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#2 邂逅④



「──さっきから言わせておけばッ!」




言葉遣いに気を使っている場合ではない。彼女はジャッと音を立てて砂利を踏みつけながら立ち上がる。


彼女の頭がズンズンと天へ伸び上がっていくのを見て、麻呂顔が一歩後ろに退いた。




「私が醜女?!どこに目ぇつけてんのよッ!ヘアケアも肌ケアも毎日してるし、筋トレだって欠かさずにしてるわッ!見なさいよ、このパッチリした目ェ!この目を作るのにどれだけ時間かけてると思ってんのよ!こっちは爪の先まで気にかけてんのよ!それを醜女……ブス呼ばわり?!あんたの方がよっぽど変な顔じゃん!なにその顔!紙粘土でも塗ってんのか!眉毛だって離れすぎだし、そういう犬いたわ!背ぇは小さいし、ずんぐりむっくり!それに助けれくれたの、あんたじゃなくて、この人じゃんッッ!」




間髪容れずに捲し立てながら横をズバッと指差したが、隣には誰もいなかった。





「な、なんじゃこの娘!醜いだけではなく、巨女ではないかぁっ!」




彼女が言葉を発する度に麻呂顔が小さく唸り声を上げながら後ろに下がっていく。


途中御簾に引っかかって転倒し、ひいぃっ!という情けない声を上げて、いつの間にかそばに駆け寄っていた男の背後に隠れる。




「……若様。この者はまだ混乱しているのです。どうかご寛大な処置を」

「な、なんでこんなのを助けた!」

「蔑ろにされている者を助ければ、若様の人徳がさらに上がります。あのように人の多い往来ならば、なおさらです。今頃、市中は若様のお優しさについての話で持ちきりでしょう」



 後ろに隠れている二頭身は、男の淡々とした話を聞いてピクリと体を震わせた。



「ふ、ふん!ま〜あ?麻呂は優しいからぁ?醜女にも平等に手を差し伸べたまでのことだけど?」



踏ん反り返って鼻から息を吐き出している。

こういうのを天狗になるっていうんだろうな。


野分は麻呂顔男のあまりの単純さに呆れ果ててしまい、もう何か言う気力もなくなってしまった。



麻呂はふんふんと鼻を上機嫌に鳴らしながら、男に付き添われて元の場所に座りなおす。

男は御簾を上げて整え直すと、また野分の横に戻った。




「それで?そなたはどこからきたのじゃ?」




肘置きに寄っかかりながら、扇子でこちらを指す様子に、野分はイラッとくるものがあったが、先ほど失礼な態度をとってしまった手前、大人しく答えることにした。




「東京です。京都には修学旅行できたんです。でもいつの間にかあの通りにいて。突然、訳も変わらないうちに暴漢に襲われました」


「とうきょう?」


 麻呂は首を傾げ、彼女の隣に座り直した男に目線を投げかける。


東京を知らない日本国民なんているのかと思い、野分も隣の男に視線を向けたが、やっぱり頭の上にはてなマークを浮かべている。


これが演技だとしたら相当うまい。



「え……、本当にわからない?」

「あいにく、生まれも育ちも京なのでな」



 ホホホっと高笑いをしながら仰け反っているが、ただ物を知らないだけなのではないかと野分は思った。



「京都だって新聞とかテレビとかで、東京のニュース流れるでしょう?」

「しんぶん?てれび?にゅ……?」



(もしかして、これが俗にいう世捨て人っていうやつ?よく昔の生活を再現しながら暮らしている人をSNSでも見かけるけど、その類なの?それにしたって、言葉の意味くらいわかるよね?)



「とにかく、京の者ではないのだな?」

「そ、そうです!」

「では、名は?」

「……野分。望月野分」

「ほう。望月とな。信濃の御牧の遠縁かの」

「信濃?長野県ってこと?いや、そっちに親戚は……」

「それにしても、これまた随分な名じゃな」



野分の言葉も聞かず、開いた扇を口元に当てて、ホホホと笑っている。



(人の名前を聞いて笑うなんて、礼儀を知らないのか、この麻呂眉)



眉間に縦皺を数本刻みながら、目の前の丸っこい人物を睨みつけた。





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