16話 幼馴染とのショッピング
休みのはずなのに普通に仕事に行っていた作者です。
仕事、午前中で終わらなかった…
今回は少し長いかも。
俺たちは、電車を降りて5分ほど歩いたところのショッピングモールに入る。朱音が少し前を歩いて先導してくれた。そんな朱音がある店の前で止まる。
「こことか、どう、かな?」
「うん。良さそうだ。とりあえず入ってみようか?」
まあ、普通に服屋だ。俺でも聞いたことある名前。赤い看板に白い文字が書かれている衣料品店。もちろん俺は来たことがなかった。
店内に入ると朱音が迷いもなくメンズコーナーを進んでいく。それに着いて行く俺。
「これ、大地に合うと、思ってた」
と、朱音が白いシャツとベージュのカジュアルパンツを渡してきた。それを受けとる。
「分かった。ちょっと試着してくる」
さて、試着室で着てみたのだが、姿見鏡で見る限り、案外似合っていた。俺でも似合うもんだな。朱音に見てもらうか。
「朱音?どうだ?」
「んー。わたしの見立て、どおり」
と、朱音がニヤリとした顔をする。朱音のそんな顔も意外と似合ってるな。だが、朱音からお墨付きをもらったので買おうと考える。
「なら、買おうかな。値段は…。おっ?意外と安いもんだな」
「わたしたち、高校生には高い、けど、大地、お金持ってる?」
「実は今日のために親父がお金をくれていたんだよ。2着分はいるだろうからと、多めにくれた」
「そう、なんだ?じゃあ、もう1着、買っちゃおう?」
「だな」
そう言った俺は朱音に言われるままもう1着分買うのだった。
*
服は買い終わったものの、今の俺は真っ黒。黒子のように目立つ事はない。そのせいか時々、朱音が声をかけられていた。
「ん?君、暇?あ…。ごめんね?デート中だったね」
「今1人?なら、俺と…。あ、彼氏?いたの?」
と、朱音に話しかけてから俺の存在を認識出来ているようだった。ある意味俺の才能か?それとも、朱音が眩しすぎて俺が影になっているのかもしれない。そう思おう。俺の心の平穏のために…。
でも、ナンパして来た男に、朝みたいにしつこいやつはいなかった。みんな意外といいやつなのか?でも、男が隣にいる女性にナンパしてる時点で好感は限りなくない。
「ねえ?大地?手。」
と、朱音が何か言いたそうだ。
俺の手を見ると無意識に朱音の手をとっていた。マジ?俺。
冷静に考える。俺の存在は何故か目立たない。なら、朱音に手を繋いでおけば、認識されるんじゃないか!?これだ!と、誤魔化しを考える。
「ほら、手を繋いでおけば、俺を彼氏と思って話しかけてくるやついなくなるだろ?だから、許してくれ…」
朱音に怒られる、そう思ったのだ。だって勝手に手を繋いんだもの。女の子的には彼氏でもないのに手を繋がれるのは嫌だろう。と俺は考える。しかし朱音は顔を真っ赤にしながら、
「ん。許す。だけど、もう少し強く、握らないと、ダメ」
「…分かった。痛かったら言えよ?」
と、俺は握る力を強くする。しっかりと握ると、朱音の手は柔らかくてふにふにしていた。小さくて暖かくて、守りたくなるような、そんな手。俺も女の子と手をつなげて嬉しいし、ナンパも流石に減るだろう。
朱音は先ほどから赤らめた顔をさらに赤らめていた。
さて、もう昼か。今日は奢らせてもらおう。と俺は考えていた。
「朱音?そろそろ昼だけど何が食べたい?今日のお礼に奢るぞ?」
「んー。分かった」
と、朱音。反応がおかしい。なんか適当すぎないか?手を朱音の顔の前でヒラヒラしながら言う。
「おーい、朱音?どうした?」
「っ…!?なんでも、ないっ!」
と、気づいたように、いきなり下を向く朱音。今日はいつもの前髪がないので、真っ赤にしているお顔がよく見れる。非常に可愛らしい。
「とりあえず、お昼どうする?」
「…わたし、あのお店、行きたい」
「分かった、行こうか」
と、ボソッと言った朱音が指差したアンティーク風な軽食屋さんに入る。
お店の見た目に対して値段はお手頃。俺には親父に貰った金の余裕もあるし。もしかして親父、この事も計算に入れていたのか?と考えながら昼を過ごすのだった。
*
「はい、大地。あ、あーん」
と、朱音が手に持ったサンドイッチを手に持って口元に持ってきた。
「いや、朱音?自分で食べれ…」
「あーん!ほら、大地。口、あける」
「分かったよ。あー、ん!美味しいな。このサンドウィッチ。カツはサクサクで、パンにはカツのソースが染み込んでるな。中にカラシも入ってるのか。これは食欲をそそられるな」
と、あーんをしてくれた朱音に対してではなく、サンドイッチの感想をペラペラと口に出す俺。だって恥ずかしいし。
「そう?なら、よかった」
と、少し恥ずかしかったのか、頬を赤らめた朱音は安心してた。
その後も時々、いや、ほとんどあーんして食べさせられたが、俺には朱音の考えが分からない。仲の良い人にするようなものだろうから、嫌われては居ないんだろうが…。
