35話 決断する少女
脳がバグってきたかも。
まあ、なんとかなるか?
私と朱音は2人で学校に着いた。流石にもう抱きついてはいないよ?周りからの視線が恥ずかしかったもん。
教室の前まで来て大地くんはどうしてるのかなって見てみると自分の席で寝ていた。
…寝るのが趣味なんじゃないかな!?授業中でも寝てるんだもん。そこは直して欲しいよね?
私は1人そう考えながら、朱音と分かれて自分の窓際の席へと向かった。だって会うのはまだ恥ずかしいもん。
その時、チラリと朱音を見ると大地くんの背中にお弁当箱を置いていた。どうやらそうやって起こしているところのようだ。大地くん、意外と寝起きはいいんだよね。
私が席に着くと、近くの席の元気な女の子が話しかけてくる。
「おはよう!北条さん!今日は一緒に登校しなかったんだね?」
「おはよう!えっと、それはどういう…?」
私はいきなりそう尋ねられて逆に聞き返してしまった。
その子はそんなことを気にした様子もなく続ける。
「神谷くんと一緒にってことだよ?最近いつも一緒に登校してたから気になっちゃって、ね?」
「あ、だよね?私も気になってた」
そう言って別の子が会話に入ってくる。ついでに周りの男の子たちはこちらに耳を傾けている、ような気がする。
えーと、どう説明しよう…。そう考えていた私の言葉を待たずに話は進む。
「もしかして!もしかしてなんだけど、もう付き合っちゃってるとか!?」
「いや、まさか。まだ入学して1ヶ月くらいだよ?」
「そのまさかは北条さんに聞かないと分からないよ!?」
そう言って最初に話しかけてきた子が目を輝かせてこちらを見る。なにかを期待している、そんな目だった。
「どうなの!?北条さん!?」
元気な子がそう言うと、心なしか教室の中がシンッと静まり返ったような気がした。
私の言葉をクラスメイトのほとんどが聞いている。そんな風にも感じる。いや、実際そうなのかもしれない。
正直に付き合ってないことを言えばいいんだ。と、そう考えた私。
「私と大地くんはね。…付き合ってないよ」
私は誤魔化すように苦笑しながらだけどちゃんと言えたと思う。でも、言う時、すんなりと言葉が出なかった。
「えーでも、それならなんで一緒に学校に来てるの?」
「それは…。家がお隣なの。だから時間が一緒だから…」
歯切れ悪く答える私に助け舟を出すように質問してきた子とは別の子が言う。
「なるほどね。偶然ってことだね?」
私はその言葉に頷く。当然、偶然ではないけど、話を合わせた方が無難に話が収まりそうな気がしたからだ。
私の様子で周りのクラスメイトたちはホッとしたように一息ついていた。特に男の子。女の子たちは拍子抜けしたといった感じだった。
そんなみんなに気づかれないように大地くんの方を見ると、大地くんはいなかった。代わりに朱音の背中が見えた。なんだか寂しそうな背中だった。
そう思う私もなんだか気分が落ち込んでいた。
そこからは私の、いや私と大地くんの話は終わり他愛のない話で盛り上がった。こうしてクラスメイトと話す分には楽しかった。
そうしていると予鈴がなり、みんなが席へと帰って行った。
少しだけ大地くんの方を見ようとも考えたけど、目があったら多分、いやきっと顔が真っ赤になるから恥ずかしくて見れなかった。絶対、昨日のせいだよね。考えるだけでも顔を真っ赤になっちゃうもん。
*
いつものように過ごした学校だったけど、放課後に大地くんは担任の山田先生に呼ばれて教室を出て行っていた。
確かに今日の号令の時とかボーってしてたりやけに元気がなかった気がする。
「北条さん?一緒に帰らない?」
朝、声をかけてくれた元気な子がそう声をかけてくれる。お昼もこの子と近くの席の子と食べた。
でも、私は大地くんの事が気になっていた。いつまでもこのままじゃいられないってそう思ってた。何より元気がない。そのことが気になっていたのだ。いつもならなんだかんだで元気そうな笑顔だったのに…。付け加えるなら眠たそうではあったけど。
そんな大地くんと話すためにお誘いを断ろう。私はそう決断した。
「ごめんね。今日は用事があるからまた今度誘ってもらってもいい?」
「えっ?でも…」
誘ってくれた子が何か言おうとしていたけど、もう1人別の子がいう。
「ほら!トーコ!北条さんを困らせないの!行くよ!北条さん、またね!」
そう言って女の子たちは軽く手を振って帰っていった。私も手を振って返した。
誘ってくれた子には本当に悪いと思ってる。けど、やっぱり好きな人のことは気になるんだもん。
その人、大地くんは恐らく山田先生と進路相談室で話していると思う。担任の山田先生が進路相談の先生だったからね。なら、そこに行けば大地くんと会える。まだ会うのは恥ずかしいけど、私が気にしなければいいことだよね?
そう考えた私は早速、鞄を持って進路相談室へと足を向けた。
次回、大地視点に戻ります。