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#12 大内裏潜入⑤



「あっはっはっは!ほれ見たことか!これはそうそう混ざり合わせられるものではないっと言ったではないか!」

「いやしかし、前例のないことをやってこその進歩というものだろう?」

「まあ、そうじゃながなぁ!まさか発火するとは!おかげで顔が煤まみれになったわい!」

「白髪頭が黒く染まっておるぞ!毛染め薬として使えるんじゃないか?」

「それはいい!アッハッハっハ!」



何がそんなに面白いのか。

半ば狂ったように高笑いをしている二人を、周囲の者は茫然と立ち尽くしたまま眺めるしかなかった。


しばらくして白煙が薄まった頃、ようやく部屋の中にいる狛たちに気付いた二人は「おお!」と声を上げて陽気な笑顔で近づいてきた。


ひとりは齢70歳くらいの高齢の男性だ。


この時代にしてはだいぶ高齢だというのに背も曲がっておらず、しっかりと背筋が伸びている。

白髪(今の衝撃で一部分は黒くなっているが)を綺麗に撫で付けていて、皺の刻まれた顔をさらに皺くちゃにして笑っている。


もう一人は40代後半といった感じの男性だ。

まるで現代のメッシュのように、黒髪の中に一筋だけ白髪の房がある。

彼もまた年相応の皺があったが、顔の造形が美しいところも相まって、まるで芸能人のような出で立ちだと野分は思った。



「狛ではないか!どうした?また牛の調子が悪くなったのか?」

「ご無沙汰しております、侍医殿。そうなのです。以前いただいたお薬を頂戴できればと思い、牛たちの気分転換も兼ねてこちらにまいりました」

「牛の気分転換とな!そなたは本当に、自分の息子のように牛を可愛がっておるなぁ。いやあ、感心感心!」



ガッハッハと大口を開けては狛の頭を撫でくりまわす。

まるで祖父が孫を可愛がっているような光景だ。



「して、そちらのお嬢ちゃんは?」



侍医と呼ばれた男は野分に目線を向けた。



「先ほど外で知り合いまして。なんでもご友人が市中で医者をしているそうで、医学について教えて欲しいと」

「野分です。初めまして。お邪魔します」



彼女は一歩前に出て、深々と頭を下げた。

男たちはしげしげと野分の顔を眺める。




(あ〜……、ハイハイ。また醜女って言われるんでしょ)




毎度お馴染みの反応がくるのだろうと、覚悟をしていた野分だったが、



「そなた、『気虚』を起こしているな。ちゃんと寝られていないだろう?」

「お嬢ちゃん、どこから来たんだい?なんだが他の者とは違った気を纏っているなぁ」



と、二人の男は至近距離まで顔を近づけ、彼女のことをまじまじと観察し始めた。

まるで予想していなかった二人の反応に、野分は目を白黒させながら、



「醜女って言わないの?」




思わずポロリと、そんな言葉が出てしまった。

二人は互いに顔を見合わせ、これまた心底愉快そうに大口を開けて笑いだす。



「人間の容貌なんて衰えればおんなじものよ!見てみろ、この爺さんを!シワだらけだぞ!」

「爺さんだけに侍医ってな!って、喧しいわ!若作りが趣味のそなたに言われたくないわい!お嬢ちゃん、見目なんてどうでもいいんじゃよ。それよりも、健康!健康第一!」



お互いを指差しながら軽口を叩き合っているが、険悪な雰囲気は一切ない。

年齢を超えた気心の知れた友人といったところだろうか。



「お二人とも、その辺で。野分さんが驚いていますよ」



朗らかな笑顔を浮かべながら、狛がやんわりと手で制す仕草を見せる。

野分はすかさず本題について語り始めた。



「あの、私の友達が医者をしているんですけど、独学だから情報が限られちゃって。ここに来れば何か有益な知識を得られると思ったんです」



至極無礼なことを真っ向から言っている自覚はあった。

長年時間やお金をかけて極めてきた医療の真髄を、なんのゆかりもない娘から「教えてください」と言われて、果たしておいそれと差し出すものかと。


しかし里のためにも、街の人たちのためにも野分は手ぶらで帰るわけにはいかないのだ。


彼女は怒鳴りつけられることを覚悟しながら、決意の光を宿した瞳で侍医を見つめた。



「ほお、独学で。大したものだ!それで、何が知りたい?」



侍医はおもむろに棚に向かって歩き出し、そこにしまってあった巻物を溢れんばかりに腕に抱えた。

そして、それらをまるで帯でも広げるように床の上に縦横無尽に転がしていく。



瞬く間に足の踏み場もなくなった部屋の中で、他の二人が「またか」とでも言いたげにげんなりとその様子を眺めていた。






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