に、マヌスは大袈裟に肩をすくめた。
「その、すみません。エネリは仕事熱心なのですがかなり頑固で。昔からそうなんです」
「お気になさらず。さぁ、仕事の話をいたしましょう」
ザナは聖女ウィカについて語り始める。
「僕、聖女ウィカが…………いえ、ウィカが好きなんです。出資者とか信者とかそういうのじゃなく、ひとりの男として」
「ほう……ほぅ…………へぇ」
「そして、ウィカも……」
「え、相思相愛?」
「あ、はぁ、その……僕が勇気を出して、告白して、その……」
「あ、あぁ~~~なるほど。でも、その、いいんですか? 聖女様が、その恋をするっていうのは」
「別段ダメってわけじゃありませんよ? 別の支部の聖女が一般男性と婚姻を結んだっていうのもありますし。まぁ聖女のおめがねにかなうっていうのは」
「でしょうねえ。しかし、そうですかぁぁああ。へぇ、ザナさんはOKをもらったんですね」
「はい。ウィカのほうが歳が上ですから傍から見れば姉弟と思われてもおかしくない。でも、僕を受け入れてくれたんです」
「わたしが口だしするのはおこがましいですが、アナタほどの方であれば世間はもちろん、教団内部の人間も納得でしょうね」
「恐縮です。本当に幸せでした。……1ヶ月前までは」
ちょうどその日に彼女はこつ然と姿を消したのだ。
この出来事がどれだけの人間に衝撃を与えたか想像にかたくない。
現にこうして話を聞くまで聖女がいなくなったなんて知らなかった。
都合が悪いとして、教団がとてつもない情報規制をしいているのだろう。
そんな中、彼は愛しい人を探したいとここまできたのだ。
「話はわかりました。こちらも全力を尽くしましょう」
「ありがとうございます」
「それで、少し準備していただきたいものがあるのですが」
「それは?」
「聖女様の持ち物です。できうるなら、アナタと思い出深いものがあればよいかと」
「…………それを、どうするのです?」
「ここからは企業秘密です。わたしの捜査方法は特殊でね」
「はぁ」
ザナとエネリが一旦帰ったのを見届けたあと、マヌスは本棚から資料を引っ張り出す。
かの教団、そして聖女についてだ。




