クラスの気になる女子がお参り中に『俺と付き合いたい』って願いを口に出していたのを聞いちゃった……
新年ということで新年ネタをどうぞ。( 新年以外に読まれた方は気にしないでください )
「あけおめ」
「おう、あけおめ」
「いやぁさみぃな」
新年、一月一日。
神社に初詣に行こうと、俺はクラスの友達と一緒に待ち合わせをしていた。
「すぐに暖かくなるぜ。ほらみろよ」
「うげ、すげぇ人の量」
「誰だよ初詣に行こうなんて言い出した奴は」
お前だろ。
俺は家でのんびりゲームでもやってたかったのに『青春を無駄にするな!』って意味不明な誘い方をして来たじゃねーか。そんなのでついて来ちゃった俺も俺だが。
「よし、帰ろう」
「おいコラ。人が多いことくらい分かってただろうに」
「ここまでだとは思わなかったんだよ~」
「いや思えよ。毎年ニュースでスゲェ絵面流してるだろ」
「あんなのエキストラ呼んで作ったフェイクだと思ってたんだって」
「気持ちは分からんでも無いが、残念ながら事実だ」
極力混雑が酷いタイミングを待って放送してるのは間違いないとは思うけれどな。
「そもそもマジでどうして誘ったんだよ」
ここまでではないにしろ、ある程度混んでいることは織り込み済みだった筈だろ。
想定以上に混んでると達成できない目的って何だ?
「お前と青春したかったって言っただろ!」
「ぜってぇ嘘だ。どうせいつもみたいに……ああ、なるほど、そういうことか」
「?」
こいつが精力的に何かを求めて行動する理由と言えば一つしか無い。
女だ。
そのことを思い出したのは、偶然にもこいつの後ろにクラスメイトの姿を見かけたから。
「お前の目的はアレだろ?」
「うっひょー! マジか! 良く見つけたな!」
「やっぱりそうだったのか……」
クラスの女子に会えるかもと思って来てはみたものの、あまりの人の量に見つからないと確信してやる気が無くなったという訳だ。
「新年早々、日下部さんに会えるなんてラッキーだぜ!」
日下部さんとはクラスで一番エロ可愛い女子のこと。
とにもかくにもグラマラス。
そのくせ肌を露出させることに抵抗が少ないようで、夏場とか肌色たっぷりで男心を揺さぶって来る。
その日下部さんが、友達と一緒に初詣に来ていた。
「何がラッキーだ。あいつらが来るの知ってたんだろ」
「まぁな。初詣の約束をしてたのを聞いたんだ」
それを狙って初詣に行くとか、ストーカーの考え方じゃねーか。
こいつやべーな。
「帰る」
「待て待て待て。初詣に来たら偶然クラスの女子を見つけた。何も変なことは無いだろ。さぁ行こうぜ」
「おいコラ引っ張るな」
「くそ、中々近づけねぇ」
「近づこうとするな」
「クラスメイトに新年の挨拶をするだけだよ。気付いたのにスルーする方が失礼だろ」
「向こうは気付いて無いんだから良いんだよ! 放って置けよ!」
そこそこ仲が良い間柄なら声をかけても良いだろうが、俺らはただのクラスメイトでしかないんだぞ。それなのに声をかけても困らせるだけだろうが。つーか、お前ごときの下心なんかとっくにバレてるから気持ち悪がられるだけだぞ。
新年早々に彼女達を可哀想な目に遭わせるわけには行かない。
どうにかして俺が食い止めないと。
「くそ、人が多すぎる。どけよ、どけって!」
「止めろ。迷惑だ。諦めろ」
「くそぅ! すぐそこなのに!」
「結構距離あるけどな」
物理的にも精神的にもな。
つーか俺が何かしなくても人が多すぎて近づけないから平気だったわ。
あ、見失った。
「チクショー!」
「はいはい、止まると迷惑だから行こうな」
人の流れに逆らいたくないし、折角ここまで来たからお参りくらいはしていこうか。
「どうしてこんなことに……」
「ショック受けすぎじゃね? そもそも会って何するつもりだったんだよ」
「そりゃあもちろん晴れ着姿を目に焼き付けるのさ!」
「普通にコートだったな」
「だな」
晴れ着か。
確かにそれなら気にならないと言えば嘘になるな。
