20話 大地の趣味
掃除は出来たらいいんだろうけど、きっかけがね?
今、俺の部屋に同級生の女の子が2人いる。楓と朱音だ。本来の目的は勉強会だが、その前に部屋の掃除する予定だ。ちなみにお袋はいない。もう一度言う、お袋はいないと。
つまり、家には3人だけ…あれ?普通なら、この状況やばくない?でも、女の子2人だし大丈夫か!と謎に開き直る俺。
さてと、玄関では2人はワクワクと嬉しそうな顔だったが、俺の部屋に入るなり、その顔は顰めっ面になった。げんなりともいうか?
「大地。流石に、これは…」
「うわぁ、すごいね。これは…」
と、朱音と楓。2人とも俺を見てくる。俺はそんな2人から目を逸らすしかない。
「なんというか…。俺もすごいと思う」
「そう思う、なら掃除すれば、いい」
「しようとは思ったんだけど、思っただけで止まった」
「ねぇ?これ。足の踏み場ある?」
朱音は掃除しろと、楓はその惨状を見て言う。
確かにそうなるよな。まず、ベッドの上とパソコンがある机の上はそれなりに綺麗にしていると思う。俺からしたら、だが。そして、床は一応の足の踏み場はある。しかし、踏み場があるだけで、床自体は見えていない。その床は雑誌や服、配達の段ボールなどで散らかっていた。
「よし!3人で頑張ろう!!」
俺は3人を強調して言った。改めて見ると1人じゃとても掃除できない。俺の部屋、酷いわ。
「ん。言いように、使われてる、気がするけど、頑張る…!」
「うん!大地くん?早速始めるね!」
と、2人がやる気を出してくれた事にホッとしたが、俺は忘れていた。あるものを…。
*
2人がある程度掃除してくれて、床が見え始めた頃。楓がベッドの下から服やらシーツやらを引っ張り出していた。その隙間に見えたのだ。樹が置いていったちょっとエッチな本が。決して成人にならないと見れないものではないが、それでも女の子に見せるのには気が引ける。
その本はある人物のものだった。
『なあ?大地。この本を俺だと思って、置いといてくれないか?』
『なら、捨てるか…』
『聞いてただろ!?友達を捨てるか!?俺だと思ってくれよぉ!』
『あー。分かったよ。静かにしてくれ。とりあえず、置いとくから早く持っていけよ?』
『もちろんだ!恩に着るぜ!大地!』
自分の部屋が親に掃除されるから、と樹が俺の部屋に持ってきていたのだ。俺が見るために預かっている訳ではない。本当に。
でも、樹はどっから持ってきたんだろうな…?
と、そんな事を考えている場合ではない。この本をあの2人に見せるわけにはいかない。どうなるかは分からないが、想像したくないようなことが起こるだろう。
そういう訳で俺は本を確保するために行動する。
「なあ?楓?そのシーツとか服。俺が下に持って行くから貸してくれ」
「大地くん?さっきまで何もしなかったのに?…まあ、いいけど」
と、少し棘のある言い方をする楓。確かに俺は何もしていなかったから言いたくもなるだろう。確かに、それはすいません…。
「あぁ、助かる。…あの?離してくれません?楓さん?」
「なんで、助かるのかな?」
「楓、その間、何かある」
と、楓と朱音のコンボが発動する。あ、朱音!それを掴まないで…。
「大地。これ、なに?」
「朱音?なにそれ?…っ!?」
例の本を見た朱音がジト目でこちらを見る。楓はその本を見ると、途端に顔を真っ赤にしていた。俺、見てないから分からないけど、そんなにすごいの?興味が出てきた。しかし、その前にしないといけないことがある。言い訳だ。
「それ、樹なんだ…」
「樹…?あ!同じクラスの里山くん?」
「そうなんだ、楓。だから捨てるわけにはいかなくて…」
「楓。パス」
「うん」
「あぁ!いつきぃー!」
そうして俺は樹(えっちな本)を失った。今はゴミ袋の中。楓が朱音にパスして、朱音がゴミ袋にシュートしていた。ボールを相手のゴールにシュート!超エキサイティング!と俺の頭で実況者が喋っていた。
さてと、ここは素直に怒られときますか…。俺は少し床が見えてきた地面に座る。正座で。
「あの、本当にすみません…」
「「…」」
「申し訳ございませんでした!」
