#12 大内裏潜入⑨
野分と目線がかち合ったその二匹は、ギョロリと飛び出た目玉をさらに丸くして、
「師父!この娘、見えてますぞ!」
「晴明様!この娘、やっぱりおかしいです!」
と、男の裾をよじ登っては両方の耳元でかしましく捲し立てる。
とっさに義道を盾にして隠れた野分だったが、鬼たちの言葉に「ん?」と声を漏らし、
「晴明って、安倍晴明?」
と、口走ってしまった。
途端に清麻呂の手が飛んできて、野分の頰肉をむぎゅうっと押しつぶすように口を塞ぐ。
「とんだご無礼を!どうかご容赦くださいませ!」
再び直角に頭を下げさせられた野分。
地面しか見えなくなった視界の端からひょっこりと鬼たちが顔を覗かせると、野分は声にならない悲鳴を上げた。
「お嬢ちゃん、こいつらが見えるのかい?!」
晴明と呼ばれたその男は野分の非礼を気にもとめずに、眉尻を下げてキャイキャイとはしゃぎはじめた。
「うわぁ!久々に会った、見える奴!ほら見ろ!いるって言ったろ!」
きれいに並んでいる歯を隣に立っている侍医に向けて剥き出す。侍医は胡散臭そうに彼を眺めると、
「しかしなぁ、儂はその鬼とやらは見えんから判断がつかんよ」
「じゃあ、試してみるか?前鬼!後鬼!」
晴明がちょいちょいと指先を動かすと、二匹はすぐさま彼の肩に飛び乗った。
その二匹の頭の側面にちょっこりとついている小さな耳に何やら囁く。
すると二匹は野分の目の前まで降りてきて、背筋を伸ばしてそこに立った。
そして晴明は同じように侍医にも耳打ちをして、不敵な笑みを浮かべながら野分に言い放った。
「こいつらがこれから何をするか、当ててみてくれ」
野分は首を傾げながらも承諾し、目の前にいる二匹に視線を落とした。
「「いざ、参らん!」」
二匹の声が綺麗に重なったかと思うと、彼らはどこからともなく取り出した小さな笊を天高く掲げ、何やら軽快な踊りを披露しはじめた。
「〽 東の野に炎の立つ見えて〜」
「〽 かえり見すれば月かたぶきぬ〜」
何やら和歌らしきものを口ずさみ、珍妙なステップを踏みながらちゃきちゃきと笊を振っている。
それまで怯えていた野分もその奇妙な愛らしさに目が離せず、しばらく眺めた後に噴き出してはケラケラと笑い始めた。
「あははは!可愛い!なにそれ!可愛い!」
野分の反応に他の三人がぽかんと口を開く。
たった一人、ニヤついている晴明が、
「そいつら、何してる?」
と、尋ねた。
「なんか、笊みたいなものを持って踊ってる!あと、歌?ひむかしの〜、のに……かぎろい?のたつみえて〜……とかなんとか!」
小さく手拍子を打ちながら二匹を盛り上げている野分の回答に、晴明が高笑いをあげる。
「あっはっはっはっは!ほれ見たことか!ちゃんと見えてるじゃないか!」
「うーむ……。にわかには信じがたいがなぁ」
「今の答えが何よりもの証拠だろう!いい加減認めろよ〜!」
晴明は軽快な足取りで野分に近づき、彼女の肩をぽんぽんと叩いた。
「いやあ、鬼の可愛さを理解できるなんて将来有望なお嬢さんだ!」
「……やっぱり鬼なの、これ?」
野分が顔を引きつらせて指差すと、二匹は頬を鬼灯のように膨らませて、
「これとはなんだ!これとは!」
「躾のなっていない卑しい小娘め!礼儀を弁えよ!」
と、がすがすと野分の脛を蹴り上げてきた。
たまらず清麻呂の背後に逃げ込むが、清麻呂は笑顔を浮かべたまま二人から見えないように後ろ手で野分の腕をつねりあげる。
悲鳴を飲み込んだ野分は、清麻呂の化けの皮を剥がそうと腕を掲げて清麻呂に襲い掛かろうとした。
と、その時。
「若様!」
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