41話 無自覚?
へへへ…。ねみぃや…
家から出た俺と朱音だが、俺は楓の家の前に黒い車が止まっていることに気づいた。
こういうと失礼だとは思うけど、乗用車で怖い人とか乗っていそうなタイプのやつ。
この住宅街では時々見るには見るのだが、隣のしかもクラスメイトの、ついでに言うと今日は…いやこれはいいや。そんなクラスメイトの家に止まっているので、どうしても気になってしまう。
「珍しい、ね?」
「だな」
俺はそう言って朱音の言葉に相槌を打つ。そう言うって事は朱音も普段は見ないのだろう。物珍しそうに見ている。
すると、ちょうど来たばかりだったのだろう。
後ろからだったので分かりづらかったが運転席側からと助手席から2人の和風の服を着た年配の人が降りてきた。
男性と女性で恐らく夫婦なのだろう。男性は杖をついており、女性はその手助けをしている。
女性は気づかなかったが、男性は俺たちに気がついたのだろう。ジロリとコチラを一瞥すると女性に連れられそのまま楓の家へと向かっていった。その時に見えた顔は、他人にも自分にも厳しそうな顔で、体も杖をついているにしても鍛えられているのだろうと分かる。一言で言うとワイルドな爺さん。そんな印象だった。
杖がなくても歩けるんじゃないか?あの爺さん。
そんなことを考えていたら袖を引かれ、そちらを見る。
「大地。いこ?」
「あ、そうだな。行こうか」
じっと見ていた俺だったが、朱音にそう言われて買い物に行くという本来の目的を思い出す。
それと同時に、女の子の服装は褒めさないと言う親父の言葉も。
「あ、朱音。服。似合ってるよ」
「ん。大地も。この間の、来てくれたんだ」
俺は照れ臭かったが、朱音も顔を真っ赤にしているからお互い様だろう。
そんな感じで妙な空気だが、悪い空気ではなく心地の良い空気で俺たちは近くのデパートへと向かった。
*
近くのデパートは正直、ボロくて人も少ない。しかし俺たちが歩いて行けるくらいの距離にあるので、学校の後でこんな時間が遅くなる時には重宝する場所だ。まあ、俺は久しぶりにくるけど。昔はもっと賑やかだったなぁ…。とかそんなことを思いながら俺と朱音はデパートを回る。
そんな中、朱音が切り出す。
「大地。元気になった?」
「うん?そうだっただろう?」
唐突な朱音の言葉に俺は適当に返してしまったが、朱音からの鋭い言葉がくる。
「嘘。朝、元気がなかった」
まさか朝の話をしてくるのか。しかしそうするとどう答えたもんかな。クラスメイトの子からキスされたとでも言えというのか…。いや、普通に無理だ恥ずかしい。今思い出しても恥ずかしいぞ…。
と、1人悶々としている俺。
そんな俺の返答を待たずに朱音が続けて言う。
「でも、元気になって、よかった」
朱音がそんなことを言うので俺はハッと朱音を見ると優しい微笑みと言うか母性の溢れる表情というか、つい見惚れてしまうほどだった。
歩いていた俺たちだったが、今は俺は朱音を見て、朱音は俺を見ていて歩みを止めていた。
「「…」」
しばらくのそうしていたが俺たち、いや俺だな。恥ずかしくなって顔を逸らした。
すると朱音が言う。
「わたしの、勝ち」
「え?」
唐突な朱音の勝利宣言に俺は素で疑問の声を上げてしまった。まあ、たまにあるよなこういう謎の勝負。でも今は違うでしょ?朱音さん?
