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17話

「君たちの動機は恩返しってことだけど、本当はわたしの"能力"のことを間近で調べるためとかじゃないかい?」


 4人がドキッとしたように反応する。

 恩返しだ償いだと言っても、好奇心が出てくるのは無理もないかもしれない。

 

「あらかじめ言っておく。この力は君たちが思っているほど、いいものじゃないよ。それはわかってもらえるとありがたい」


「まぁ、ドラゴンに食べられかけたしね」


「こらステラ!」


「かまわないよ。……忌々しい力さ」


「教えてください先生。あの世界は一体なんだったんですか?」


 シエロの祖父がいた、廃都の世界。

 本来踏み込めるはずのない時間と次元の空間には、たしかにそのときの記憶と人々の知性があった。


 だが、マヌス以外の侵入者が現れて以降、その世界は豹変したのだ。


「あれは『思い出の世界』さ。わたしは、人や物に宿った思い出の中に入り込める」


「思い出の、世界……?」


「そして、わたし以外が入るなど絶対あっては……ならなかった」


 4人の申し訳なさそうな顔を、目を細めて見る。

 内心、もっと反省しやがれと思ったのは秘密だ。


「思い出の世界とドラゴンの関連性は? そしてなぜわたしにこんな力があるのか? わたしはずっとこれを調べてる。なにか手がかりがないか、誰かの思い出の世界に入ったりする。これが君たちが知りたかった『探し屋バトラキオン』の真実だ。一流の魔導士の不倫を暴けた種を理解できたかな?」


 4人は黙ったまま、ポカンとマヌスを見ていた。

 目の前にいるのは、なんてことはないただの一般人。 


 この4人の中で、というよりもこの国でも最強クラスの実力を持つルーチェに勝てないのは言わずもがなだ。

 ちなみに4人の中では、シエロが一番実力に乏しい。

 しかし本気の殺意を抱いたシエロに、マヌスが勝てるかどうかさえもきっと怪しい。


 魔導士相手に一般人が戦うとはそういうものなのだ。

 結論から言えば、マヌス・アートレータは格下も同然。


 しかし4人の目には、彼が不気味な魔人にすら見えた。

 魔術ではない、しかし神の奇跡でもない。


 まったく未知なる異能を宿したこの男に、畏怖の念を抱いていた。

 

「君たちがわたしのことを誰かに言わなかった件は素直にありがとう。お陰で今もこうして安全に暮らせてるよ。……さて、再度確認しよう。わたしの元で、助手をしたいんだね?」


 4人はそろって頷く。

 その瞳には緊張と羨望の色が露わになっていた。

 

「もう一度言っておく。給料はマジででない。不安定な収入の庶民に期待はしないでくれ。そして、嫌になったらいつでもやめていい。学業優先、安全第一。……これマジな? 君たちの身になにかあれば、君たちのご両親に殺されるのわたしだから」


「だ、大丈夫です! 依頼のとき同様、両親には言ってませんから!」


「はい、両親に先生のことを伝えると、多分色々こじれそうですので」


 この点はシエロとマーテルはしっかりしている。

 ステラはそもそも両親との関係が、あまりよろしくないらしく、そもそも伝える伝えないの土台には立っていない。


 ルーチェは色々出生が複雑そうで、特に問題はないそうだ。


「……わかった。いいだろう。まあ、そんな難しいのやってもらおうだなんて思ってないから、気楽にしてくれ」


 4人は互いの顔を見ながら微笑み、助手として新しい一歩を踏み込んだことを喜ぶ。

 彼女らを見ながらマヌスは、これからの流れを大まかに考えてみた。


(アイベリーにも長らく一緒に調べてもらってはいるが、それでもこの力のことはわからずじまいだ。別に期待するわけではないが……かの白女神の学院の生徒であるのなら、なにか有用な書物とか持ってきてくれるかもしれない。それに、うまくやれば彼女らのコネクションを秘密裏に使えたり、は、ちょっと欲張り過ぎか)


 ────というわけで、今日からこの4人が助手として活動する。

 で、ルーチェとステラは早速本棚のほうを漁っていた。


「えー……」


「こらふたりとも! 勝手に先生のものを……!」


「いや、まぁ、いいよ。まだ暇だしね。あまり散らかさないように」


(先生ドン引きしてる……)