和服は体に凹凸が無い人の方が似合うとかって聞いたことがあるけれど、日下部さんはどうなのだろうか。
いかんいかん、こんなこと考えたらこいつと同類じゃないか。
「つーか日下部さんって彼氏いるんだろ。粘着すんなよ」
「あっはっはっ、そんなデマを信じるなんて馬鹿だなぁ」
「馬鹿はお前だ」
あれは去年の九月。
夏休み明けに日下部さんがクラスで彼氏の話をし始めたんだ。
その時のメス顔に男子達が絶望し、夏休みに何があったのかを妄想するやべぇ奴らが大量発生した事件があった。
こいつはその事実を受け入れられないタイプだったか。
「大体お前だって日下部さん狙ってるだろ。どうしてそんなことが言えるんだよ」
「俺は狙ってないぞ。むしろ……」
思いを寄せるという程では無いが、ほんのりと気になっている女子の事を思い出そうとしたら、さっき日下部さんの近くにその子が居たような気がしたことを思い出した。
そして本当に居たのかと思い出そうとぼぉっとしてしまったからだろうか。俺達は人ごみに飲み込まれて分断されてしまったのだ。
「うお、しまった……後で入り口で合流な!」
「りょ!」
男二人で初詣というのも寂しいものだが、男一人でというのはもっと寂しい。
さっさとお参りを済ませてさっさと脱出しよう。
それからどれくらい経ったのか。
ようやく俺の番がやってきた。
あれ、そういえばお参りの作法ってどんなだっけ。
二回礼をして二回拍手するんだっけか。
しゃーない、良く覚えていないから隣の人の真似をしよう。
そう思ってチラりと右隣を見た俺は絶句した。
そこには日下部さん、ではなく俺が気になるクラスの女子、内藤 美玲さんが立っていたからだ。
内藤さんは自己主張が少なく大人しめな女子だ。
友達が話をしているのを優し気な笑顔で静かに聞いてあげる姿がとても気に入っている。
彼女が場に居るだけで穏やかな空気になって話しやすくなる。まったりした空気感で一緒にお話し出来たら最高だろうなって思っていた。
高校生なのに枯れてるって言うな。
それに彼女はただ大人しいだけじゃないんだぞ。バレー部に入っていて、練習中は普段とは全く違って鋭い声を連発して格好良いんだから。そのギャップに気付いた時、彼女のことが本当に気になりだしたと言っても過言ではない。
とまぁ長くなったがその内藤さんが隣にいた。
新年早々縁起が良いなと思ったが彼女は俺のことに気付かずお参りを始めたので、慌てて見様見真似で俺もお参りをした。
そういえばお願い事は何にしようか。
元々何も考えてなかった上に、内藤さんとの不意の遭遇で動揺して何も思い浮かばない。
せっかくだから内藤さんとの仲が進展するようにとかお願いしようか。
いやいや、まだほとんど接点が無い相手との仲を願うなんておこがましいだろ。
せめて話すきっかけを下さい、くらいが妥当かな。
でもそもそも俺は彼女のことを気になってはいるが、異性として猛烈に好きって訳でも無いし、それなのにお願いするのは失礼かも。隣にいてくれたら幸せかもな、くらいで付き合いたいとかって願望が強い訳じゃないし。あれ、じゃあ俺は一体何をお願いすれば良いんだ?
そう自分の願いが決まらず迷っていたら、周囲の喧騒が凄いことになっているにも関わらず、隣から声が聞こえて来た。
「クラスメイトの山口君と付き合えますように」
え?
今の声ってまさか。
少し目を開けて横目で隣を見ると、内藤さんが真剣に何かを願っていた。
そしてその頬が少し赤くなっているのが俺の位置からでも分かった。
さっきのは間違いなく内藤さんの声だ。
そしてクラスに『山口』という名前の男子は一人しか居ない。
俺だ。
ま、マジで!?
内藤さんが俺のことを!?
で、でもどうして。
俺と内藤さんはほとんど話をしたことが無いはずだぞ。
突然のことに胸が高鳴り出す。
今の状況をどう受け止めて良いか分からない。
神様教えてください。
俺はどうすれば良いんですか!
