9話 ルーティン
ぼちぼちとやります。
学校を出ると、春にしてはやけに冷たい風が吹いていた。
「あー、寒いな」
俺は呟くように言う。
「だね!まだ春なのに日が沈むと、こんなに寒くなるんだね」
俺の独り言のような言葉に北条さんは言葉を返してくれる。儚げに笑う北条さんはやっぱり可愛らしかった。
そんな帰り道は他愛のない会話をした、と思う。
なんというか、夢を見ていたようで意識がはっきりとしていなかった。それも北条さんのあんな表情を見たからだと思う。
また明日。そう言って北条さんと家の前で別れた。
*
「今日はこのゲームやろうぜ!」
いつもよりテンションの上がっている樹がそう言って、いつもの時間より少し早めにゲームに誘ってきた。
「ホラーゲームか。少し早くないか?」
「そんな事ないって!今でも結構人気あるし。やろうぜ!」
そんな樹の勢いに負けるように樹からプレゼントで送られて来たゲームをダウンロードする。多分、ダウンロードする時間を考えて早めに連絡したのだろう。
「へー。声とか認識するのか」
「そうそう。それで幽霊が答えてくれたりするらしいぞ!ただ、まあ、固定のワードとかあるみたいだけどな。アピールとか、どこにいますか?とかだな」
話を聞く限り意外と楽しそうだ。簡単に言うと、幽霊の調査員になり、いろんなアイテムを駆使して、その幽霊の種類を特定する。そんな内容だった。
早速、樹とゲームをプレイする。
樹のキャラがラジオのようなものを持って、話しかけている。
「あ、アピールしてください…」
最初のテンションはどうしたのか、おずおずと言った感じの樹が定例文を使って喋っている。それも無理はないだろう。舞台は、夜の家。家の中に入るとかなり暗い。ライトとかなかれば何も見えなくなるほどだった。正直、かなり雰囲気がある。
そんな中、樹のキャラが持っているラジオから反応があった。「next、you」と聞こえた。次はお前だ、そう言う事だろう。これを聞いた樹は意外と冷静だった。
「よ、よし!スピボ反応あったな。そこにチェック入れといて」
「分かった」
俺は樹に言われるまま、操作した。その操作で俺たちはゲームの画面では本を開いてその項目にチェックを入れる。
チェックをいれ終わり、閉じると、同時にうめき声と共に斧を持ったゾンビの風体をした幽霊が現れる。
予想外なことに俺は驚く。
「うわ!なんかやべぇのいるって!樹、入口閉まってるけど、どうすればいい!?あ…」
「あー、襲われた時は黙って逃げるのがセオリーなんだよ」
「マジか」
そう、樹が伝えて忘れていたように言うのだった。
それから、俺たちはしばらくの間、このゲームをプレイするようになったのだった。
寝る時になると先程の樹とゲームしていた内容を思い出してなかなか寝付けなかった。
これは明日、遅刻するかな?
そう思いながら俺は眠った。
*
はい、案の定。俺はギリギリ歩いても遅刻しないかな?程度の時間に起きた、というより起こされた。朝食を食べる時間もなく家を出る。
家を出ると、
「おはよう!お寝坊さん?全く起きてこないから、心配しちゃったよ!」
そう笑いながら待っている北条さんがいる。
さっき、お袋が鬼気迫る勢いで起こしてきたのはそういうことだったのか。そりゃ、女の子を待たせる息子がいたら、そんな勢いにもなるよな。と一人で勝手に納得していた。
ただ、一つ疑問がある。
「ごめん。待たせたみたいで。北条さん。その、朝に待ち合わせとかしてたっけ?」
そう、北条さんがいる理由が分からなかったのだ。
クラスメイトではあるし、同じクラス委員でもあるけど、一緒に登校する理由にはならない。
「その、嫌だった…?」
「いや、もちろん大丈夫だよ」
北条さん、流石にその顔と言葉は反則です。並大抵の男じゃ断れないです。
悲しそうに俯きながら言う北条さんに、俺は了承の言葉以外浮かばなかった。
「やった!それじゃ行こ?」
先ほどと打って変わり、そう言って笑う北条さん。
とても魅力的な可愛さだった。
北条さんは元から積極的だったけど、さらに拍車がかかるかも。
ちなみに樹と大地のやっていたゲームは、某幽霊調査員のものだったり。