「いつか、奢って?」
「マジですか。まあ、全然いいけど…」
「ん。」
朱音は嬉しそうにそう言って頷いた。そんなに喜んでくれるならこちらも本望というものだろう。
そうして会話を続けていた俺たちだったが、デパートでウインドウショッピングをしていると時間が経っていた。
元々学校の後で出る時間も遅かったし、そろそろ帰るか。俺はそう考えて朱音に促す。
「そろそろ帰ろうか?」
「ん。少し待って」
少し遠くででマネキンの着た服と睨めっこをしていた朱音だが、しばらくするとこちらに歩いてくる。なんだか落ち込んでいるようにも見える。
「どうした?」
「その、高かった」
気に入った服だったのだろう。確かに朱音に似合う服装だと思う。けれど、それが高かったと。今日は次々と見ていったのだが、ここでは長い時間を過ごしていた。それだけ気に入ったのだろう。でも、今は俺も持ち手が少ない。
「その、今度また来ような…」
「ん…」
不甲斐ないと少し落ち込んだ俺は同じく落ち込んだ様子の朱音と帰路に着くことにした。
そうした俺たちは手ぶらで帰路についたのだった。
*
「あっ、あそこ寄ってかないか?」
「ん。分かった」
落ち込んだ状態でデパートから帰っている俺たちだったが、落ち込んだままでは帰れない。そう考えた俺は、朱音の奢ってと言う言葉も思い出してファミレスに行こうと提案した。
朱音に奢る約束を果たせるついでに気分も変えられるだろうと俺はそう考えた。
朱音からは特に反対の声もないのでそのまま歩みをファミレスの方へと向ける。
特に混んでるわけでもなく、すんなりと俺たちは入れた。
席に座ると、俺は朱音に聞こうと思っていたことを聞く。
「朱音。今日はなんで誘ってくれたんだ?」
色んな深い意味とかはなく純粋に思ったことだった。
改めて考えると出かける時、朱音は少し強引だった気がする。出かけるといつもの朱音だったと思うけれど。
すると少し気まずそうに朱音が答える。
「大地。朝。元気なかったから、元気づけようと…」
「気をつかってくれたのか?」
俺の言葉に頷いて答える朱音。
「でも、家だともう元気、だった」
「あーまあ、そうだな。うん」
要するに、朱音の考えは俺が元気がなかったから買い物とかで気分転換になればいいとかそういった考えだったのだろう。でも、俺の家に来て、あれ?元気になってね?とそんな感じになって、姉もいたわけだし、引くに引けないそんな状況だったのかもしれない。まあ、俺の考えだけどあながち当たっている気がする。
言葉を返さない朱音に俺は一言。
「ありがとな」
「なん、で?」
「いや… まあ、いいじゃんか」
不思議そうな朱音だったが、俺は礼を言いたくて言ったのだ。自己満足だとしても。
しばらく沈黙が続いたが、料理が来てそれを食べていたら、朱音が言う。
「大地。明日からのゴールデンウィーク。どう、する?」
ゴールデン、ウィーク?GW?あ、そうだ。完全に忘れていた。でも予定か…。予定なし。予定がないと家から出ない。以上!と俺の頭で結論が出る。
「うーん。家から出ないな」
「そうなの?」
「うん。朱音は?」
「家族で、明日から最終日まで、お泊まり」
なん…だと…?逆に質問しといてあれだが、予定がないという返答を俺は期待していた。しかし、朱音はなんと言った?お泊まり?しかも家族で?マジですか…。
「お、お泊り…ですか?」
「ん。今日はそれも伝えようと、思って」
なんというか今まで、楓と朱音の3人であるのが当たり前になってきていた俺にとっては衝撃的だった。自分が思っていたより衝撃を受けていることにも驚いたが、自然と俺はなんだかんだで朱音と楓の2人と遊ぶものだと期待していた。が、これだった。現実とは非情なり。
そうして俺と朱音は会話をしつつ、ご飯を食べ終わり帰宅した。もちろんここは奢らさせていただきました。
家に帰ると姉貴がいた。
「大地?おみやげは?」
家に帰った俺に姉貴が放った最初の一言だった。
「あ、忘れた」
俺の言葉で夜にしては珍しく賑やかな神谷家だった。
姉に逆らえる弟はいない(偏見)の作者です。
今度は楓のおじいさんが出てくるかも。




