23話 勉強会だったもの
すまない。大地。今回は頑張ってくれ。
俺と楓と朱音は勉強を始める。円形の座卓を3等分に割った様に座っている。2人とも俺の意見を入れてくれてこういう形になった。それなりに距離も空いている。これぐらいなら普通に勉強できるだろう。ふぅ、やるかぁ。
3人で黙々と教科書を書き写したり、ノートを見直したりして勉強をしていた。俺は参考書の問題を解いていた。まあ、姉貴のお古なんだけど。
しばらくすると分からない問題が出てくる。
…やばい。考えても分からない。
俺の手が止まっているのを見たのか楓が声をかけてくる。
「大地くん?分からない問題あったの?」
「あぁ、楓。ここなんだけど…」
俺がそう言っている間に楓は立って近づいてくる。そして、テキストの問題を見ようと膝に手をついて前屈みになり、その時、髪の毛がサラリと流れる。すると楓の髪からフワリと少し甘いシャンプーの匂いがする。そう、俺が期待していた状況。うん、悪くない。悪くないけど朱音?そんなにじーと見ないで。せっかくのこの状況を楽しんでいるから。だから、というか、邪魔するなという意味で見つめ返す。じー。
しばらくすると頬を赤らめた朱音が目を晒す。へへ、勝った。と思っていると
「大地くん…?聞いてた?」
「あ、ごめん。聞いてなかった」
「さっきからずっと朱音を見てたもんね?」
あ、気づいてたのか。それなら言ってくれれば…あ、聞いていなかったの俺だわ。
「いや、その、ごめん」
俺は言い訳できるわけでもなく謝る。バレてるもん。すると楓に言われる。
「大地くん?人の話はちゃんと聞かないとダメだよ?まあ、普段の大地くんならそんな事ないんだろうけど。…なんで朱音を見てたの?胸…?」
楓の言葉は後半にはボソッと独り言のようになっていた。近くにいた俺には聞こえたが、少し離れている朱音には聞こえていないようだった。まあ、確かに胸は楓より朱音の方が…。あ、楓さん。睨まないで。楓も意外とあるよ?
「…楓もちゃんとあるだろ?大丈夫。そこは心配いらないさ」
「大地くん。それはどういう意味、かな?」
俺は楓にだけ聞こえるようにフォローを入れたつもりだったが、明らかに余計な事を言っていた。言った後に気づいた。楓が怒っていることが分かる。やっぱり女の子の身体の事を言うもんじゃない。それを言った俺を一発殴ってくれ。
「ごめん。楓。その、口が滑ったんだ」
口が滑ったって、思ってても言わなかったって事になるよな?やばい。また言葉をミスった。
「口が滑ったんだ?言いたいことはそれだけ?」
「あの、その…。楓!可愛いぞ!」
俺は誤魔化そうとそんな事を言ったのだが、パァン!と俺の左頬に平手が飛んできた。なかなかの、威力、じゃぁねぇか…。止まるんじゃねえぞ…。
「こんなことで可愛いって言われても嬉しくない!バカ!」
「な、なにが、起きてるの…?」
楓の声と平手打ちの音で気づいた朱音。先ほどまで目を逸らしていたので事の状況が読めていないようだった。
「朱音も、可愛いぞ…」
「?ありがと。大地。なんで、倒れているの?」
「いや、気にしないで。楓の平手打ちがなかなかの威力でオーバーリアクションしただけだから」
「へぇ?わざわざオーバーリアクションしてくれたんだ?なら、もう一発いっとく?」
「それで満足するな…いたた!背中を踏むな!?」
うつ伏せで倒れていた俺の背中を笑顔の怖い楓が踏んでくる。
「だって、叩けないから」
「これで喜ぶ奴もいるんだぞ!?俺は違うけど!痛いからやめない!?」
「大地くんにも褒美になる時がくるよ?だから続けるね!」
と、楓がゴリゴリと背中を踏んでくる。靴下越しでも痛いけど、あ、意外と気持ちいいかも。あ、そこいい。と新たな扉を開く手前の俺だった。
*
楓が俺を踏んでいると朱音が近づいてきて腰辺りに馬乗りになる。いや、なんで乗ってくるの?朱音の程よい重みと暖かさ、柔らかい感触で少し興奮してしまう。やっぱり俺の理性は普通の男子高校生だったみたいだ。
「わたしも、マッサージして、あげる」
なんだ、そう言うことか。いや、どう言う事だよ。この状況を見てマッサージと思ったのか?朱音?それにしても、なんで乗ってくるの?
「朱音?乗る必要ある?」
「昔から、こうしてた。お父さん、とかに」
なるほど。なら、仕方ないな?うん。仕方ない。俺は悪くない。むしろ被害者と言っていいだろう。だから楓さん?踏む力を強くしないで。いたた。
「大地くん?朱音に乗られて嬉しそうだね?」
「これは不可抗力です」
「そうなんだ?」
と、相変わらず踏んでくる楓。力が強くなってる。というよりもう両足で乗っていた。多分、朱音の肩を掴んでバランスをとっている。今頃、自分で気づいたのだが意外と頑丈な体だった。部活で鍛えていたお陰もあるのだろうが。お袋、親父、色々ありがとう…!
朱音のマッサージと楓の足踏みマッサージ?で俺は意外と体のコリが取れていた。効果ありましたよ!朱音さん!楓さん!でも、最初はめちゃくちゃ痛かった。もうしたくない。
そろそろいいだろう。と俺は思い、2人を揺さぶり落とそうとする。
「おい、そろそろ降りろぉー!」
「きゃぁ!大地くん!急に揺れないで!!落ちちゃう!」
「ん。分かった」
と、楓はバランス力を発揮し、背中の上に乗ったまま。朱音はそう言って降りてくれた。
あとは楓だけか。ひっくり返れば流石に降りざるを得ないだろう。
「よっこいしょ…!」
「ぁ!大地くん!上見ないで!」
俺が上を向くと同時に楓が言う。もちろん降りながら。着地場所は俺の顔の近く。そういえば彼女たちは制服だった。制服はスカートで、俺は下にいる。清楚な感じの水色の生地のなにかが見えた。なにかだ。その、パンツとかじゃない。そうやって俺は自分に言い聞かせる。そうしないと男子高校生には非常にまずい。
楓はというと、すぐにスカートをおさえはしたのだが、水色の生地は写真のように残っていた。もちろん俺の頭に。
気まずさから、スッと俺は顔を背ける。偶然、朱音の方を見るようになる。朱音は少し離れたところにいたので見えなかった。なにがとは言わない。見えなくてよかったと思う俺と、残念に思う俺がいた。
突然、朱音が言う。
「楓は、何色だった?」
俺は反射的に答える。
「水色」
「ばか!」
「うぐっ…!?」
顔を真っ赤にした楓に、俺は脇腹を蹴られるのだった。今は仰向けになっていたのでお腹は許してくれたのだろう。
それでも脇腹は痛かった。
そんな事をしているとお袋が階段の下から声をかけてくる。
「大地!そろそろ時間が遅くなるわよ!」
「わ、分かった!」
俺がスマホで時間を確認すると19時前、意外と時間が経っている。
「よ、よし。それじゃ今日は終わろうか」
「ん。」
「今日のところは、許して、あげる…」
と、なにもなかったように朱音と顔を真っ赤にした楓が返事をする。
何故か知らないけど許された俺だった。
これってイチャイチャになるのか…?
しばらく、過去の話を見直します。