そんなこんなで昼食後、朱音とウインドウショッピングをしていたら夕方になっていた。
「そろそろ帰るか…」
「そうだね、明日は、学校、だもんね」
「あ、朱音、その荷物持つぞ?」
「ありがと。大地」
と、朱音が先ほど買って来た袋を受け取る。こういう時も親父が(省略)。
2人で駅に向かいながら他愛のない話をしていた。
すると、朱音が疑問を投げて来た。
「えっと、大地?この間の、女の子。どうしたの?」
「あぁ、北条さんのことか。同じクラス委員になってこれからお世話になりそうなんだ」
「それにしては、距離、近かった。この間、一緒に、お昼ご飯、食べてた」
あー休日前の学校の昼休みね?クラスメイトから生暖かい視線で見られているとは思ったが、まさか朱音も見ていたなんてな。でも、普通に仲良くなりたいからでは?と思い、
「確かにあの時は食べたな。誘われるままにって感じだったけど。でも、普通に仲良くするならあることじゃないのか?」
「男の子と、女の子。しかも、2人きりは、彼氏彼女、じゃないと、ないよ?だから、大地。あの女に気をつけて、って言ったのに…」
へー。男女で2人食べる事はないのか。あまり人との付き合いをしないから知らなかった。でも、なんでダメなんだろうな?しかも、朱音は北条さんに気をつけろって言ってくるし。彼氏?彼女?俺と北条さんが?もう訳が分からない。
俺はパンクする頭についていけなくなっていた。
「大地。明日からは、わたしも一緒に、お昼、食べる」
「ん?分かった」
とりあえず返事したが頭に入って来ていない。
なんて言った?お昼を一緒に食べるって?別に問題はないだろう。朱音が一緒がいいって言ってるんだから断る理由もない。
だが、明日の昼は何が起きそうな気がした。
*
そんなこんなで、俺たちは暗くなってきたので、ショッピングモールから駅に行く。電車に乗り、最寄りの駅で降りる。
駅から出ると冷たい風が吹いていた。周囲は街灯がつき始め薄暗くなっている。そんな事を考えていたら、
「大地。手、つなごう?」
と、朱音が恥ずかしそうに手を出してくる。
「分かった。寒いもんな」
と、俺は出された手を握った。なんの考えもしないで手を繋いだ訳だが、普通に恥ずかしく感じる。そんな考えとは別に朱音の手はやはりとても暖かかった。
そうして家の前まで帰ったのだが、そこで仕事帰りの親父と会ってしまった。朱音と手を繋いだ状態で。
「おかえり。大地。おや?その子は平坂さんの娘さんじゃないか?服を買いに行くと言っていたが、まさか女の子と、だったとはな」
と、親父。視線が俺と朱音の繋いだ手に向いている。
「あ、おじさん、お仕事、おつかれ様です。大地。わたし帰るね?楽しかったよ」
「俺も楽しかった。また明日な」
「うん!」
朱音はそう言って隣の家に帰っていく。
「大地。邪魔しちゃったか?」
「別に。それより親父。今日やけに早く帰って来たな。なにかあったか?」
「いや、そういう訳ではないけど。僕のラブコメレーダーがなにかを感じたんだが…?」
「は?ラブコメレーダー?何言ってんだ親父?」
「おっと、それは冗談だけど、少し休みをもらえたからね。早めに帰って休めと上司から言われただけだよ。残業しすぎて心配された」
「なんだそんなことか。そんじゃ家入るか」
「あぁ、大地。話したいことがあるからリビングにね」
そういう親父に続いて俺は家に入る。
リビングで椅子に座る俺と親父。2人だけだ。お袋はキッチンで晩御飯の用意をしている。
「それで大地。前に相談して来た女性とは、朱音ちゃんのことだったのか?」
親父は朱音のことを知っていたが、前に相談したのは北条さんの事だろう。女性の前で他の女性のこと考えてるのはやばいってやつ。
「いや、違うよ。朱音とは学校で話すことはあまりないし」
「それなら、ほかの子、ということか。クラスメイト?」
「そうだけど?」
「うん、なるほどね」
と、親父はニコニコとしていた。とにかく嬉しそう。
「分かったよ。大地。話してくれてありがとうな」
そう言って、機嫌良さそうな親父が解放してくれた。
間もなくして晩御飯を食べたのだが、やはり親父の機嫌がよく、テンションが上がっていた、と思う。普段飲まないお酒を飲んでいる。
俺はこのテンションに巻き込まれるのは嫌だと思い、早々に部屋に帰って、樹といつものゲームをした。
今日のことを話すと樹は驚いたような、呆れたような、そんな声をしていたと思う。というより、買い物は樹とでよかったのでは?と思ったが、部活があるのだそうだ。
「そんじゃ、また明日な!樹」
「おう!明日は平穏に過ごせるといいな!」
そう言って俺たちはボイチャを切る。
さて、寝るか…。と、俺は今日の事を振り返りながら寝るのだった。
大地の親父にはノーコメントで。
親父のせいで、あくまで親父のせいで、大地は無意識に落としにかかる事でしょう。