7話 2人での登校後。
思春期の男女ってなんだか初々しいですよね。仕事中見かけると、幸せになりな!って作者は思っていたりする。かなり上から目線だけど、気にしないで…
俺は北条さんとほぼ同時に教室に入る。
そうすると、もちろんクラスメイトの注目が北条さんに集まる。ついでに俺にも…。もちろん注目が集まるのは分かっていた。だから、時間をずらして入りたかったのだが、遅刻はしたくない。
「それじゃ、またね!」
「うん、また…」
北条さんはそう言うと自分の席は向かっていった。
俺はクラスメイトの視線に気まずさを覚えながら言葉を返すのだった。
俺が席に座り前を見ると樹がニヤニヤした顔でこちらを見ていた。こりゃ休み時間に何か聞かれるな。
そう思うと同時に担任が入って来てホームルームが始まったのだった。
*
会話をしない気持ちを込めて、休み時間を寝たふりで過ごしいたが、昼休みに入ると突然、樹が声をかけてくる。ちゃっかり弁当箱を置きながら。
「なぁ!朝から北条さんと登校なんて…。何があったんだ!?」
心なしか周りのクラスメイトの声が少し小さくなる。多分、俺たちの会話が気になるのだろう。そんなクラスメイトと樹に聞かせるように言う。
「昨日も言ったけど、家が隣同士で、偶然会ったんだ。時間ギリギリだし、別々行くと遅れるから仕方なかったんだ」
「なるほどなるほど?羨ましいなこいつ!」
そりゃ夢見がちな樹にとっては羨ましいだろう。
樹はそう言うと俺の背中を軽く叩いていた。
ふと、周囲が騒ついているのに気づく。
そうして、俺は自分の失言に気づいた。
『家が隣同士』おそらく、いや間違いなくここだろう。
樹には昨日伝えていたものの、もちろん他のクラスメイトは知らない。まさか家が隣同士とは思うまい。俺も昨日知ったのだから。
チラチラとクラスメイトの視線を感じながら、北条さんを見る。弁当を食べながら、周りと話している。
「弁当…?あ、飯、食わないと…」
そう思い、俺は弁当箱を取り出そうとした。
ない!あれおかしいな? ゴソゴソ、やっぱりない!
俺は絶望した。弁当箱を朝の支度の時、忘れていた。たまに忘れてしまうのだが、まあ忘れてしまったものは仕方がない。
「樹。悪いが購買に行ってくる。」
「ん?あぁ…分かった。夜いつものようにしような!」
「分かった。いつもの時間な」
樹は察してくれたのだろう。俺たちはそう言い合う。
俺は購買へと足を向けた。
*
購買ではもう人はまばらで、売り残りのように残っているものしかなかった。その中で激辛ピザパンなるものを買った。校内オリジナル!と書いてあったので気になった。
それを買い、教室に向かっていると、後ろから声をかけられる。
「大地…? それだけで足りるの?」
「朱音か。少し足りないかもだけど、まあ家に帰れば何かしらあるし…」
「んー、ならこれ、あげる」
購買でパンを買っているのが見えたのか、少し考えて話しかけてくる平坂朱音は、少し小さめな弁当箱を渡してくる。
平坂朱音。彼女も俺と同じ高校1年生だ。内気な性格で、いつもオドオドしている。しかし、する時はすると真面目で信用できる女の子だ。容姿もそれなりに整ってはいるが、人にジロジロ見られるのは嫌だからと、少し長めの前髪を下ろしているのでその顔は見えにくい。
ちなみに家は俺の隣であったりもするので、幼馴染。
もちろん、北条さんとは反対の家だ。
そう考えたら、俺の家は同級生の女の子に囲まれていることになる。俺の家、立地最高かよ。
「あ、それなら私も…」
と、北条さんの声が聞こえる。
え?俺は振り返る。そりゃ声がしたんだからいらっしゃるわけで。
北条さんがペットボトルとパンを持って立っていた。
「神谷くん!これあげるね!」
パンを北条さんから押しつけられる俺。
しかし、視線は俺ではなく、朱音の方を向いていた。朱音も朱音で、そんな北条さんの方を見ていた。身長は北条さんの方が、拳一つ分大きいので朱音が少し見上げるようになる。
よくある睨み合いでバチバチと火花を散らしていそうだなと、俺は他人事のよう考えた。
女の子2人が気まずい雰囲気になって来たので、
「2人ともありがとう!俺は教室で食べるね!」
と俺は逃げ出そうとした。
すると逃げ出したはずなのにその空気は後ろから付いてくる。
「ねぇ!あなた、神谷くんとはどんな関係?」
と、睨みつけるように朱音を見る北条さんが切り出す。
朱音は朱音で、いつものオドオドした雰囲気もなく、こちらも睨みつけるようにして言葉を返す。
「大地とは家がとなりの…ただの幼馴染です…。そう言うあなたは?」
「私?私も実は神谷くんとはおうちがお隣なんだよ!あとね、クラスメイトで教室も一緒だし、だから一緒に教室に戻ってるだけ。だよね?神谷くん?」
「もう、そういうことでいいよ…」
「そうなの…?でも、わたしも向かう方は同じだし、一緒に戻っていいよね?」
北条さんの言葉に俺は投げやりな言葉を発した。それを聞いた朱音は、少し寂しそうに、しかし諦めないように言う。
それを聞いた俺は
「わかった。俺たちの教室の前までな?」
「分かった…!」
「なんか神谷くん…。その子に対して甘くない?」
不機嫌な北条さんからの質問。これ以上、不機嫌にさせるわけにはいかない。そりゃ、目の前で別の女の子に甘い男なんで見たくはないのだろう。そう考えた俺は即答した。
「気のせいだ」
「そう?それならいいけど…」
「わたしと大地は昔からの仲だから…。どこかの誰かと違うんだよ?」
「…」
ちょっと朱音さん?今北条さん、納得しかけたでしょ?なんで火に油注いじゃうかなぁ?北条さん、黙ってすごい顔でこっち見てくるんけど。そもそも昔からの仲って言っても、仲良くなったの小学生の高学年になった時ぐらいだったじゃん。それまでは、無視されると思ったら悪戯されるわ。散々だった。
そう考えると朱音は、その雰囲気と喋り方とは裏腹に元々が活発な子だったなと気づいた。
結局、ピリピリした空気で教室の前まで戻ることになった。
おっと、第三勢力か?
いいや、第三次世界大戦… やめとこ。