その願いが届いたのか。
突然俺の肩に後ろから手が置かれた。
「いつまでやってんだよ」
「あ、すいません」
気付けば内藤さんは居なくなっていた。
――――――――
「遅かったな」
「…………」
「どうした?」
「…………」
「お~い、山口~」
「ああ、お前か」
「お前かって、そりゃ無いだろ~」
いつの間にか合流場所に移動してたらしい。
怪訝そうな顔で見られてしまった。
憧れの日下部さんに会えずショックだったこいつにさっきの話をしたら嫉妬で何をされるか分からん。ここはさっさと帰るに限る。
「いや、人混みが凄くて疲れただけだ。さっさと帰ろうぜ」
「その前におみくじ引こうぜ」
「嫌だよ。そっちもめっちゃ混んでるじゃん」
「そんなこと言わずに引こうぜ!」
こいつは占いとか信じないタイプなのにどうして。
いや、理由なんて考える間でも無いか。
「日下部さん達が来るかもしれないからか?」
「そうそう! 女子がおみくじ引かないなんてありえないだろ!」
「だがもう引き終わってるかもしれないぞ」
「大丈夫、まだ来てないはずだから」
「まさかお前ずっとおみくじ売り場監視してたのかよ。マジきめぇな」
「一途だと言え」
どこが一途だこのストーカー野郎め。
将来事件を起こしたら『やると思ってました』ってインタビューに答えてやるからな。
「あれ? 山口達じゃん。奇遇~!」
「!?」
「!?」
なん……だと……?
日下部さんから話しかけて来るなんてどういうことだ。
内藤さんと同じで話したことほとんど無いはずだぞ。
「日下部さん! あけましておめでとうございます!」
「あけおめ~」
奴が目の色を変えて距離を詰めようとしたけれど、日下部さんは軽やかなステップで躱した。
とても慣れてる感じがするな。
というか挨拶する時は相手の顔を見ろ。
胸を見るな。
そういえば内藤さんは一緒じゃないのかな。
と思ったらいつの間にか後ろに居たようだ。
「や、山口君。あけおめ」
「あ、あけおめ」
くっそ、何を動揺してるんだ。
自然に振舞え、俺!
そうだ、他の人にも挨拶をしないと。
日下部さん達は六人いるしな。
「皆もあけお……?」
慌てて他の女子達に挨拶をしようと思ったら、彼女達は何故かニヤニヤとこちらを見ていた。
そして挨拶する間もなく、日下部さんが話しかけてくる。
「山口達っておみくじひいた?」
「いや、まだだけど」
「じゃあ一緒に引きに行こうよ」
だからどうして俺達を誘うんだよ。
そんな関係じゃないだろ。
「喜んで!」
だが奴のせいで断ることなど出来はしない。
俺達は一緒におみくじ売り場まで移動することになった。
内藤さんがそこそこ近くを歩いているのが気になるのは間違いなくさっきのことを意識してしまっているから。べ、別に隣じゃないし普通の距離感だし。
はぁ……ちょっと気になる程度だなんてスカしてたのに、いざ好意を感じると気になって仕方ないだなんて、俺って現金な奴だったんだな。
そういえばあいつは……うわ、女子達にブロックされてるのにめげずに頑張ってる。
あそこに近づきたくはないな。
でもそれだと気を紛らわせる手段が無くてつい内藤さんのことを考えてしまう。
「やっまぐっち君、あけおめ~」
「あけおめ」
おみくじ列に並んでいたら、女子の一人が話しかけて来た。
確かこの子は片桐さんだったかな。
明るくていつも恋愛話をしている印象がある。その大半が本人の別れ話なのが悲しいところだが。
そしてもちろん彼女とも話をしたことが殆ど無い。
「山口君に聞きたいことがあるんだ」
「え?」
どうやら彼女は話しかけて来た理由を教えてくれるようだ。
彼女は俺の耳元に口を近づけると、周りの人に聞こえないようにそっと囁いた。
「内藤さんのこと、どう思ってる?」
「!?」
これで分かった。
彼女達は内藤さんの気持ちを知ってるな。
だからさっき女子達がニヤニヤして俺達を見ていたんだ。
もしかして俺が気付いてないだけで学校でも何かを仕掛けてたのだろうか。
だとしたら鈍感すぎだろ俺!
「勘違いしないでね。私達が知ったのもついさっきなんだから」
「え?」
どうやら俺の鈍感説はひとまず否定されたようだ。
だが状況はもっと酷かった。
「内藤さんがお参りしてた時、私彼女の後ろに居たんだ。気付かなかった?」
「なん……だって……?」
つまり片桐さんは内藤さんのあの言葉を聞いてしまったのか。
しかもそれだけではない。
「動揺してたね。脈あるんじゃない? ねぇねぇ教えてよ」
「うわぁ……」
俺の挙動不審な様子もバッチリ見られてた!
