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#12 大内裏潜入⑧






「……マジで清麻呂じゃん」





それは間違いなく、あの清麻呂の声だった。

野分はにわかには信じがたいこの事実を受け入れられず、何度も目をしぱしぱさせては彼の姿を確認した。


その時、野分たちの近くの物陰からこっそりと彼の姿を垣間見ていた女官たちがキャッキャと黄色い声をあげた。

清麻呂だというその美男子がそれに気づき、愛想のいい笑顔をこちらに向ける。

そして野分たちの姿をその目に捉えると、ビシッと石化したように微動だにしなくなってしまった。






「……」






しばらくすると、美男子は穏やかな笑顔を浮かべたまま、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

周囲に女官たちの悲鳴が響き渡る。

いつもならヘラヘラとふざけた態度を取る野分が、まるで少女漫画のヒロインのように花を撒き散らし彼の到来を待っている。

義道は野分のおかしな様子に若干げんなりしながらも、ことの顛末を見守っていた。



彼らの目の前に立ち、にっこりと笑う美男子。




「しばし、よろしいか?」




その美男子は、野分をつないでいる縄と義道の腕を荒々しく掴むと、その見た目からは想像がつかないほどの握力で彼らを人の目のつかない物陰に連れ込んだ。




ずるずると建物の影まで引きずられていくと、その美男子は周りを念入りに見渡して人がいないことを確認する。


そして、大きなため息をついたかと思えば、途端にポンッと音を立てて、いつもの二頭身の清麻呂に戻った。







「醜女ーッッ!!!なんでおぬしがここにおるーッ!!」








スパーンッと小気味のいい音が天高く響き、木々に止まっていた鳥がバサバサと羽ばたいていった。

しかし、野分を叱り飛ばす清麻呂の声量はいつもの半分以下だった。





「清麻呂が連れてってくれないから、来ちゃった☆」

「来ちゃった☆じゃないわ、たわけーーーッッ!!!!」





歯をむき出しにしながら熟れたトマトのように顔を真っ赤にして、ピシャリピシャリと檜扇を野分の頭を叩き続ける。


烈火の如く怒り狂っている清麻呂に反して、野分はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、



「今の姿、もう一回なってみてよ!すごいイケメンじゃん!まあ、私の好みじゃないけど!」


と、どこ吹く風と聞き流す。

そのふざけた態度がさらに清麻呂の怒りの炎に油を注いでいた。




「義道っ!まさかお前がこやつを連れてきたのか?!」



突然、怒りの矛先を突きつけられた義道がすごい勢いで首を横に振る。



「んなわけあるか!野分が勝手に忍び込んだんだ!」

「いや、ここの門番ちゃんと仕事してる?普通に忍び込めちゃったよ?」

「悪びれもなく言うなッ!この痴れ者がーーーーッ!」




ボムボムとゴム毬のように飛び上がると、清麻呂は再び野分の頭上めがけて檜扇を振りかざす。

体を縛り上げられているため腕で頭を庇えない野分は、ギュッと首を縮めて次の衝撃に備えた。




すると、二人の男性の話し声がこちらに近づいてきた。

清麻呂は素早い動きで腕を下ろし、乱れた髪や衣服をささっと直すと、ポンッと音を立てて先ほどの美男子姿に戻った。



「おお!いたいた」



現れたのは、先ほどの典薬寮の侍医と、その友人だった。

悠然と近づいてくる侍医の手には、野分のスマホが握られている。




「お嬢ちゃん、落とし物だよ」

「え?ああ?!スマホっ?!」



野分は義道に振り返り、逃げたりしないからとせっつきながら、縄を外してもらった。



「よかったぁ!これ失くしたら本当に死ぬところだった!」



スマホを受け取った野分は、感激のあまり画面に頬を擦り付ける。


「この木の板が?」

「そうなんです!本当にありが……ぐぇッ!?」


なんの前触れもなく、いきなり清麻呂に頭をぐいっと押さえつけられ、野分の喉からカエルが潰れたような声が飛び出した。




「侍医殿、主計権助(かずえのごんのすけ)殿。私の雑仕がご迷惑をかけまして、大変申し訳ございません」




ギリギリと力いっぱい頭を押し付けられる。

見た目は美青年ではあるが、中身は清麻呂なのだ。

それを思い出した野分は額に青筋を浮かべ、清麻呂の手に抵抗するかのように首に力を込めた。



「いや、去り際に『清麻呂』って言ってたから、まさかとは思ったが、本当に知り合いだったとはなぁ」



侍医の友人の男がカカッと気持ちのよい笑い声をあげて答えると、清麻呂は「お恥ずかしい限りでございます」と恥入るように視線を逸らした。



「いやいや。しかし、お嬢ちゃん。君は、どこから来たんだい?」


ゴッと清麻呂の手を頭突きで跳ね返しながら頭を上げた野分は、


「すみません。達智門から侵入しました」


と、素直に答えた。




「いや、そうじゃなくてな……」





男は、そのまま野分をじっと見据えた。

野分自身を見ているのではなく、その少し外側をなぞるように視線を巡らす。




「なんだか、君の周りがもやがかって見えるんだよなぁ」




腕を組みながら顎に手を添えて、目を細める。

その懐疑的な視線に耐えかねた野分が目線を落とすと、彼の足元に二つの小さな影がぴょこぴょこと蠢いているのに気がついた。



「ひえっ!?鬼ッ!?」



そこには市中で見かける生き物にそっくりなやつが二匹、彼のふくらはぎあたりにがっしりとしがみついて彼女を見上げていた。




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