ここは剣道をしていたからだろう。2人の沈黙に負けた俺は、土下座が見事なまでに綺麗にできたと思う。剣道している人が土下座が上手な訳ではない。正座が上手なだけだ。
「はぁ、分かったよ。これじゃ進まないし。朱音?もういいよね?」
「ん!大地。土下座、綺麗だった」
と、2人ともなんというか、俺をいじっていたのか?そこまで怒っていないように思う。それとなぜか満足そうだった。しかし、朱音さん。土下座を褒められても嬉しくはないぞ。
*
床も綺麗になった頃に楓が部屋の端にあるクローゼットに興味を持ち始める。
「ねぇ?大地くん。クローゼットは掃除しなくて大丈夫なの?中にゴミを詰め込んだりしていない?」
「失礼な。その中、開けて見てみ?」
「わあ!なんかすごい。ドラマの特殊部隊の人とか、こういうの持ってるよね?」
楓がそう言うもの仕方ないと思う。クローゼットの中は数回しか使っていないサバゲーの装備とか入っているのだから。
「サバゲーってやつで使うんだけど。親父に連れられて何回かすることがあってさ。全部、親父に買ってもらったから、捨てるにも捨てれなくて」
「そうなんだ。ならそのままにしておくね!」
「ああ。それよりも他の掃除を進めよう」
「うん!そうだね!」
と、楓に掃除を促す。してもらっているのに何様だと思うかもしれないが、朱音が2人で何話してるんだオーラを放っていたから仕方ない。サボってた訳じゃないのよ?
そんな朱音は、机の上を掃除していた。
「大地。これ、いる?」
「朱音。悪いけどパッケージは、いる。ベットの上に放り投げて置いてくれ」
「ん。分かった。それと、パソコンは、何してるの?」
「そうだな?ゲームとか動画見たり、あとはネットショッピングかな?」
「そう?ゲーム、なにする?」
「色々だよ。色々。夜は樹とよくゲームするけど」
「そう、なんだ」
少し考えるようにしていた朱音はそんな回答で納得してくれたみたいだ。その間にも机の上は綺麗になっていた。楓の方もそろそろ終わりのようで俺の部屋はスッキリと、そして綺麗になっていた。
*
掃除が終わる頃には、満足げな2人は汗をかいていた。2人とも掃除するために半袖短パンで動きやすい格好をしている。そんな状態で汗をかいてしまうと、髪や服が肌に張り付き、なんというか非常に色っぽい。これは見続けていると俺がやばい。主に理性が。
目を逸らすついでにスマホで時間を確認する。夕方だが、日がじきに沈むだろう、そんな時間の18時頃。実に掃除に1時間半はかけた事になるだろう。むしろ、よくそれで終わったなと思う。楓と朱音の手際が非常に良かったのだが。
スマホを確認した時にお袋からメッセージが来ている事に気づく。
『今日遅くなるから、ご飯はいつものね』
『分かったよ』
と、俺は返信する。いつものと言うのは冷凍食品とかカップラーメンのことだろう。またには食べるが、やはり普通のご飯には劣る。だからボソッと言ってしまった。
「今日も冷凍食品か…」
楓に聞こえてしまっていたか。
「大地くん。今日、お母さんいないの?」
「ん?そうだけど、よくあることだな」
「…それじゃ、私が晩御飯を作ろっか?」
「楓。ありがたいけど、掃除してもらったうえで、ご飯まで作ってもらうのは流石に悪いから大丈夫だ」
「大地。わたしも、作る。だから、いいよね?」
「朱音まで…。そこまで言うならお願いしようかな。今日は3人で食べよう」
「え?いいの?私も?」
「いやいや、作った人が食べない、と言うものおかしな話じゃないか?むしろ食べてくれないと俺が気にする」
「なら、ご相伴に預かろうかな…?」
「楓。大地は、そんな事を、気にしない」
と、朱音。
本当に俺だけ食べるとか気まずいにも程がある。多分、楓は材料費とかを考えていたんだろうけど、そんなものはもちろん俺から出す。朱音はそれを分かっているようだ。
「なら、近くのスーパーに買い出しに行こうか。うちの冷蔵庫、冷凍庫以外何もないから。っと、それと2人は着替えてきた方がいい。その、目のやり場に困る…」
俺がそう言うと、楓と朱音はお互いの姿を確認した後、頬が赤くなっていた。
前の後書きは嘘だったのです。
作者はエッチな本なんて見ていない。本当だぞ!?