 シエロがそそそと整理した書類を執務机に置き、マーテルが新しくコーヒーを淹れてくれた。

 

「あれ、ここの本って法律とか文化史とか専門書ばっかりだね」


「うん、仕事柄ね」


 ルーチェと一緒にステラは背伸びしようと手を伸ばしたり、四つん這いに近いようにかがんで本を探す。

 そんな彼女から視線をどけるようにマヌスは安楽椅子を動かしてそっぽを向いていた。

 それに気がついたマーテルは、


「こ、コラ、ステラ!」


「え、なに?」


「殿方がいる前でなんて……ちょっとは慎みを持ちなさい!」


「えー、いいじゃん別に~。先生も見てないしさ」


「そういう問題じゃありません!」


「先生~、迷惑だった?」


「いや、本を大切に扱ってくれるなら、別に」


「ふふ~ん、先生なら、ちょこっとだけならいいよ」


「ん~、やっぱり慎みを持とうか」


 ため息交じりマヌスが答え、マーテルが呆れたように頭を抑える。

 近くにいたルーチェは和やかに微笑んだ。


 しかし、ここでルーチェは思い切って雰囲気を変える。


「あー、ワタシからいい先生?」


「お、ルーチェ。どうぞ」


「先生はさ、自分の力をどういうものか考察したりしてるの?」


「……正直見当もつかないんだ。神話の本も漁ったけど、まるでなし。もしかして君、なにか心当たりとかそういうのある?」


「いや、ワタシは別に……」


 4人は中々踏み込めないでいた。

 興味があるのは結構だが、これでは腫れ物のように扱われかねない。

 近づいてほしいわけではないが、ここまできて距離感が開くのも面倒だ。

 これは自分のためでもある。

 なので思い切って、今までの自分では絶対しなかったことを4人に提案した。


「よし、じゃあ今から君たちに仕事を与えよう」


「え、わたしたちにですか?」


「今からできる仕事って、なにをすればいいんでしょう?」


「え、難しいのとかいきなり言われてもアタシたちできるかわかんないよ?」


「大丈夫だ。ちょっとしたレクリエーションと思ってくれていい」


「レクリエーション? なにそれ、面白そう!」


 ルーチェが目を輝かせる。

 意外に子供っぽいところがあり、そういうところが彼女の魅力なのかもしれない。

 ルーチェの好奇心旺盛さに惹かれ、シエロもマーテルもステラも目を輝かせ始める。


「わたしは今までずっとこの力を使ってきたが、『名前』はまだない。だから、君たちでわたしのこの能力の名前を決めてくれ。」


 こうすれば、少しは愛着が湧くのではないかな?

 いや、いささか浅はかな判断だったかもしれない。


 そう考えたが、彼女らの知恵と力を借りると決めた以上、こっちも行動には移さなくてはならない。

 しばらく黙っていた4人を見守っていたが、


「うん、面白そうじゃん!」


「へ~、名前ねぇ。確かにあれほどの力に名前がないというのも、寂しい気はしますね」


「うう、急に名前を考えてって言われても~」


「大丈夫だってシエロ。じゃあノートに名前書いてこ! ね!」


 ルーチェが主導になって早速夢中になる。

 彼女らの盛り上がりをよそに、マヌスは執務机の前に座った。


 咄嗟に思い浮かんだことなので、軽率だったかと思ったがこれはこれで悪くないかもしれない。

 書類に目を通しながら待つこと数分後、ルーチェが目を輝かせながら「先生できたよ!」と呼んできた。


「お、もうできたのかい。どれどれ」


「色々アイデアはあったのですが、シエロの案を採用しました」


 マーテル曰く、最終選考に残ったのはふたつ。

 ステラ案の『ドラゴンズドリーム』と────……、


「……『エーデルワイス』か。へぇ」


「き、気に入りませんか?」


「いいやそんなことはない。うん、落ち着きのある名前でいいんじゃないかな」


 この言葉にシエロの表情がパッと明るくなる。

 正直、おかしな名前でなければどんなものでもよかったが、意外にもしっくりきた。


「じゃあ、忌々しい力改め、『エーデルワイス』で今後はいこうか」


 忌々しい力。

 周囲の人間と自分との間に不気味な差異をもたらす正体不明のパワー。


 他人と違うことに様々な情念を燃やしていたが、今は少し落ち着いた気がした。


 一輪の花をプレゼントされたかのように。




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