36話 相談?
なかなか話進みません…
「それで神谷。今日どうしたんだ?ずっとボーッとしてたらしいじゃないか」
そう言って心配そうな表情の担任の山田先生。
心配してくれているのはありがたいけど、わざわざ座って話すほどのことじゃないと思うんだ。俺はそう思っていた。
今、俺と山田先生は進路相談室にいた。と言っても隣の小さな部屋。そこにはパイプ椅子と長机があるだけの場所で、そこで俺は山田先生と対面するように座って話している。
「いや、すみません。少し考え事をしてまして」
「…言えない悩みなのか?」
一拍おいて、そう先生は言う。
「まあ、そうですね。言うほどではないと思います」
「そうか。それなら無理に聞かない、が。その、いじめとか、じゃないよな?」
先生は歯切れ悪そうにそう言う。
え?イジメ?普通に違うけど。そう思った俺は言う。
「先生。違いますけど…」
すると、今度は先生が驚いた様子で言う。
「ち、違うのか!それならいいんだが…。朝、濡れてただろう?それはどうしてだ?」
朝。俺はトイレで顔を洗って制服の袖で顔を拭いた。それで袖がグショグショに濡れていたのを見たのか。それを見て何かしらイジメられているのではないか?先生はそう思ったんだろう。
「朝はトイレで顔を洗ったら拭くものがなかったので制服の袖で拭いたんですよ。そしたらびしょ濡れになりましたけど」
俺は軽く感じでそう言う。
いや、でも本当に制服のシャツは吸水性がなかった。乾くのも早かったけど。
「そうなのか。それじゃ今日ボーッとしていたのはどうしてだ?」
「それは…。今日、新作のゲームが出るんですよ。それが楽しみでして」
俺は頭に手を置いて軽い雰囲気を出して言う。
もちろん、そんな事はないのだが。ま、早く帰るための口実だ。
すると先生は真剣な表情で聞いてくる。
「本当…なんだよな?」
「はい」
俺がすかさず返事すると、今度は呆れた様子、しかし安堵した表情で先生は言う。
「はぁ。そういうことなら悪かった。俺の早とちりだったみたいだ。呼び出して悪いがもう帰っていいぞ!」
「いえいえ、気にしないでください。それじゃ失礼します」
俺はそう言って椅子から立つ。
そして、部屋を出ようとした時。
「ああ!それと。もしもの時はクラス委員として頼らせてもらうからな!」
そう言ってニヤッとした顔を見せる山田先生。
「ほどほどでお願いします」
俺がそう言うと先生は頷いてサムズアップする。頼りにしてるぞ!と雰囲気で伝わった。俺はお辞儀をして、部屋を出て隣の進路相談室に入る。
進路相談室を通るのは廊下に出るためにここを通っていかないといけないのだ。少し不便だとは思うけど、きっと部屋の中の声が廊下に聞こえないように、と考えられているのだろう。
そんなことを考えながら俺は廊下に出る。
すると、予想外の人物が待っていた。そもそも待っている人がいるとは思わなかった俺は驚きを隠せなかった。
「桜木…」
「あ、神谷くん。少しお話しよっか?」
窓から入るの風を受け、ピンク色の髪をなびかせた桜木がそこにいた。笑顔なんだが目が笑っていない。
大体、桜木のこういう表情の時は怒っている時なのだが。
なんかしたっけな。俺はそう考えていた。
「なんかしたっけか?」
「んーなにもしてないよ?」
相変わらずの表情で桜木はあっけらかんとそう答える。
それなら何故ここにいると言うのだろうか?
そう俺が思っていると桜木が口を開く。
「なんで私がいるのかって表情だね?」
「い、いや、そんなこと…」
「嘘。私たち小学校からの付き合いだよ?分かるよ」
なんだか寂しそうな表情で桜木は言う。
小学校からの付き合い。確かにそうだけど、俺は桜木の事は正直そんなに分からない。部活ぐらいでしか話さなかったし。
「そうか?俺は分からないな。現にそうして桜木がなんでいるのかが分からない」
「あはは、それはそうだよね。…私はいっくんから頼まれたんだ」
苦笑しながら一拍置いて桜木はそう言う。
なるほど。樹からの差金だったのか。それなら俺の居場所を把握しているのは分かる。だが樹は桜木になにを頼んだと言うのだろうか。そう考えている俺の考えをまた読んだかのように桜木は言う。
「それね、楓さんのことだよ。朝、いっくんと話してたんだって?」
本当に思考でも読めているんではないだろうか。
もう話さなくても勝手に進んでくれそうな、そんな気がした俺は黙ることにした。
「…」
「…」
「…」
「…いや、何か言ってよ!」
そう言ってこの空気に耐えかねたのか桜木は言う。
大きな声を上げる桜木だが、怒っていない事は表情で分かった。だから俺は冗談半分で言う。
「いや、ごめん。なんか俺の考えたことを言ってるから思考でも読めてるのかなって思って」
「そんなわけないじゃん!普通に考えたら分かるでしょ!?」
分かる人には分かる、らしい。
ちなみに作者は分からない。




