廃道の小屋
別に怖い話ではありません。
十数年前に同業の大先輩から聞いた話です。
多分昭和50年位の話だと思います。
彼は所謂廃道マニアで、若い頃はよく山に入って廃道跡を探し歩いたりしていたそうです。
その時彼は趣味仲間と二人で江戸時代の廃道を辿っていたそうなのですが、その道は予想以上に森に呑まれていて、地図と地形等から推理するしか無い位だったそうです。
途中に在る筈の集落跡でキャンプする予定でしたが全然進めていないのに日が傾いてきたので、諦めてテントを張れそうな所を探しながら進んで行くと、突然道に出たそうです。
細いけれど明らかに人が踏み固めた道で、今も使われている感じだったそうです。
その道は地図から予想した廃道と重なっていて、もしかしたら林業関係者がまだ一部を使っているのか?とか考えながら進むと少し開けた所に出たそうです。
そこには小屋が一軒建っていて、農家の老夫婦っぽい二人が何か作業している様子だったそうです。
二人に話を聞くとその小屋は大昔は茶店みたいな物だった小屋で、廃道になった後は山仕事の作業小屋なんかに使っていたのだけれど、もう使う人間も居なくなるので片付けをしていたと言う事でした。
老夫婦から帰り際、戸締まりだけちゃんとしておいてくれれば泊まっても構わないと言われたので、その夜は小屋に泊まったそうです。
翌朝、道は小屋のすぐ先で森に呑まれていましたがその先に無事集落跡等も見つかり、どうにか夜までには目的の駅に着く事ができたそうです。
ただ彼はあの道の反対側、老夫婦が帰って行った先がどこにつながっていたのかが不思議だったのだそうです。
地図で見る限り近隣の集落等に繋がりそうになかったのだそうです。
そこで二人は翌年、同じルートを逆に辿ってみる事にしたのだそうです。
集落跡辺りまでは簡単に辿り着けたそうなのですが、翌日一日かけても小屋も道も見つける事が出来なかったそうです。
此処じゃないかという場所には行けたそうなのですがそこに小屋は無く、どう見ても何十年も前に取り壊された建物の土台が藪の中に残っていただけで当然道も無く、諦めて山の中でもう一泊して帰ってきたそうです。
「一応言っとくけど小屋に居た年寄り、普通の(当時の)格好してたからな。
別に変な感じも無かったし。
もっと色々話聞いときゃよかった」そうです。