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#19 神通力対決⑤



裏でそんなことが起こっているとも知らず、表の会場では引き続き千里眼対決が続いていた。




「これはわかる!扇!」

「同じく、扇だ」



答えを書いた紙を同時に掲げ、勝負をしているとは思えないほど悠々とした雰囲気を纏いながら、両者が答える。


しかし実際には、晴明の方はそこまで余裕はなかった。


回答を我先に耳打ちせんとする妖がわんさかと彼の顔にへばりつき、呼吸するのさえままならない状態だったのだから。





「晴明!その扇には透かし細工が入っていたぞ!」

「模様の入ったガラスのな!玉がな!ついているんだ!」

「大きさは、このくらい!このくらい!」




彼の役に立とうと必死に説明をしてくる魑魅魍魎たちを、晴明はまるで祈祷をするような仕草でごまかしながら、一匹一匹優しく丁寧に引き剥がしていく。



「ええっと!透かし細工が入っていて、蜻蛉玉がぶら下がっていて……んん?!」

「どうしました?」

「……いや、なんでも……」



突然言葉を途切れさせた清明に、寂暁が白目の面積を大きくしながら視線を投げかける。

晴明は両手を胸の前で広げて左右に振った後、袖で顔を隠しながら目線を逸らせた。







(…………いや、まいったな。中宮様まで来てたのか)






おそらく、箱の中にあった扇に触れたのだろう。

顔にしがみついている妖の指先から微かに香るこの香りには覚えがある。

それはまさしく、中宮・定子がいつも身に纏っている香の香りだった。

謁見したのは数える程しかなかったが、気品があり奥深い独特の香りだったため鼻が覚えている。






(道長様に中宮様──。これは別の意味で緊張してきたなぁ)





道長と定子といえば、対立しあう勢力の頭同士である。



いくら表面上は取り繕って互いに穏やかに接しているとはいえ、内情を知っている晴明にとって、二人が同じ場所にいるということは、龍と猛虎が向かい合っているようなもの。

言ってしまえば、いつ諍いが怒るか分からない、この上なく緊迫した状態なのだ。






(坊主たちもそこらへん考えて招待しろよ……)





晴明は、はあっと大きなため息を吐きながら眉を八の字に垂らしながら天を仰いだ。


しかし、彼の憂鬱をよそに、その間も勝負は粛々と進められていく。


最初の頃は、二人の回答が当たる度に会場は地を揺らすほどに湧き立っていた。

しかし、約束の三回目を迎えても両者はどちらも正解を答え続け、勝敗がつかないために延長戦へと突入したが、四回、五回……さらには十回を超えても雌雄を決することができない。


至極身勝手な話だが、観客たちも同じ結果が続くとさすがに飽きてくるのか、正解した際にあげていた歓声の大きさも、回数が多くなるに連れて次第に小さくなっていった。





「全問正解するのはすごいけどさ……これ、いつまでやるの?」




少し離れたところで見ていた野分がぽそっと呟いた。

それを側で聞いていた敵方の僧侶も、ううんと首を捻り、




「ここまで続くとは思わなんだ……」




と、本音をこぼす。


ただ義道だけは「すげえ!どっちもすげえよ!」と曇なき尊敬の眼を、会場の中心にいる二人へと向けていた。





野分と僧侶、両方の陣営が互いにうんうんと唸りながら、どうにか勝敗を決する方法はないかと頭を悩ませていた、その時。






ずる……べちゃ……ずる……べちゃ……。






湿った布を引き摺るような怪しい音が、お堂の脇から響いてきた。




僧侶たちも気づいたらしく、関係者たちの目はその不審な音のする方へと向けられていた。

音は次第に大きくなっていく。



裏にいるであろう僧侶たちの「ひいっ!」「はぅっ!」という短い悲鳴まで聞こえてくる始末だ。






「な、なに?なにが向かってきてるの?!」

「野分、ちょっと下がってろ」




先ほどまでの様子が嘘のように、表情を硬らせた義道が刀に手を掛ける。

僧侶たちも手にした箒や棒を片手に、臨戦態勢を取った。



音は確実に一歩一歩こちらに近寄ってきている。



皆が緊張の面持ちで静まり返る中、その怪しい影がお堂の欄干の奥からゆっくりと姿を現した。

正体を見た野分は、込み上げてきた悲鳴を咄嗟に飲み込む。








(き、き、清麻呂ーーーーーッ?!)







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