だから確認するために俺に近づいたのか。
「黙秘します」
「女子の秘密を聞いちゃってそれは無いんじゃない?」
「だとしても片桐さんに言う必要は無いだろ?」
「必要はあるよ。だって内藤さんは私の親友だもん」
「いやいや、親友でもそれはダメだろ」
「へぇ、案外真面目なんだね。それじゃあ本人に伝えてあげて」
「お、おい押すなって」
伝えるも何も、俺は別に今日何かをするつもりなんて無いぞ。
というか早く帰らせてくれ。
そしてゆっくり考えさせてくれ。
「あ……」
「あ……」
押された先に居たのは内藤さん。
気まずいから止めてくれよな、ほんと。
そもそも内藤さんは自分の気持ちが漏れたことを気付いて無いんだろ。
もっとそっとしてやれよ。
とにかく、今は鋼の意思で冷静になって自然に振舞わねば。
「内藤さんはおみくじとか好きなのか?」
「普通、かな? 山口君は?」
「俺も特には。誘われたらひいても良いかなってくらいかな」
「そうなんだ。じゃあ何か気になる運勢とかは無いのかな?」
「強いてあげるなら金運かなぁ。でも別にバイトとかしてないし」
「あはは、そうだよね」
よしよし、この調子だ。
内藤さんと話をするイメージは前々から出来ていたからスムーズに話が出来たぞ。
「内藤さんは気になる運勢とかある?」
「もちろん恋愛運!」
あ、しまった。
話題の振り方間違えた。
「でも今年は確認しなくても良いかな」
「どうして?」
「だってもう大吉って分かってるから」
うっ……
その嬉しそうな顔は卑怯だ。
それってつまり俺とこうして話が出来てるからってことだよな。
ああダメだ。
この状況で退けるわけがないじゃないか。
こうなったら女子達の狙い通りに頑張ってやるよ。
「そんなこと言っちゃって良いのか?」
「どうして?」
「だってそれだと、好きな人がいるって言っているようなものじゃないか」
「…………うん」
顔が真っ赤になったけれど否定はしないんだな。
それなら話を続けるぞ。
本当に良いんだな。
「その……どんな人なんだ。もちろん言いたくないなら言わなくて良いぞ」
チキンとか言うなよな。
あの呟きだけで一気に攻めろなんて無茶な話だ。
もう少しだけ探らせてくれ。
「ダウナー系っていうのかな、普段はやる気があまりなさそうな感じなの」
いつもの俺だ。
「でもとても優しくて迷子の子供を助けてあげたこともあるの」
うえぇ、アレ見られてたのかよ。
恥ずかしいな……
「それにスポーツをしている時は力強く声を出してとても格好良いの。男子バレー部の助っ人で練習に参加してた時の姿がとても凛々しくて……」
それって内藤さんの女子バレー部での姿を見た時のことじゃん!
そうか、あの時逆に俺も見られてたんだ……
はは、なんだよ。
結局お互いに気になってて、同じタイミングでそれが強くなったんじゃん。
「…………」
「…………」
内藤さんは一際真っ赤になって俯いちゃった。
よし。
後ろでこっそり聞いてた片桐さんと、遠くでヤツのアプローチを躱している日下部さんに目配せして合図する。めっちゃニヤニヤしながら頷いてくれた。後で仕返しを兼ねてお礼をしよう。
「だりぃ。やっぱりおみくじ要らないわ」
「山口君?」
「だって俺も結果分かってるもん。絶対大吉だ。特にれ、恋愛運とか最高だろうな」
「それって……!」
「俺達二人ともおみくじ要らないなら、並ぶ意味無いよな」
「え?」
そうして俺は内藤さんの手を取った。
「あっちで甘酒配ってるみたいだから行こうぜ」
「あ……うん!」
もちろんこれは二人っきりになるための方便だ。
そして甘酒をもらうだけで終わらせるつもりは毛頭ない。
心臓はドキドキバクバクして、つないだ手がじっとりと濡れてしまう。
しかし不安は何も感じていない。
だって俺達はおみくじを引かなくとも運勢が大吉だと確信しているのだから。