10話 慣れてくる教室
作者は舞台を用意するだけ。
あとは登場人物がどうするかで変わる。
そう作者は見守るものなのだ。
俺たちは学校まで走ってきた。いきなり北条さんが急ごう!と走りだし、俺は負けじと走って追い抜いて、そのまま俺が先を走る形になったのだ。
そして、その状態で教室の前に来る。
「ふぅ…。間に合ったな」
と、疲れた俺。
「はぁはぁ、もうへとへとだよぉ」
と、少し後ろから声がする。振り返ると、額に少し汗を滲ませた北条さんがやって来た。妙に色っぽい雰囲気を纏っている。
「北条さん、意外と体力ないんだね?」
「む?神谷くんが走るからだよ!私、ついていくだけで大変だった!」
白い頬を膨らませながら北条さんが言う。片方の頬だけリスみたいだ。でも、走り出したのそっちじゃん?
俺はその言葉を飲み込み、教室に入り席に座る。
そして北条さんに声をかける。
「ほら、もうホームルーム始まるよ?」
「も、もう少し時間あるでしょ?それまで休憩!」
そう言って、俺の背中に北条さんが体を預けてきた。後ろから抱きしめらように。
背中越しにだが、でも確かに伝わる熱や柔らかさ、それと耳にふぅ…と息をかけるようにしている。あの、幸せなんですが、これはちょっと普通の男女としてはやりすぎなのでは?そう言う意味で俺は声をかける。
「あのー北条さん?」
「んー。なに?」
「その、心臓に悪いです」
「分かんないかなー?」
そう言って、北条さんは背中から離れて、しゃがみながら、机の上で肘をついて自分の頬に両掌を当てていた。悪戯する子供のように口角を上げた北条さんはとても魅力で思わずドキッとしてしまった。
「まだ分かんない?」
「その、分からない…かな?」
「もう!でも、それも神谷くんだよね?」
俺が誤魔化すように言うと、怒ったような、しかし納得するようにして、北条さんが離れて行く。
俺はドキマギしながら、ホームルームが始まるのだった。
この時、俺は自分の事で精一杯で周りを見ていなかったのだが、教室では慣れたように2人を見る視線が増えていたのだとか。樹が悔しそうに言ってきた。
*
昼休みになると、北条さんがすぐに声をかけてきた。
「神谷くん!一緒に食べよう!」
シンプルな食事の誘い。普通の男子高校生として、とても嬉しいです!
俺はもちろん肯定の言葉をする。
「いいよ。いいけど、どこで食べる?」
そう俺が疑問を口にすると、北条さんが自分の机をバシバシ叩いていた。ここで食べるという意味だろう。意味は分かるのだが叩きすぎで机が可哀想だ。
そして俺が向かっていると、北条さんが前の席の子に声をかけて椅子を借りていた。手際良すぎない?
俺は北条さんが借りた椅子に感謝の言葉を言いつつ座ろうとする。
「ありがとう。北条さ…?あの、なんで椅子を隣に並べてるんですか?」
「こっちの方が近いよ?」
俺、今頃気づいたけど、北条さん、かなりの天然だわ。まじで世界登録されていいくらい。
仮に俺が座ったら、一つの机だと密着状態になるし食べにくいだろう。何より俺が落ち着かない。心臓が耐えきれない。
「確かに近いけど、それは近すぎるよ。食べにくいからせめて正面だね?」
「うん…。分かった」
北条さんは渋々、本当に渋々、椅子を渡してくれた。なんで、そんなに渋々なの?そんなに近くで食べたいの?可愛いかよ!ちくしょう!と俺は心で発狂していた。お陰でちょっとは冷静になった。
廊下側からクラスメイトとは別の視線があったのだが、こんな状態の俺はもちろん気づく事はなかった。
今頃、作者も気づいたけど、北条さん、天然なんか…?
あとね、読者とクラスメイトは、北条さんと神谷くんの関係わかってると思うよ?




