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#19 神通力対決②



そこへ、巨大な影がのそりと姿を現した。

寂暁だ。





「やっと陰陽師殿と力比べができますね」





少し垂れ下がっている目を細く狭めて、晴明に声をかける。

晴明は先ほどの上機嫌が嘘のように、すんっと顔から表情を消して、




「やっぱり、あんたが相手なわけね」




と、鬱陶しいという気持ちを前面に晒しながら片方の口角を上げた。





「今までのは、あなたと勝負がしたかったがための前座に過ぎません。おそらく民たちもこの勝負に一番注目しているでしょうね」

「へぇ〜。民たちには悪いけど、そんなに面白いことにはならないと思うよ。特に何の盛り上がりもなく俺が勝っちゃうから」




目線を合わすこともなく素っ気ない言葉を返す晴明の頭上から、寂暁の笑い声が降り注ぐ。




「それは楽しみです。どうか、お手柔らかにお願いいたしますよ。陰陽師殿」




厚い皮膚に皺を浮かべながら、寂暁は野分たちに会釈をしてその場を後にする。

のしのしと歩き去っていく寂暁の背中に向けて、晴明がシッシッと手を払いながら、




「あの人格者然としたところがキナ臭いんだよ」




と、ぼそっと呟いた。






そうこうしていると、審判の僧侶が晴明を呼びに来た。




「あちらの席にお座りください。密告などの不正を防ぐため、参加するお二人の周囲十六尺ほど人払いをします。目隠しも付けさせていただきます」




晴明は野分と義道を振り返り、「行ってくるねぇ」と呑気に手を振りながら、会場の中央に設置された席へと連れて行かれた。




二名が座席に座り、目隠しを施される。

両者の支度が整うと、僧侶の一人が会場の真ん中に立ち、木箱のようなものを天高く掲げた。






「この箱に、あるものを入れる。内側は三重構造になっており、箱は会場から見えない本堂の裏手に置く。その箱の中身を見事言い当てた者を勝者とする。勝負は三回行う」





そのまま僧侶は民衆の人垣へと近寄り、前列にいた民たちに箱の中を開いて見せ、不正がないかを確認させた。

そして、その中の一人を選び、「なんでもいいから、何かこの中に入れてください」と声をかける。


選ばれた民は少し考える素振りを見せてから、自分の持ち物の何かをその箱に入れた。

当然、晴明と寂暁からは何を入れたかは見えない。




そうして周りの民にも中を確認させたのち、何重にもなっている箱の蓋を順に閉じていった。

最後に海老錠と呼ばれる鍵できっちりと扉を固め、そのままお堂の裏手へと運んでいく。





「いやあ、何が入っているか、楽しみですな」

「集中してるから、ちょっと話しかけないでもらえるかな」




余裕たっぷりの寂暁の軽口に、晴明がギスギスした声で返す。

相変わらずのつれなさに苦笑しながらも、寂暁はどこか浮かれているような様子だった。




しばらくして、審判の僧侶が会場に戻ってきた。そして片手を上げて、






「千里眼対決、開始!」





と、その手を勢いよく振り下ろした。




寂暁が手にした数珠がじゃらじゃらと音を立て、何やら読経が始まった。

晴明はその音を聴きながら、二本の指を立てた手を胸の高さまで上げて、それらしい雰囲気を醸し出す。





(まあ、やってる感くらいは出しておかなくちゃね)




そんなことを考えながら、箱の中身を確認するために裏手に回った鬼たちからの報告を、のほほんとした心持ちで待っていた。







一方その頃、お堂の裏手では。





大量の晴明の友人たち──魑魅魍魎たちが一か所に集まったせいで、周辺の空気が淀み、鯨飲不明の体調不良を訴える僧侶が続出していた。



そこの中には『見える者』はおらず、誰も彼もがこの不穏な空気に身を震わせていた。

中には、晴明が呪詛を飛ばしているのではないかという根も葉もない疑いを掛ける者もいたが、前鬼と後鬼に脛を齧られてさらに怯え上がり、お堂の中へと逃げ帰っていった。





箱の周りをぐるりと取り囲み、それぞれ頭を突っ込んだり手を差し込んだりして中身を確認する。

当然のごとく木の板をすり抜けた魍魎たちは、ある程度満足すると我先にと晴明の元へと飛び立った。




あっという間に、会場の中央に座っている晴明の周りに魑魅魍魎の生垣が出来上がっていく。




まるで入道雲に囲まれてしまったかのように姿が見えなくなった晴明を、野分はハラハラと見守ることしかできなかった。





「うんうん、なるほどね〜!」





四方八方から報告を受けた晴明は、怪しまれない程度に独り言を呟きながら、何度も頷く。

妖たちからの言葉はそれぞれ異なっていたが、その言葉を組み合わせていくと、それが何を示しているかが容易に想像できた。




「両者、回答の準備はよろしいか」




背後に回った僧侶が、両名の目隠しを外し、回答を紙に書かせる。

迷うことなくすらすらと筆を走らせ、両名がそれを同時に掲げた。











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